
超自然×ジュブナイル×成長物語!
(前略)優しさと切なさに満ちたひと夏の青春を繊細な筆致で描き、第13回小学館ライトノベル大賞のガガガ賞と審査員特別賞のW受賞を果たした話題作。※「ガ報」付き!※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。
UNEXT
◆登場人物
塔野カオル……田舎町の高校二年生
塔野カレン……カオルの妹で五年前に事故死してる
花城あんず……カオルのクラスの転校生
加賀翔平……カオルのクラスメイト
川崎小春……カオルをパシッているクラスメイト
◆あらすじ
田舎町で暮らす塔野カオルは、おなじ高校に通う女子生徒達の会話からウラシマトンネルの噂を耳にする。そのトンネルに入れば、なんでも欲しいもの手に入るという。ただし、代償を払わなければならない。自分の若さを。
五年前に大好きな妹を亡くし、それを機に母が蒸発。残された父は今も悲しみに荒れ、カオルを責めている。
そんな家に居た堪れず、外を夜歩きしていたカオルは、見慣れないトンネルを発見する。中へ入っていくと、なぜか妹のサンダルが置かれていた。
カオルはウラシマトンネルの噂を思い出し、慌ててトンネルを引き返す。手にしてる妹のサンダルは本物。もしも噂が本当なら、カレンを取り戻せるかもしれない。
期待を寄せ、再びウラシマトンネルを訪れるカオルの前に、最近転校してきたばかりの花城あんずが現れる。
ウラシマトンネルの噂は真実なのか?
協力者となったカオルと花城がその謎に迫る、純愛成長ドラマ開幕!
【目次】
第一章(モノクロームの晴天)
第二章(汗とリンス)
第三章(雨上がりの憧憬)
第四章(少女の夢、少女の現実)
第五章(走れ)
終章
全311ページ
【感情トリガー】
第一章(モノクロームの晴天)
├横暴な愚者【怒】(コノヤロー)
├逃げ水と妹【茫】(????)
├妹と虫取り【哀】(カワイソウニ)
├父との関係【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
└学校の連絡【訝/察】(ハ?/マサカ…)
第二章(汗とリンス)
├癪に触れる【呆】(ッ⁉︎——)
└鳥居を迂回【衝】(ビクッ!)
第三章(雨上がりの憧憬)
└濃密な瞬間【悸】(ドキッ)
第四章(少女の夢、少女の現実)
├家の鍵紛失【喜】(オー!)
└花城の悶絶【萌】(カワイイ)
第五章(走れ)
├誰かの気配【驚/訝】(エッ⁉︎ /ハ?)
└過ぎた時間【悲】(ナンテコッタ!)
終章
【刺激された感情の種類:12種】
幸福☺️:★
喜=恵まれた状況を認知する(1)
驚度😳:★★★★★
驚=予想外の出来事(2)
茫=不可解な現象を目撃する(1)
呆=突然で呆気にとられる(1)
衝=不快な驚きによる反射反応(1)
思考🤔:★★★
訝=疑問を抱かせる言動や描写(2)
察=ヒントから展開の予測がつく(1)
不幸😫:★★
哀=予期した不幸に心苦しい(1)
悲=悪くなった状況を認知する(1)
攻撃👊:★
怒=今蔑まれた反射的な衝動(1)
乗気🤩:★★
萌=初々しい照れ隠し(1)
悸=魅力的な異性と急接近(1)
全体を通してのプロット
A【人物・世界観の説明】
真夏の田舎町の通学駅で、塔野カオルが同じ香崎高校に通う女子たちの会話から、ウラシマトンネルの都市伝説を聞く。トンネルに入ると、若さと引き換えに何でも欲しいものが手に入るという。
カオルの二つ下の妹は五年前に事故で亡くなっている。それを機に母は蒸発し、今は役場で働く父と二人暮らし。
同じクラスに女の子が転校してくる。カオルをパシリ扱いしてる女子が、転校生の花城あんずに目をつける。
カオルが夜歩き中にウラシマトンネルを発見し、興味本意で入っていく。
a【物語が始まる起点・問題】
ウラシマトンネルから帰宅すると、時間が一週間も経過していた。
B【発生した問題への対処】
カオルは再びウラシマトンネルに出向き、危険を冒さず妹に会える方法を調査しようとする。
b【問題の広がり・深刻化・窮地】
花城あんずがウラシマトンネルの調査に加わる。
ウラシマトンネルの法則が解ってくる。
カオルは偶然再会した母親から拒絶される。
カオルは父親から再婚相手を紹介される。
漫画家志望の花城に、担当編集者が付く。
C【人物の葛藤・苦しみ】
カオルは妹に会えるまでウラシマトンネルを駆けていく。
c【問題解決に向かう最後の決意】
妹と会えたことで、カオルが現実と向き合う力を取り戻す。
D【問題解決への行動】
カオルと花城が再会を果たす。
読了した感想
◆主人公がけっこう切ない
塔野カオルの生い立ちを考えると、グレてもおかしくないほど辛い体験をしております。妹のカレンが亡くなったのを機に母は自分を捨てて行方を眩まし、カレンの実父である継父からは憎悪を向けられる。思春期の多感な時期にこれは辛すぎる。変わらぬ愛を与えてくれたのはカレンだけ。だけど、もう二度と会うことは叶わない。
生きる喜びを失い、諦念に至った虚しい少年。
なんと切ないことでしょう。
花城との邂逅がなければ、彼は現実とお別れしていたかもしれませんね。
◆カレンとの良い思い出をもっと見たかった
もっと主人公に感情移入したかったのですが、カレンの登場シーンが少ないため、どうしても他人事のように感じてしまいます。周りの時間を犠牲にしてまでもカレンに逢いに行こうとする強い想い、やっと逢えた妹とお別れしなくちゃいけない心苦しさ、理解はできるけど共感にまではいたらずってとこです。主人公の人生を揺るがす重要なキャラなので、いじめっこの川崎以上に登場して欲しかったですね。
◆一歩間違えればホラー感ただよう
ウラシマトンネルに入ると時間が遅延してしまいます。一日いるだけで六年半も現実では時間が経ってしまうのです。
カオルは、果たしてまだ魅力的な花城と再会することができましたが、トンネルから戻る時間次第ではお婆ちゃんになっていたかもしれません。そう思うと怖いですよね? 失恋ですよ、たぶん。
◆劇場版アニメの残念なところ
①川崎小春と、加賀翔平がモブキャラに
少ししか登場しません。時間が限られているから仕方ないのですが。
でも、原作ではカオルや花城の人柄を覗える重要なキーパーソンとなっております。
両親から島流しされた花城あんずは、少し意固地な性格をしており、とても無愛想な子です。周囲に流されない凛然とした面持ちで、いじめっこにも屈しません。
ですが川崎というキャラがいたおかげで、花城にも嫉妬するところがあるのだと教えてくれます。
また、加賀は外向的な性格で、カオルをよく気にかけてくれる良き友達です。彼とのやりとりから、カオルは友達にも気を遣える優しい人なんだと覗えました。
こういった深みが味わえるのは、やはり原作だけ。劇場版では、カオルと花城がほとんどですからね。
②花城が照れ隠しをするシーン
原作では、初めて読んでもらった自分の漫画をカオルから褒めてもらい、花城は自室のベッドに飛び込んで足をバタバタさせていました。嬉しい表現を素直に出せない彼女の可愛い一面です。
ですが、映画では違う表現でした。
せっかく萌えなシーンなのに残念です。
③キスのシーン
これに関しては、映画の方が違和感を覚えます。
最後にウラシマトンネルで再会を果たしたカオルと花城。二人には五年という年の差ができています。花城はもう二十二歳。不安も多いことでしょう。年を取ってしまった自分を前のように受け入れてくれるのか?
それなのに自分の方からカオルにキスをしたのは、どうも納得できない。彼女に同調はできなかったですねぇ。
◆劇場版アニメの良かったところ
一時間二二分という枠の範囲で、この長編小説を収めたのは驚き。でも、やっぱり全て原作通りではありませんでした。こればかりは仕方ないですね。
ただ、作画はとても綺麗で素晴らしい。
一つ気づいたのは、塔野カオルの性格性が原作よりも暗くなっていること。これは主人公の背景を考えれば妥当だと思いました。原作のカオルは、友達と楽しく話していたり、ジョークまで飛ばしていましたからね。ちょっと違和感があったんですよ。
あれ? そんなに過去を引きずってなくない?
カレンの死を、もうとっくに受け入れているような感じが否めませんでした。読み返すと。
その点、映画では無力感に満ちています。今にも消えて無くなりそう悲愴感を感じました。生きてるんじゃくなくて、生かされてるって感じ。そっちのほうが、今を捨ててカレンを探しにいくという動機に肯けますよね。
『夏へのトンネル、さよならの出口』
八目迷(著)
小学館
2019年7月23日発売
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