
前半のストーリー
ミステリ作家志望の君島は、文章力を評価されるも謎解きのトリックが弱いと編集者に指摘され、トリックは強いが、文章力に乏しい引き籠もりで、極度の人見知りの雛森寧子を紹介される。外出を嫌がる寧子を小説のネタ集めと称し、連れ出した先で出会ったのは、喫茶店で砂糖壺からコーヒーに大量の砂糖を入れる女、降りしきる雨のなか傘を壊す男……。不可解な出来事に、寧子は鮮やかな推理を披露する!? 文庫オリジナル。
UNEXT
◆登場人物
君島羽理衣……ミステリ作家志望の大学生
佐久間栞……ミステリ系出版社の編集者
雛森寧子……極度の人見知りで、引き籠もり中
雛森蓮……寧子の姉
『雛森寧子のミステリな日々 コンビ作家の誕生』
紺野天龍(著)
PHP研究所
2024年3月6日発売
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感情トリガーとあらすじ、場面
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【感情のトリガー↓】0~190P(スマホ)
①砂糖対戦【笑・怪・訝/解】
②傘を折る男【謎・訝/肯】
【トリガーの内訳】
①砂糖対戦
├寧子の饒舌【笑】(アハハ)
├喫茶店の客【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
└隠したモノ【訝/解】(ハ?/ナルホド!)
②傘を折る男
├奇行の理由【謎】(ナゾ)
└天気の盲点【訝/肯】(ハ?/(タシカニ)
【刺激された感情の種類:6種】
思考🤔:★★★★★
解=不可解が解明される(1)
訝=疑問を抱かせる言動や描写(2)
謎=行動や現象に不可解を残す(1)
肯=諭す言葉に納得してしまう(1)
恐怖😣:★
怪=様子に違和感を覚える(1)
攻撃👊:★
笑=想定外な事象が滑稽すぎる(1)
①砂糖対戦
あらすじ——
ミステリ新人賞に落選していた非モテ大学生の君島羽理衣は、美人の担当編集者に書き下ろしの原稿を読ませるも才能がないと見限られてしまう。が、ミステリ志望に拘泥する彼の文章力は評価されていたので、ある人物の原稿を紹介される。
それは何とも拙い文章で小説と呼べるものではなかったが、読者の裏をかくという点に置いては君島よりも優秀。その子と組むよう勧められるのだった。
心の準備をする間もなく担当の佐久間について行った君島は、高級マンション住まいの優美な雛森蓮と対面し、その妹である件の寧子と初顔合わせをする。
小学生と見紛うほどの形に極度の人見知り、若干の吃音もみられる。歳が一つ下の雛森寧子は高校を退めてから未だ引き籠り中だという。
流れでコンビを組むことになった君島は、雛森蓮から妹の社会復帰更生プログラムに協力してほしいと頼まれ、むずかりくねる寧子を喫茶店へと連れ出す。
ミステリについてよくわかっていなかった寧子に『日常の謎』から物語作りを始めてみようと提案した君島は、早速、来店していたお客さんの奇妙な行動を提起し、その謎を推理し合うのだった。
❶寧子の饒舌【笑】
稚拙な文章だがミステリ創作のポテンシャルは高い雛森寧子と、文章力はあるが肝心なミステリが凡下な君島が初めて出会い、引きこもり中である彼女の社会復帰更生プログラムの一環として喫茶店に二人だけで来店していたシーンである。
仲睦まじげなカップルと入れ替わりで入店すると、君島と寧子はお客のいない閑散とした店内のテーブル席に座った。
恐恐とする寧子からコンプレックスである名前のほうを呼ばれると、君島は呼び名を変えてほしいとお願いする。『ハリー・ポッター』好きの母親が付けた名で、その主人公と被ってることが嫌だったのだ。
すると、吃音混じりのぎこちない言葉で畏まってしまう寧子。
だが、自分を卑下するときだけは饒舌になっていた。
りーくんと呼ぶことにした寧子も、自分のことを『寧子』と呼んでほしいと君島にお願いした。そのほうがお友達っぽく感じられるからだという。しかし、言っておいて烏滸がましく思ったのか、寧子はまた饒舌に自分を卑下していくのだった——。
ここで思わず笑ってしまいました。
セリフの中にある寧子の感情の双極性が面白い。
臆病で自尊心のない風体なのに、「こんな自分なんて〜」と続く自分を見下すセリフには躍動感が見られるのですから。
❷喫茶店の客【怪】
入店した喫茶店で、ミステリについての見識が疎い寧子に君島が易しく説明していたとき、いつの間にか空になったカップが置かれていたテーブル席に新しいお客が付いていたシーンである。
ふと店内を見渡した君島は、その人に注目してしまった。地味な服装にキャップを目深に被った女性である。
人目を恐れる寧子に彼女のような服装をおすすめしていると、店員が女性客のまえにコーヒーを運んできた。
女性客はシュガーポットから砂糖をコーヒーに入れたのだが、その量がなんとも異常。一杯でも十分な甘さなのに、八杯も入れていたのだ。
スプーンでかき混ぜた女性客はコーヒーを飲み干し、ハンカチで口元を拭った後、早々と退店していったのだった。
——ん!? なんだろう?
寧子の姉である蓮さんが尾けていたのだろうか? 二人の視線に動揺してしまって砂糖を入れすぎてしまい、慌てて立ち去ったとか?
涼しい天気だったというのに、頬から汗が流れていたのも怪しい。
これが『日常の謎』というやつなんですね。
❸隠したモノ【訝/解】
女性客の奇妙な行動を先ほど目撃した君島は、これをミステリ小説のネタにしようと考えた。
なぜ女性は一人で大量の砂糖を使ったのか?
その答えとなる最もらしい理由を推理できれば、ミステリが書ける。
喫茶店のテーブル席に付いている寧子に君島は自分の推理を披露してみせるが、淡々と論破されていた。
じゃあ、寧子ならどんな推理をするのか?
それを彼女が活き活きと語っていくシーンである。
——は? と思ってしまう問題提起。
そして、合理的な謎の答え。
寧子の推理に脱帽であります。
②傘を折る男
あらすじ——
喫茶店で思いがけない『日常の謎』と僥倖した君島は、それを推理してみせた寧子の才能を目の当たりにし、コンビを組むことにした。
その一週間後、君島が執筆した『砂糖対戦』という短編小説が担当編集者に評価され、以降、君島と寧子のコンビ作家生活がスタートする。
それから一ヶ月後、執筆作業が停滞していた君島は、担当の美人編集者から寧子ちゃんの閃きをサポートするよう促される。
姉妹でなにやら立て込み中の雛森家へ訪れた君島は、美容院を拒み続けていた寧子を説得し、彼女に付きそう形で高級マンションを後にする。
寧子の散髪を店内のカウンター席で見届けていた君島は、小説のネタ探しで困っていることを打ち明けると、五十代の気さくな店長から最近思い当たる日常の謎を聞かせてもらう。
『雨の日に傘を折っていた男』という面白い謎と邂逅した君島と寧子。ウィットに富む彼らの推理が開かれる。
❶奇行の理由【謎】
寧子の髪を担当している店長の大崎は、このまえちょっと変わった人を目撃したという。
旧友と飲み屋で深酒していたある日の帰り道、スーツを着た若い男性が街路樹になんども激しく傘を打ちつけていたのだ。そのビニール傘は折れてボロボロになっており、男は強い雨脚で全身びしょ濡れ状態。なんだか鬼気迫る形相で身の危険を感じるほどだったらしい。
すると、若い男性はやがて駅のほうへ走り去って行った。その男とすれ違いざま、「これでバレない……」という呟きを残して。
——なぞ。
スーツ姿の若い男性は何を隠したというのか?
僕の想像では、男は酒の飲み過ぎで失禁してしまったズボンの汚れを隠したかったのだろう。全身濡れていれば失禁したとバレないし、傘が壊れてれば濡れていた言い訳ができるしね。
❷天気の盲点【訝】
美容院で『傘を折る男』の行動理由を述べていた君島の推理を、百点満点中の五点だと評した対人恐怖症ぎみの雛森寧子。
彼女は君島に重大な勘違いをしていると指摘した。
若い男性は帰路についていたのではなく、これから行くところだったのだと。
——は?
たしかに朝なのか夜なのかはっきりと書かれていなかったので怪しみましたが、ちゃんとヒントは描写されておりました。まったく盲点であります。
飲み屋の帰りときたら、やはり夜を連想してしまいますよね。さすが先入観に捉われない寧子。素晴らしい。
後半の感情トリガー
【感情のトリガー↓】190~413P(スマホ)
③背赤後家蜘蛛の会【ー】
④毒入りチョコレートクッキー事件【蟠】
【トリガーの内訳】
③背赤後家蜘蛛の会
④毒入りチョコレートクッキー事件
└寧子の傷心【蟠】(キニナル)
【刺激された感情の種類:1種】
不幸😫:★
蟠=中途半端でまだ未解決(1)
全体を通してのプロット
A【人物・世界観の説明】
○ミステリ新人賞に落選していたミステリ作家志望の非モテ大学生——君島羽理衣には、その文章力を評価されて美人の担当編集者が付いている
a【物語が始まる起点・問題】
☆君島の書いたミステリ小説のトリックが、いつもゴミだと担当編集者から通告される
B【発生した問題への対処】
○担当編集者が君島に、文章力はないがミステリの才能はある担当の作家とコンビを組むようアドバイスし、自宅に引き籠り中の雛森寧子を紹介する
b【問題の広がり・深刻化・窮地】
○喫茶店で女性客が大量の砂糖を使っていた謎
○美容院の店長が目撃した傘を折る男の謎
○背赤後家蜘蛛の会の主宰者が出したクイズ
○寧子のトラウマとなった毒入りチョコレートクッキー事件
C【人物の葛藤・苦しみ】
○寧子に拒絶されてしまった君島が、その原因となった毒入りチョコレートクッキー事件の真相を一人で追う
c【問題解決に向かう最後の決意】
★都合の良い結論を導き出し、寧子を元気づけようとしていた君島に閃きが降り、その推理を伝えに雛森家へ向かう
D【問題解決への行動】
○君島が毒入りチョコレートクッキー事件の真相を解き明かし、寧子の笑顔をとりもどす
読了した感想
◆ライトミステリも嫌いじゃない
死人が一人もでない日常の謎を推理していく物語ですが、じゅうぶん僕の思考を刺激してくれて楽しかったです。
◆寧子のギャップが面白い
対人恐怖症を患っているような児童体型の19歳——引き籠り中の雛森寧子は、じゃっかんの吃音を有しておりました。
そんな彼女が饒舌に話す瞬間があります。
自分のこと卑下するとき。
論理的な会話をするとき。
ミステリの推理を語るときなんか、目元を隠していた前髪を「あ〜鬱陶しい」と言ってヘアピンで留めだし、人が変わったように活き活きとしますからね。
◆3話のミステリの提示は分かりづらかった
背赤後家蜘蛛の会——毎月最後の金曜日に赤毛の女性が集まってする秘密の食事会——に招かれた君島と寧子を含む参加者たちに、主宰者が謎解きのお題を出すのですが、普通にネットで検索すれば答えが解ってしまいます。
まるでそれが今回のミステリであるかのように参加者たちが真剣に推理し合っていましたが、違ったのです。
3話のミステリは、「なぜ主宰者が赤毛の女性を集めて秘密の食事会をしているのか」でした。
でも、食事会を終えた寧子があっさりと推理しちゃったので、肩透かしを食らった気分です。
◆最終話は意外でした
文章担当とミステリ担当という相互補完関係にあった君島と寧子ですが、その寧子がある事件をきっかけに君島を拒絶してしまいます。
その事件の真相をミステリの才能がない君島が一人で探し、想像力と閃きによる推理で解決したのですから意外。
めでたく二人はまたコンビ活動を続けていきます。
一話完結型の短編集——テンポも良いですし、ライトノベルのような感覚で読める楽しい物語でありました。
『雛森寧子のミステリな日々 コンビ作家の誕生』
紺野天龍(著)
PHP研究所
2024年3月6日発売
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※:執筆者の独断と偏見が含まれます。
※:本ページの情報は2024年5月時点のものです。
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