
無理心中の謎に迫るハンター・ハンター
憑依作家・雨宮縁のデビュー版元の女性事務員が幼子と無理心中を起こした。縁の担当編集者・真壁は、生前の言葉が頭から離れなかった。「最近、息子がパパと遊んでいるようなの」モラハラ離婚の直後だけに、真壁は彼女の凶行とは信じられなかった。一方、縁はシングルマザーによる無理心中に殺人の匂いを嗅ぎ――人間の本性を抉るクライム・ミステリーの真骨頂!
UNEXT
◆登場人物
真壁顕里……出版社『黄金社』ノンフィクション部門のアラフィフ編集者
蒲田宏和……元『黄金社』装丁部の32歳フリーカメラマン
飯野深雪……スマイル・ハンターの被害に遭った元『黄金社』の未亡人
雨宮縁……自分の小説の主人公達に成り切るミステリー人気作家
『キサラギ』……二十歳前後の銀髪青年
『響鬼文佳』……四十がらみのモデル風マダム
『大家東四郎』……着物を着た痩身の爺さん
庵堂貴一……雨宮縁の助手
岡田……モラハラ夫の被害者で黄金社のパート従業員
◆あらすじ
ノンフィクション部門の編集者——真壁顕里は、担当するミステリー人気作家雨宮縁のサイン本制作をパート従業員の岡田に手伝ってもらい、彼女から奇妙な話を聞かされる。モラハラ夫とは離婚して会ってもいないのに、五歳の息子が『パパ』の話をするというものだった。
後日、編集総務の女性から件の岡田が無断欠勤しているとの報告があり、真壁は仕事終わりに彼女の様子を見に行くことにする。仕事の打ち合わせで会った縁らも真壁に付きそい、岡田の住む団地へ向かう。すると、二日前までは元気だった岡田が、家のなかで息子と無理心中していたのであった。
真壁はモラハラ夫による偽装殺人を疑うが、彼にはアリバイがあったという。
しかし、雨宮縁の調べによると、過去十年で同様の無理心中事件が数件起こっており、これは同一人物による連続殺人なのではないかと縁は踏んでいる。その背後に恐ろしい組織を感じとった縁は、担当編集者の真壁とフリーカメラマンの蒲田を施設捜索班に加え、この事件の真相を追う。
【目次】
プロローグ
第一章 パパ
第二章 新作の打ち合わせ
第三章 有楽町ガード下あたり
第四章 雨宮縁私設捜索班
第五章 ネスト・ハンター
第六章 理想的な巣
第七章 チーム縁のトラップ
エピローグ
【感情トリガー】
プロローグ(縁が目撃した惨状の伏線)
第一章(パパ)
├パパの話題【訝】(ハ?)
├近所の証言【謎】(ナゾ)
├男ものの靴【察】(マサカ…)
└出した兇器【呆】(ッ⁉︎——)
第二章(新作の打ち合わせ)
└緊急SOS【知】(ヘェ~)
第三章(有楽町ガード下あたり)
└車載カメラ【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
第四章(雨宮縁私設捜索班)
第五章(ネスト・ハンター)
└若い清掃員【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
第六章(理想的な巣)
第七章(チーム縁のトラップ)
├犯人と対面【興】(ワクワク)
└真壁の叫び【嘲/察】(ハハ/マサカ…)
エピローグ(縁の服用薬の伏線)
【刺激された感情の種類:8種】
驚度😳:★★★
驚=予想外の出来事(2)
呆=突然で呆気にとられる(1)
思考🤔:★★★★★
知=豆知識を教えてくれる(1)
訝=疑問を抱かせる言動や描写(1)
謎=行動や現象に不可解を残す(1)
察=ヒントから展開の予測がつく(2)
攻撃👊:★
嘲=茶番さを小バカにした半笑い(1)
乗気🤩:★
興=まだ未開な出来事への期待(1)
全体を通してのプロット
A【人物・世界観の説明】
○編集者の真壁顕里は、担当している雨宮縁のサイン本制作を、彼のファンだと言うパートのシングルマザー岡田と進めてるなか、彼女から身近にあった不可解な話を聞かされる。
○件の岡田が無断欠勤していると知らされた真壁は、不審に思って仕事終わりに彼女の様子を伺いに行こうと決める。
a【物語が始まる起点・問題】
☆打ち合わせで会った雨宮縁に岡田の件を真壁が話すと、今から彼女の自宅へ一緒に行くという流れになる。
☆岡田の自宅に上がり込んだ真壁と縁が、子供と心中している彼女の遺体を発見する。が、現場の様子から、縁は無理心中ではないと推察する。
B【発生した問題への対処】
○縁から送られた十年前の類似事件の画像を見た真壁が、岡田の無理心中事件を単独で探っていく。
b【問題の広がり・深刻化・窮地】
○心中事件がこの十年で4件も品川区で起きていたことが縁の調べにより判明する。
○真壁と蒲田が以前、帝王アカデミーの葬儀を取材していた件で、彼らは知らずに恐ろしい組織を敵に回していたと縁から告げられる。
○雨宮縁は、前のスマイル・ハンターも今回の犯人も帝王アカデミーの『洗脳実験』で操られた人達で、黒幕の犯人がいると考えている。今回も同一犯による連続殺人を示唆。
C【人物の葛藤・苦しみ】
○縁による私設捜索班が手分けして事件を捜査していく。
○犯人の引き金となった最初の事件の真相を追う。
○真壁の知人刑事を動かす手土産をゲットするため、縁と助手が犯人像と一致する人物の自宅を捜索する。
c【問題解決に向かう最後の決意】
★犯人が次のターゲットを狙っていることが分かり、チーム縁が捕縛する作戦にでる。
D【問題解決への行動】
○ネスト・ハンターとの対峙と逮捕。
読了した感想や気づき
◆今回はおっさん視点がメイン!
前回の『スマイル・ハンター』では、フリーカメラマンの蒲田宏和(32歳)がメインの視点で描かれていましたが、今回は編集者の真壁顕里(50代)——ミステリー作家の雨宮縁(?)を担当する——の視点がメインとなっています。
冴えないおっさんが汗だくで活躍する話なんて読者は好まないと担当の縁を窘める真壁でありましたが、そんな真壁をメインにしていたあたり、著者は今の流行に対して反骨精神が滾ったのかもしれませんね。
若いって、それだけで尊いことだし、僕らは尊いものに惹かれる傾向がありますよね? その逆をいくなんて挑戦的だなぁと感心しました。個人的には、年齢よりも魅力の方を重要視しちゃいます。異常犯罪者すらも懐柔してしまうハンニバル・レクター博士みたいな謎とカリスマ性のある人物なら喜んで読みますね。
◆雨宮縁の目的がついに判明!
未だ性別も年齢もはっきりとしないもどかしさが残っておりますが、縁がなぜ小説家になったのかという理由が語られておりました。『スマイル・ハンター』のプロローグとエピローグの伏線が関わってきます。
十五年前に起きた一家五人殺傷事件で夫婦は死亡、十二歳の長男と六歳の次女は重症。犯人は十八歳の長女の交際相手で、逮捕されたのち拘置所で自殺。長女だけが無事でありました。長女は父親が創設した帝王アカデミーを継ぎ、御曹司の亭主に社長を任せますが、最近、その亭主が不幸で亡くなっております。
長女の名は月岡玲奈(33歳)。
片桐寛と先妻の娘で、長男と次女とは腹違い。
帝王アカデミーの豪華な葬儀に現れた縁が、月岡玲奈に囁いていました。
「ネエサンオメデトウマタツミヲオカシタンダネ」
縁は、この事件もスマイル・ハンターも無理心中事件も黒幕の犯人がいると疑っており、帝王アカデミーの関係者に潜んでいると推察しています。
縁の目的は黒幕の犯人を追い詰めることだったのです。
闇に葬られた事件を暴き、小説にすることによって。
◆また蟠りを残すエピローグ
ついにネスト・ハンターを逮捕し、事件解決した最後のエピローグ、縁が犯人と争ったときに落とした錠剤の内容が明かされます。その錠剤はピルケースに入っておりました。
その錠剤を調べると免疫抑制剤であることが判明。臓器移植を受けた患者が服用する薬です。
縁の命を救った臓器提供者がいるということを意味し、その人物が一家五人殺傷事件の犠牲者なのかもしれません。
重症で亡くなった長男の片桐涼真なのか?
それとも次女の片桐愛衣なのか?
縁は月岡玲奈のことを「ネエサン」と呼んでいたことから、片桐寛と先妻のもう一人の子供という線も考えられるし、犠牲者の記憶が縁に移植された臓器に残っているという線も考えられますよね。
『ネスト・ハンター 憑依作家 雨宮縁』
内藤了(著)
祥伝社
2021年2月8日発売
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