
閉ざされた山荘×不審死×脱出!
山中に隠棲した文豪に会うため、高校の合宿を抜け出した僕と友人の葛城は、落雷による山火事に遭遇。救助を待つうち、館に住むつばさと仲良くなる。だが翌朝、吊り天井で圧死した彼女が発見された。これは事故か、殺人か。葛城は真相を推理しようとするが、住人や他の避難者は脱出を優先するべきだと語り――。タイムリミットは35時間。生存と真実、選ぶべきはどっちだ。
UNEXT
◆登場人物
田所信哉……小説家を志す高校二年生で葛城の助手
葛城輝義……田所のクラスメイトで嘘を見抜ける探偵
小出……不遜な態度が目立つ山ガール
飛鳥井光流……保険会社の調査員で元探偵
久我島敏行……山里で嫁と暮らしてる夫
財田雄山……有名なミステリー作家
財田貴之……雄山の息子
財田文男……雄山の孫
天利つばさ……文男の妹
◆あらすじ
小説家や探偵に憧れる田所は、他人の嘘を敏感に嗅ぎとる探偵——進学高校に通う同じクラスの葛城——と勉強合宿を抜け出し、山中に隠棲している偉大なミステリー作家の屋敷を目指していた。道中、落雷による山火事で引き返せなくなった二人は、一人の山ガールと共に件の落日館に避難する。目的の人物——財田雄山氏は既に寝たきり状態。館に招いてくれたのは息子の貴之と、その長男長女だった。
救助隊が来るのを恃みにする一行だったが、田所と葛城は登山中に財田家の家紋が入ったマンホールを目撃している。もしかしすると地下トンネルへ続く隠し通路があるのではないか。雄山氏の趣味であった屋敷内の仕掛けは、家族もすべて把握していないという。
脱出の可能性を残し、さらに二名の男女が避難を求めてやってくる。近隣に住む男と、そこに保険の調査で訪れていた女。おなじ屋敷に計八名が集まった。
その翌日に事件は起きてしまう。
財田貴之の長女が、吊り天井に潰されて圧死していたのだ。
これは悲劇的な事故なのか?
それとも殺人犯がいるのか? この中に……
謎が謎を呼ぶ難解事件に高校生探偵が真実を暴く、クローズド・サークル・ミステリー開幕!
【目次】
プロローグ
第一部(落日館)
第二部(カタストロフィ)
第三部(探偵に生まれつく)
エピローグ
全405ページ
【感情トリガー】
プロローグ
第一部(落日館)
├靴紐に水滴【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
├靴紐に水滴【知】(ヘェ~)
├名前の不言【蟠】(キニナル)
├財田の反応【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
├小出の態度【訝】(ハ?)
├電話線故障【仮】(モシカシテ)
├平のつばさ【悲】(ナンテコッタ!)
├不幸な事故【訝】(ハ?)
├文男の言動【訝】(ハ?)
├通電のせい【訝】(ハ?)
├彼女の死因【解】(ナルホド!)
└取り乱す女【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
第二部(カタストロフィ)
├悪い犯罪者【驚/訝】(エッ⁉︎/ハ?)
├獲物を横取【呆】(ッ⁉︎——)
├金庫の消失【謎】(ナゾ)
├金庫の痕跡【推/喜】(マテヨ…/オー!)
└穴倉の暗闇【呆/定】(ッ⁉︎/ヤッパリ)
第三部(探偵に生まれつく)
└隠れた真相【訝】(ハ?)
エピローグ
【刺激された感情の種類:13種】
幸福☺️:★
喜=恵まれた状況を認知する(1)
驚度😳:★★★
驚=予想外の出来事(1)
呆=突然で呆気にとられる(2)
思考🤔:★★★★★★★★★★★★
知=豆知識を教えてくれる(1)
解=不可解が解明される(1)
訝=疑問を抱かせる言動や描写(6)
推=謎を解く仮説を考察する(1)
謎=行動や現象に不可解を残す(1)
定=察した予想がピタリと一致(1)
仮=実現性がある程度高い仮説(1)
不幸😫:★★
蟠=中途半端でまだ未解決(1)
悲=悪くなった状況を認知する(1)
恐怖😣:★★★
怪=様子に違和感を覚える(3)
全体を通してのプロット
A【人物・世界観の説明】
高校二年の田所信哉と葛城輝義が通っている進学校で、四泊五日の勉強合宿が予定されている。軽井沢の山奥にある合宿先の近くに、二人が尊敬するミステリー小説の文豪、財田雄山の屋敷があり、田所と葛城は宿舎を抜け出し、財田家を訪問する計画を立てる。
決行当日、登山中の落雷で山火事が発生し、田所と葛城は引き返せなくなってしまう。山頂へと避難するなか、登山中に出遇った山ガールの小出と再び合流し、三人は財田家の屋敷に避難させてもらう。
出迎えてくれたのは、財田雄山の息子と孫たちの三人で、雄山本人は寝たきり状態。
田所と葛城は、登山中に財田家の紋章入りマンホールを見かけていたことを思い出し、隠し通路の探索を提案する。
そんな矢先、新たな避難者が二名現れる。一人は近隣の住人の男で、もう一人は田所が十年前に出会っていた飛鳥井光流という元探偵であった。
計八名となった屋敷内の面々は、救助隊を待つまでの間、連絡手段と隠し通路の探索を試みる。
a【物語が始まる起点・問題】
結局隠し通路は見つからず、連絡手段も火事で絶たれてしまった一行は、屋敷で休息を取ることにする。その翌日、吊り天井の部屋で亡くなっていた財田雄山の孫、ツバサの遺体を発見する。
B【発生した問題への対処】
探偵を名乗る葛城とその助手の田所が、ツバサは事故で亡くなったのか殺害されたのかを検証する。
b【問題の広がり・深刻化・窮地】
宝の在処が書かれた図面の発見。
ツバサの死の原因が判明。
屋敷内に潜むシリアルキラーの疑惑浮上。
関係者たちの正体が判明。
外部犯の疑惑浮上。
ついに屋敷まで延焼。
C【人物の葛藤・苦しみ】
隠し通路の捜索に苦戦。
c【問題解決に向かう最後の決意】
屋敷内からみんなで脱出を試みる。
D【問題解決への行動】
葛城がシリアルキラーの正体を暴露する。
C【人物の葛藤・苦しみ】
対極的な考えの元探偵により、葛城の信念が揺らぎ苦悩する。
読了した感想
◆読み返したときの驚きが楽しい!
閉鎖的な空間で起きたミステリーを探偵が解き明かすクライマックス。葛城がどうしてその結論に至ったのか詳らかに説明してくれるのですが、長編ゆえに証左となるシーンを憶えていないため、推理が正しいか判断はできません。
となると、確かめる必要がでてきます。
本当にそんなシーンが描かれているのかを。
もう感服の極みでございます。ちゃんと伏線としてありました。それらを見逃さなければ、読者にだって解けるかもしれません。
伏線がたくさんありますので、答え合わせを探す過程を楽しませてくれますよ。
◆物語の締めが興味深い!
進学高校二年の葛城は、すこし頭でっかちな堅物君といった印象で、嘘を赦さず、探偵とはこうあるべきだ——みたいな信念を強く持っております。
そんな彼の前に相反する人物が現れます。
10年前に田所が探偵をめざす契機となった、飛鳥井光流という女性。
彼女も推理力に長けた探偵で、葛城における田所のような相棒もいたのですが、……。今は探偵を退いた一般の会社員となっていました。
物語の中盤からも対極し合う二人ですが、まさかエピローグでも議論し合うとは意外でしたね。
探偵としての才能がありながら、それから逃げてるように映る飛鳥井の生き方が、葛城には理解できません。
一方、飛鳥井はその才能に驕ったせいで大切な相方を喪くしています。
嘘に塗れたこの世界に、真実という光を当てるのが探偵なんだと豪語する葛城。対して、光を当てれば、なかった場所に暗い影ができるということも経験している飛鳥井。
両者の考え方は平行線のまま。
おそらく、飛鳥井はもっと慎重になるべきと諭したかったのでしょう。藪から蛇を出してしまった自分の苦い体験を、葛城にもさせまいと。
事件の真相が明らかになり、山火事から逃れてハッピーエンドとなればスッキリするのに、著者はなぜ最後にモヤモヤさせるような締めにしたのか? そこにどんな意図があったのか非常に興味が湧きましたね。
◆あの部分がちょっと納得できかねる
ミステリーの魅せ方、整合性のとれた伏線の回収、どれもほぼ完璧な素晴らしい推理小説なのは言うまでもありません。
ですが、二点どうしても気になる箇所があります。
一つは吊り天井の仕掛けについてです。
ネタバレになるので詳しくいえませんが、天井の上げ下げをコントロールするウィンカーと天井の仕掛けの構図から考えると、どうもおかしいんですよ。
一人じゃ無理じゃない? って思いました。
あの額を飾るには、あらかじめ吊り天井の部屋にいないとできません。ウィンカーは別室にあり、操作した後じゃ構図上不可能な仕掛けとなっています。
でも額は飾られていたのです。ん〜ミステリー。
そしてもう一つ。
嗅覚が関連するところなのですが、これもおかしな理屈がありました。ある一人の人物以外は匂いを嗅げるという条件で推理をされていましたが、それなら犯人も匂いに気づけなかったのは納得できません。
まだ未読の方にはちんぷんかんぷんでございましょう。ぜひ『紅蓮館の殺人』を読んでいただき、確かめてみてください。
『紅蓮館の殺人 』
阿津川 辰海(著)
講談社
2019年9月20日発売
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