サスペンス・ミステリー

【クローズド・サークル】十角館の殺人(感情トリガー/感想)

クローズド・サークル×ミステリー

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!1987年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。(講談社文庫)
UNEXT

◆登場人物
エラリイ……法学部三回生の不遜な青年
カー……一年浪人法学部三回生の野暮ったいしゃくれ顎男
ポウ……医学部四回生の恰幅良い髭男
ルルウ……文学部二回生の謙遜な童顔小男
ヴァン……理学部三回生の痩躯な青年
オルツィ……文学部二回生の小胆で卑屈な小女
アガサ……薬学部三回生の陽気で高慢ちきなソバージュ女
かわみなみ孝明たかあき……K**大学の三回生。元推理研の会員
しま……江南の捜査に協力してくれる寺男
もりきょういち……本土に残ってる推理研の会員

◆あらすじ
 同じ大学の推理小説研究部員七名が、休暇旅行も兼ねて角島つのじまという無人島に渡航する。島に上陸した彼らは外壁が十面あるじゅっ角館かくかんに外泊するのだが、二日目の朝、ある事件が発生する。館のホール内に殺人予告とも取れる謎のプレートが置かれていたのだ。一気に不穏と化した館内で、一人……また一人と参加者が殺されていく……。
 一方、去年まで同じ推理研の会員だったかわみなみの自宅に、謎の怪文書が送られてくる。差出人の男の名は、半年前に角島の本館炎上で焼死していた中村なかむらせいだった。去年、推理研の飲み会で亡くなったおりの父親である。
 なぜ、今になって死者から送られて来たのか?
 江南は怪文書の送り主を突き止めるため、角島青屋敷炎上事件の真相を追う。
 クローズドサークルで起きるデスゲーム。犯人は同じサークル仲間の誰かなのか? それとも、中村青司を騙る第三者が仕組んだものなのか? なんとも挑戦的なミスリードの数々に翻弄されること間違いなしの傑作ミステリー!

【目次】
プロローグ
第一章(一日目・島)
第二章(一日目・本土)
第三章(二日目・島)
第四章(二日目・本土)
第五章(三日目・島)
第六章(三日目・本土)
第七章(四日目・島)
第八章(四日目・本土)
第九章(五日目)
第十章(六日目)
第十一章(七日目)
第十二章(八日目)
エピローグ

【感情トリガー】
プロローグ
第一章(一日目・島)
第二章(一日目・本土)
 └参加者の名【察】(マサカ…)
第三章(二日目・島)
 ├台上の置物【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
 └沈黙の犯人【謎】(ナゾ)
第四章(二日目・本土)
第五章(三日目・島)
 ├第一被害者【悲/訝】(ナンテコッタ!/ハ?))
 ├謎かけ問題【諦/解】(オテアゲ/ナルホド!)
 └ばたつく足【呆】(ッ⁉︎——)
第六章(三日目・本土)
第七章(四日目・島)
 ├浴室のなか【訝】(ハ?))
 ├外野の痕跡【興】(ワクワク)
 └重要な記憶【訝】(ハ?))
第八章(四日目・本土)
 └青司の図り【訝】(ハ?))
第九章(五日目)
 ├ワンピース【悲】(ナンテコッタ!)
 ├第三被害者【訝】(ハ?))
 ├幾筋の足跡【蟠】(キニナル)
 ├マグカップ【訝】(ハ?))
 ├海を通る謎【推】(マテヨ…)
 ├異様な喉声【呆】(ッ⁉︎——)
 └巨大な業火【茫】(????)
第十章(六日目)
 └守須の仮名【訝】(ハ?))
第十一章(七日目)
第十二章(八日目)
エピローグ

【刺激された感情の種類:12種
驚度😳:★★★
 茫=不可解な現象を目撃する(1)
 呆=突然で呆気にとられる(2)
思考🤔:★★★★★★★★★★★★
 諦=希望や答えがみえない(1)
 解=不可解が解明される(1)
 訝=疑問を抱かせる言動や描写(7)
 推=謎を解く仮説を考察する(1)
 謎=行動や現象に不可解を残す(1)
 察=ヒントから展開の予測がつく(1)
不幸😫:★★★
 蟠=中途半端でまだ未解決(1)
 悲=悪くなった状況を認知する(2)
恐怖😣:★
 怪=様子に違和感を覚える(1)
乗気🤩:★
 興=まだ未開な出来事への期待(1)

全体を通してのプロット

A人物・世界観の説明
【島】
 同じ大学のサークル仲間——推理小説研究会の六人のメンバー——が、休暇旅行も兼ねていわくつきの無人島におもむ。メンバーは、お互いを推理小説の巨匠の愛称で呼び合っている。角島つのじまじゅっ角館かくかんに到着した六人と、今回のはずを整えてくれたもう一人のサークル仲間が合流する。目的は、四月発行の会誌に向けて、旅行期間中に小説を一作ずつ書き上げること。

a物語が始まる起点・問題
【本土】
 去年まで推理研のメンバーだったかわみなみ孝明たかあきのもとに、怪文書が送られてくる。差出人は、中村なかむらせい。去年亡くなった推理研のおりの父親で、彼も半年前に角島つのじまの館で亡くなっている。江南は推理研の友達宅に連絡をとり、同じ怪文書が送られていたことを知る。

B発生した問題への対処
【本土】
 怪文書の送り主を突き止めるため江南は中村青司の実弟である中村こうろうの宅へと赴く。そこで、紅次郎の知り合いであるてらおとこ邂逅かいこう、怪文書に興味をもった彼と江南で、本土に残っていた推理研のもりきょういちを当たる

b問題の広がり・深刻化・窮地
【島】
 推理研の七名が寝泊まりする十角館。その二日目、殺人ゲームを匂わす手製のプレートが、ホール内に七人分用意される。誰が準備したのか、参加者から名乗り出る者はいない。
【本土】
 江南と寺男と守須の推察から、中村青司の生存説が浮上する
【島】
 三日目、十角館で死者が続出する。四日目、残ってるメンバーで廃墟と化した青屋敷を探索し、誰かがいた痕跡が見つかる
【本土】
 再び訪ねてきた江南と寺男に、紅次郎が兄の死の真実を告白する

C人物の葛藤・苦しみ
【島】
 互いに疑心暗鬼となる残りの生存者たちで、犯行手口から犯人の痕跡を追おうとする。それでも、死者は続出する

c問題解決に向かう最後の決意
【犯人】
 十角館で起きた殺人事件の関係者として、警察の見解を聞きにいく。

D問題解決への行動
【犯人】
 動機と犯行手口をモノローグで告白していく。

読了した感想

最後は天晴れ!

 主人公を敢えて固定していないのは、登場人物の誰もが犯人である可能性を残すためだったのでしょう。このキャラクターは絶対無事だなという安易な想定ができないので、興が冷めることなくラストまで妙な緊張感があります。
 意外だったのは、犯人視点で幕を閉じるという斬新なプロット。探偵役が黒幕を突き止め、解決編で論告するというこれまでの手法じゃないのです。
 なんとも格好いい締め方で感嘆しましたね。プロローグの伏線回収が鮮やかでした。

叙述トリックが巧妙卓越!

 見事に先入観を裏切ってくれました。『島』と『本土』という二つの視点で見せることによって、犯人の手口を見えづらくしています。殺された被害者は、実は生きていたという私の予想の斜め上をいっておりました。ここには、完全犯罪の一部始終が描かれているのです。

◆登場人物の個性の伝え方が上手い!

 例えば、角島に渡航した推理研のメンバー七名。
 エラリイは、自尊心高めの不遜な男で、仕切りたがり。
 ポーは、恰幅良く泰然としていて気配りできる兄貴肌。
 ルルウは、物腰の柔らかい八方美人な小男。
 カーは、プライドの高い隠れナルシストで捻くれ者。
 ヴァンは、自己主張が少ない慎ましさのある痩せ男。
 オルツィは、内向的で劣等感に苛む卑屈な小女。
 アガサは、不安を虚勢で誤魔化す陽気なマドンナ。
 こうやって文字で説明せず、物語の動きのなかで暗示して伝えるという描写が素晴らしい。

◆遊び心もあって面白い!

 五年前に起きた青屋敷炎上事件の真相。現在起きている十角館の連続殺人の真相。二つのミステリを追う楽しみのほか、意外なミステリが用意されています。
 一つは、カードマジック。異なる二つの手品が見れます。種明かしはしてくれませんが、解る人には解る有名なマジックです。難しいテクニックのいらない誰でも出来る手品なのに、知らない人にはインパクトを与えるミステリ。
 もう一つは、謎かけ問題。正直、考えても解けませんでした。(汗)答えを知ったときの悔しさといったら……。
 物語の進行に重要なシーンではないですけど、こういう遊び心は、また違う脳の刺激となって良いですよね。

十角館の殺人〈新装改訂版〉
綾辻行人(著)
講談社
2007年10月16日発売
初刊は1987年。

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