
元特殊部隊の不逞な輩が島を略奪!?
〈不穏〉すぎる警察小説大賞受賞第一作!君に配置転換を命ずる。新たな赴任地は天照島――SATの精鋭だった中田数彦は、指揮系統を無視した暴走ぶりを咎められ、島流しの憂き目にあう。中田は駐在員として島民たちの平和を守る日々を送る…はずはなかった。大麻栽培に励むベトナム人や怪しげな色魔シャーマン、そして裏金刑事。中田は、そんな悪党たちを凌駕する悪魔的振る舞いで新たな島の王たらんとする。争いは、SIT係長の谷垣浩平や本土のヤクザも巻きこんだ異種格闘技戦に発展。中央政界の陰謀も見え隠れするなか、真の勝者は? 「プロレスなら不穏試合だ!」――作家・相場英雄氏も驚愕のラスト!◎警察小説大賞受賞第一作。
UNEXT
◆登場人物
中田数彦(25)……元特殊部隊(SAT)制圧第一班班長
谷垣浩平(42)……捜査一課特殊班(SIT)係長
川村年雄……特殊部隊・指揮班班長
高田悟……捜査一課特殊犯捜査係専任管理官
浅岡泰造……元暴対係長
野尻良孝……新警視総監
天乃由依……長女
天乃癒阿……次女
天乃柚介……長男
天乃遊太……次男
◆あらすじ
指揮を執っていた捜査一課特殊班の谷垣は、先日のテロ事件解決までの間で被疑者のうちの一人を死なせてしまったこと、また、狙撃班の仲間が撃たれて負傷を負わせたとして謹慎処分を下されていた。そんな折、警視総監室に呼ばれた谷垣は、警視庁存続の危機となる裏金問題の証拠隠滅を極秘で命じられるのだった。
一方、テロ事件を起こした未成年被疑者を独断で容赦なく射殺し、撃たれて療養中だった中田——警視庁の問題児である特殊部隊員——も警視総監室に呼ばれ、上司から処遇を告げられる。現職解任配置転換。新たな赴任先は都内に位置する天照島であった。
中田が現地の駐在警官と入れ替わるや否や、早速島民とトラブルを起こしていく。何も聞かされていない天照島について傍若無人に嗅ぎまわり、とんでもない秘密を知ってしまう。違法な売春、外国人労働者の不法滞在、大麻栽培と密輸……それらを統治している怪しげな天乃家の姉妹兄弟。
中田はこの天照島を乗っ取り、天乃家の利権をすべて奪おうと考える。これは不当な処遇に恨みをもっていた悪漢警察が、島の支配者になろうと進撃していく譚である。
【目次】
プロローグ
第一章 絶海の魔境
第二章 新しい王
第三章 全歩方位沸騰
エピローグ
【感情トリガー】
プロローグ(警視庁の汚点)
第一章(絶海の魔境)
├島の脱走者【蟠】(キニナル)
├まわし蹴り【酷】(ヒドッ!)
├震える柚介【訝】(ハ?)
└パワハラ漢【蔑】(キモチワル)
第二章(新しい王)
├疑念が確信【蟠】(キニナル)
├祭祀の冒涜【酷】(ヒドッ!)
├柚介の傷跡【解】(ナルホド)
└中田の配慮【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
第三章(全歩方位沸騰)
├中田の蟠り【仮】(モシカシテ)
├島の内通者【蟠】(キニナル)
├天乃家討伐【奮】(ブルッ!)
├外れる弾丸【訝】(ハ?)
├柚介の犯罪【訝】(ハ?)
├島の内通者【清】(スッキリ)
└浅岡の真似【呆】(ッ⁉︎——)
エピローグ
【刺激された感情の種類:10種】
幸福☺️:★
清=怨みや蟠りが解消される(1)
驚度😳:★★★★
驚=予想外の出来事(1)
呆=突然で呆気にとられる(1)
酷=情け容赦ない悪魔的な行動(2)
思考🤔:★★★★★
解=不可解が解明される(1)
訝=疑問を抱かせる言動や描写(3)
仮=実現性がある程度高い仮説(1)
不幸😫:★★★
蟠=中途半端でまだ未解決(3)
攻撃👊:★
蔑=愚劣な行いを見下す(1)
乗気🤩:★
奮=戦闘に挑んでいるような感覚(1)
全体を通してのプロット
A【人物・世界観の説明】
○特殊班の谷垣(42)が指揮を執るテロ事件の解決で、狙撃犯の中田(25)が被疑者の一人——日本刷新党の未成年者——を独断で射殺していた。
○配下の失態の責任として谷垣は謹慎中。
○犯人に撃たれていた中田は療養中。
○谷垣と中田は警視総監室に呼ばれ、上司達から今後の処遇を言い渡される。
a【物語が始まる起点・問題】
☆東京都に属する天照島で、非合法な売春や薬物取引が行われており、その裏金の一部が警視庁内の者に渡っていた疑いが出てくる。もし、この事実が明るみに出れば、警視庁の信用は失い、警視総監の責任となる。
B【発生した問題への対処】
○組織の厄介者——中田を天照島に左遷する。彼が島で悪漢を働くのを見越して、すべての罪を被らせる。
○谷垣には、抵抗するだろう中田の制圧と、大麻利権と警察の関わる証拠を全て隠滅してもらう。
b【問題の広がり・深刻化・窮地】
○島に左遷された中田が天照島の秘密を嗅ぎ取り、島の利権を全て支配しようと目論む。
○停職中の谷垣が、天照島と裏金で繋がっている連中を突き止めていく。
○島民を敵に回しながら傍若無人に振る舞っていた中田が、警告を無視したがために生贄の宣告を受ける。
○大麻に偏愛している現総理大臣の妻から、天照島の大麻畑について露見してしまう恐れがある。
C【人物の葛藤・苦しみ】
○生贄の宣告を受けた中田が、外国人労働者を手駒にし、戦争に備えていく。
c【問題解決に向かう最後の決意】
★天照島を乗っ取るため、中田は島民を従える天乃家との決戦を決意する。
★天照島の噴火警戒発表と、島民と中田との争いが重なり、谷垣がついに非公式任務に臨む。
D【問題解決への行動】
○兵士を従えた中田が、島民や本土のやくざと戦争する。
○谷垣が率いる機動隊が島を制圧しにくる。
読了した感想
◆とんだ曲者の主人公だった!
なんと『煉獄島』は『対極』という作品の続編だったことを読み終えてから知りました。だから、序盤で登場する特殊班の谷垣浩平(42)が主人公かと思っていたのですが違いました。特殊部隊の中田数彦(25)です。こいつがかなりの悪党ぶりを披露してくれるもんですから驚きましたね。主人公なのかよ!——と。いかにも最後はやられる悪役さながらの行動をとっておきながら、のさばり続けてしまうというクレイジーな展開に驚歎でありました。
◆アクションシーンにしびれる!
島に左遷された元特殊部隊の中田は、訓練成績も優秀で史上最高の記録を残しているとのこと。駐在中もトレーニングは欠かさず、自分の栄養管理にまで気を遣える中田は、とかく実戦に強いのです。その実力に酔いしれる中田は島で跳梁跋扈していくのですが、一筋縄ではいかない敵たちが登場します。犯罪者の気質があるベトナム人に、大麻の取引相手であるやくざ連中、体格に恵まれた天乃家の兄弟。中でも、長男の天乃柚介は元総合格闘技のヘビー級チャンピオンで、締め技のエキスパートときてます。まさにグラップラーですね。中田の主観による描写なので、なかなか緊張感のあるアクションシーンでありました。
◆煉獄島にはミステリーがいっぱい!
物語の発端となる警視庁の裏金問題。いったい、誰々が島の利権を貪っているのか? 警視庁に垂れこんでいる島の密告者も気になるところ。
また、目に余る行動で左遷を余儀なくされた中田が、まだ暑さの続く初秋の海をジェット船で進むなかで目撃した、溺れ掛けの若い女も気になります。天照島から逃げ出すように泳いでいたのです。謎ですよね?
そして、島を事実上統治している天乃家の姉妹兄弟。島の祭祀を執り行う四人家族ですが、長女と次女だけは常に別行動をとっています。神々に仕えるシャーマンの素性が気になりますよね? 本土で総合格闘技のチャンピオンになった柚介の抱えている罪悪感。これのせいで、柚介はある締め技が使えなくなりました。彼の過去になにがあったのか?
煉獄島自体にもミステリーがあります。火山をハート型に囲んだ島を中田が探索していくと、それ以上進んではいけないと島民から警告を受けます。禁忌を破れば命を落とすと脅されるのです。本当にこの島には神々が存在するというのか? 実際、何人も亡くなっているそうで、その真相は不明。最後まで読ませるテクニックがふんだんに当てがわれていて素晴らしいですね。
◆その後が気になる!
島の秘密を知ってしまった傍若無人の中田に死の宣告が告げられ、ついに島民との戦争に発展していきます。中田は自分の兵隊を集め、島を乗っ取るために戦っていくのですが、事態はさらに混沌となり、恨みを買っていた本土のやくざや、中田の始末を命じられている谷垣の機動隊までが来襲。まさにバトル・ロワイヤルとなってしまったこの状況に、どう決着をつけるのか?
そこを敢えて曖昧にされているので、煉獄島の島民や天乃家が生きているのかも不明です。
個人的に気になっているのは、天乃由依に起きた神秘的なシーンですね。武装した中田に追い詰められていたはずなのに、彼女は動揺せず、ただ凝然と佇むだけでした。彼女は宣言通りのことをやってのけたのです。
次女の天乃癒阿による祝詞の詠唱も不思議を残しています。山に風をもたらしたのは偶然だったのか、それとも……。
説明のつかない超常現象が漂っていて面白かったですね。
『煉獄島』
鬼田竜次(著)
小学館
2024年6月6日発売
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