サスペンス・ミステリー

スマイル・ハンター 憑依作家 雨宮縁(感情トリガー/紹介/あらすじ/感想)

謎のカメラマンを追うクライム・ミステリ

人気推理作家・雨宮縁。執筆時、作品ごとに主人公に成りきる姿は多重人格さながらで、憑依作家と呼ばれていた。寿退社をした恩人の夫の自殺に不審を覚えた雨宮は、担当編集者らを使い、真相を調べ始める。すると、幸せの絶頂から不幸のどん底へ突き落とされた被害者が続々と浮上、雨宮は犯人を炙り出すため、周到な罠を仕掛け……。狂気を裁く新クライム・ミステリー誕生!

◆登場人物
かま宏和ひろかず……元出版社勤めの32歳フリーカメラマン
かべ顕里あきさと……蒲田に取材の同行を依頼する五十がらみの元上司
いいゆき……黄金社の営業だった未亡人
雨宮あまみやえにし……年齢不詳の憑依作家
庵堂あんどう……雨宮縁の助手

◆あらすじ
 出版社を離れてフリーのカメラマンになった32歳のかまは、ゴールデンウィークのなぎさでミサンガをつけた幸せそうな家族の写真をカメラに収めていた。後日、黄金社に勤める元上司の恰幅いいかべの仕事依頼で、ゴミ屋敷の取材に同行することとなる。その間、移動中の電車で人身事故に巻き込まれた日もあったが、取材を迎えた当日のこと。真壁の懸念で元黄金者の営業部門だったいいの自宅へ向かうと、ゴミ部屋のなかで首をっていた彼女を発見する。幸い未遂で助かった飯野は入院することとなり、蒲田は真壁と後日、さいじょうの取材に同行する。そこで蒲田は、ある家族葬の中に浜辺で見かけた母親と子供を目撃し、亡くなったのが父親だと知る。この前の人身事故でうかがった腕の切れ端にも同じミサンガがしてあったことから、この父親は同一人物であることがわかった。翌日、蒲田は次の装丁デザインの参考に、ある写真投稿サイトをチェックするのだが、そこには蒲田も撮っていた浜辺の子連れ夫婦や生前の夫と仲良く写っている飯野の姿が掲載されているのであった。『U』と名乗っているこの写真投稿者は何者なのか? 蒲田は、真壁から紹介された人気ミステリー作家の雨宮あまみやえにし邂逅かいこうし、『U』の話題に雨宮が興味をもつ。幸せそうに写っている被写体が、二組も不幸に見舞われている。これは偶然の出来事だったのか、それとも……。自分の執筆する登場人物に、姿・性格までも完璧に再現してしまうひょう作家——雨宮縁がかじを切る捜査班に蒲田も加わり、謎の投稿者の正体と事件の真相を追う。

【目次】
プロローグ
第一章 幸福な家族の肖像
第二章 死者のミサンガ
第三章 ミステリー作家 雨宮縁
第四章 シャッターを切る『U』
第五章 雨宮縁捜査班
第六章 スマイル・ハンター
エピローグ

【感情トリガー】
プロローグ(刃物を持った人の襲来)
 ├突然の襲撃【呆】(ッ⁉︎——)
 └兄妹の安否【蟠】(キニナル)
第一章(幸福な家族の肖像)
 └紐ミサンガ【察】(マサカ…)
第二章(死者のミサンガ)
 └構えてた男【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
第三章(ミステリー作家 雨宮縁)
 ├ご飯が届く【謎】(ナゾ)
 └被写体の死【訝】(ハ?)
第四章(シャッターを切る『U』)
 └奇才雨宮縁【興】(ワクワク)
第五章(雨宮縁捜査班)
 ├AIの判断【知】(ヘェ~)
 └所有者調べ【知】(ヘェ~)
第六章(スマイル・ハンター)
 └突き出た腕【呆】(ッ⁉︎——)
エピローグ(次の巻への伏線)

【刺激された感情の種類:8種
驚度😳:★★
 呆=突然で呆気にとられる(2)
思考🤔:★★★★★
 知=豆知識を教えてくれる(2)
 訝=疑問を抱かせる言動や描写(1)
 謎=行動や現象に不可解を残す(1)
 察=ヒントから展開の予測がつく(1)
不幸😫:★
 蟠=中途半端でまだ未解決(1)
恐怖😣:★
 怪=様子に違和感を覚える(1)
乗気🤩:★
 興=まだ未開な出来事への期待(1)

全体を通してのプロット

A人物・世界観の説明
○昨年まで『黄金社』という出版社で装丁部に勤務していたかま宏和ひろかず(32)は、現在、品川区のマンション住まいでフリーのカメラマンをしている。

a物語が始まる起点・問題
☆『黄金社』の元上司であるかべから情報誌に載せる写真撮影の依頼が入り、蒲田は取材同行を頼まれる。その後、仕事で浜辺に来ていた蒲田は、ある幸せそうな子連れ家族をカメラに収める。

B発生した問題への対処
○蒲田は真壁が取材するゴミ屋敷に同行するが、最後の取材相手の自宅で女性が首を吊っているところを発見する。その女性は『黄金社』の営業だった飯野深雪で、新婚の時に夫を亡くしていた。

b問題の広がり・深刻化・窮地
○真壁の依頼で火葬場の取材に同行した蒲田は、家族葬の中に、以前浜辺で撮った親子を目撃する。亡くなったのは父親で、蒲田が乗っていた電車の人身事故と同一人物であることが判明する。
○蒲田が見ていたある写真投稿サイトに、浜辺の家族と飯野の写真が掲載されていた。投稿者は『U』と名乗っており、奇妙な偶然に不審感を抱く。
○真壁から紹介された憑依作家——雨宮あまみやえにしの調べにより、『U』の撮った被写体が他にも不慮の事故で亡くなっていたことが判明する。

C人物の葛藤・苦しみ
○謎のカメラマン『U』に殺人疑惑が浮上し、雨宮縁が発起した捜査班に蒲田も参加する。
○火葬場で蒲田が目撃していた謎の人物——『U』と同じカメラを持っていた——を、防犯カメラの録画映像から捜査していく。

c問題解決に向かう最後の決意
★雨宮縁が企てた『U』を炙り出すおとり作戦を、蒲田も協力する捜査班が決行する。

D問題解決への行動
○連絡つかなくなった仲間の自宅に、蒲田が駆けつける。

読了した感想

取材のときのリアルっぽさが素晴らしい

 フリーのカメラマンになったかまが黄金社の元上司に同行し、ゴミ屋敷の取材におもむくシーンであります。ほんとに取材したんじゃないかと錯覚するほど住人の描写が生々しかったんですよ。玄関開けたらリビングまでゴミだらけ。そんな部屋でどうやって生活しているのか? そこに住んでいる人の心境はどんな感じなのか? 取材するときは着替えが必須のようです。匂いや汚れが付いてしまうから。いやぁ〜、生々しかったであります。

◆火葬場の蘊蓄うんちくが興味深かった

 ゴミ屋敷の取材でかまかべを迎えにいったシーンであります。蒲田と朝のファミレスに入った真壁が、明日も取材に付き合ってほしいと言い、その場所がさいじょうでありました。蒲田はノンフィクション部の編集者なので、現場のリアル感を求めています。そこで彼が言っていたのは、火葬場に残った残骨灰ざんこつばいには価値があるとのことでした。治療した後の貴金属が遺灰にのこっているからです。人間って、死んでも価値があるんですねぇ。下の引用は京都市の内訳です。

市は今秋、保管場所にある昨年1~9月分の残骨灰(約39トン)から、約35キロの貴金属を抽出した。量と売却見込み額の内訳は、金約7・2キロ(約5980万円)▽パラジウム約6・3キロ(約5670万円)▽銀約21キロ(約190万円)▽プラチナ約0・2キロ(約103万円)の計約1億1950万円。金属を抽出し、圧縮された残骨灰は2・3トンまで減容され、再び保管場所に戻した。市では今後もほかの残骨灰についても同様に取り扱うという。

産経新聞『火葬場「遺灰」から金プラ 自治体が「換金」の是非』2022/10/16

 凄いですよねぇ。億ですよ、億。回収後に残った残骨灰は、作中にもあったように人工ダイヤとして生まれ変わっているかもしれませんね。

◆作家本人もミステリーな雨宮縁が気に入りました!

 この物語、かま宏和ひろかず(32)の視点がメインなのですが、正直、凡人の彼には魅力が欠けていました。興が湧いてこないのです。が、蒲田がこれから出会ってしまう憑依作家——雨宮あまみやえにしは違います。若い男性、女性、ときには老人にまで仮装して人格までも変えてしまう能力を持っているのです。どこか飄々ひょうひょうと捉えどころがなく、本当の年齢も名前もしょう。謎なのです。こりゃあ、興が湧くというもの。それに雨宮は犯人側の心理的行動にも詳しいという魅力を持っています。さすが憑依作家。犯人のプロファイルもできちゃうということですね。

◆プロローグの回収がまだ中途半端でわだかまる!

 森中の家で暮らす家族が、突然何者かに襲撃されてしまうという悲劇から物語は展開していきます。情景描写が上手いので緊張感が伝わってきました。雨の激しさ、轟く雷鳴、窓を叩く小石の音——夜の嵐のなか、中学生と小学生の兄妹が侵入者に襲われていく恐怖感。子供たちはどうなってしまったのか? エピローグまで引っ張られ、悶々もんもんとさせられましたね。しかし、まだ中途半端。次の巻に続きます。ん〜〜なんという商売上手。次の行動への導入も抜かりないですねえ。

スマイル・ハンター 憑依作家 雨宮縁
内藤了(著)
祥伝社
2020年3月20日発売

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