
預言者×超能力×殺人事件!
シリーズ累計120万部!!
デビューから2作連続、ミステリランキングを席捲!!
元研究施設に閉じ込められた11人。
ーーこの中で4人死ぬ。
“死の予言”は成就するのか。
『屍人荘の殺人』シリーズ第2弾
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◆登場人物
葉村譲……神紅大学経済学部一回生。ミステリ愛好会会長
剣崎比留子……神紅大学文学部二回生。ミステリ愛好会会員
十色真理恵……高校二年生。未来を見通す絵を描く予知能力者
茎沢忍……高校一年生。十色の後輩、オカルト好き
王寺貴士……容姿端麗で物腰柔らかな会社員
朱鷺野秋子……真っ赤ないで立ちの元好見の住人
師々田厳雄……気難しい社会学教授
師々田純……厳雄の息子。小学生
臼井頼太……『月刊アトランティス』記者
神服奉子……サキミに仕える好見の住人
サキミ……未来を見通す預言者
◆あらすじ
ミステリ愛好会会長の譲は、放課後、同会員の一つ先輩——比留子と近くの喫茶店で会い、ある雑誌を紹介する。様々な都市伝説などを多く扱う人気雑誌で、編集者宛に差出人不明から予言の手紙が届いたのだと。
今年起きた大阪のビル火災や婆可安湖の集団感染テロ事件も的中させ、最後の手紙には、あるM機関に触れた内容が書かれていた。
婆可安湖テロ事件の黒幕——班目機関。
比留子が遣わした知り合いによって超能力実験が行われていた施設が判明する。班目機関が関わっていたとされる場所。
二人は辺境の山奥にある好見という村へ足を運んだ。
奇遇にも同じバスに同乗していた高校生男女と鉢合わせ、四人で民家を転々と訪ねてみるも音沙汰ない。そこにバイクのガス欠で困っていた美男子と、墓参りに帰省してきた派手な女、エンジントラブルで立ち往生していた葬儀帰りの父子と知り合う。
好見に住んでいた派手な女が、まだ訪ねてない人物の名を挙げた。底無川の橋を渡った先に、サキミという預言者が一人で住んでいると。
辿り着いた先には、『魔眼の匣』と呼ばれる建物があった。
使用人の女性に招き入れてもらった彼らは先客の太々しい記者とも対面し、サキミとの面会を許してもらう。
白装束を纏った怪しげな老婆——サキミから不吉な予言を聞かされる
「十一月最後の二日間に、真雁で男女が二人ずつ、四人死ぬ」と。
ちょうど明日と明後日が予言の日で、村人が留守にしていた理由だった。
そんな時、底無川の橋が何者かに燃やされた。
救助が来るまで帰宅困難者となった計九名。
予言はまたしても的中してしまうのか?
ホームズ役を担う剣崎比留子と、ワトソン役の葉村譲が、不可解な超常現象に挑むテンポ抜群のミステリ長編小説!
【目次】
序章 新生ミステリ愛好会
第一章 魔眼の匣
第二章 予言と予知
第三章 相互監視
第四章 消えた比留子
第五章 凶器を前に
終章 探偵の予言
解説
全405ページ
【感情トリガー】
序章 新生ミステリ愛好会
├学食の推理【訝】(ハ?)
└風邪の報告【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
第一章 魔眼の匣
├若い二人組【警】(カカワッテキソウ)
├躊躇う二人【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
├絵の中の橋【唖】(ッ⁉︎——)
└台詞の語弊【嘲】(ハハ)
第二章 予言と予知
├記者の憤懣【嫌】(ナンダコイツ)
├土塊の強襲【唖】(ッ⁉︎——)
├四体の人形【謎】(ナゾ)
└不完全燃焼【危】(アブナッ!)
第三章 相互監視
├ライフル銃【知】(ヘェ~)
├交霊文字盤【知】(ヘェ~)
├苦しげな咳【謎】(ナゾ)
├上着姿の男【仮】(モシカシテ)
├銃の保管庫【虞】(ヤバ)
└大穴の少女【憮】(ソンナ…)
第四章 消えた比留子
├往路の靴跡【謎】(ナゾ)
├蠢いた布団【訝/驚】(ハ?/エッ⁉︎)
├往路の靴跡【解】(ナルホド)
├スラッグ弾【知】(ヘェ~)
├推理の誤り【訝/肯】(ハ?/タシカニ)
├父子の発言【怪/訝】(ン⁉︎ ナンダロウ?/ハ?)
├文字盤に穴【蟠】(キニナル)
├白装束の謎【謎】(ナゾ)
├齧られた躰【唖】(ッ⁉︎——)
└犯人と死闘【興】(ワクワク)
第五章 凶器を前に
├組み合わせ【訝/推】(ハ?/マテヨ…)
└生活反応痕【知】(ヘェ~)
終章 探偵の予言
└名誉を守る【訝/驚/悔】(ハ?/エッ⁉︎/チクショー)
午前中の講義を終えた生徒たちで学生食堂が賑わってきている。
端の席で課題を消化していた主人公は手を止め、ある生徒を観察した。
小柄な女性が注文カウンターに並び、トレーを持っている。
彼女の見た目の様子から、これから選んでいくだろうランチメニューを推理していく。
最初に取ったのは白飯と味噌汁。ということは、ラーメンやうどん、パスタなどの炭水化物系は除外できるだろう。
おそらく主菜と副菜をチョイスするはず。
しかし、副菜を素通りだ。
なら、野菜も一緒に入っている主菜が妥当だろう。
主人公は、ついに二者択一から一つのメニューに絞り込んだ。
果たして彼女が選んだメニューとは、まったく想定外のものだったのである。
二ヶ月ほど前の夏に邂逅した同大学のひとつ先輩と喫茶店で会合し、ある雑誌の内容に水を向けた。
都市伝説やオカルトなどを扱う月刊誌に、興味深い記事が載っている。
編集者宛てに届いた謎の預言者からの手紙。そこには、どこどこの地区で火事による惨状や、テロリストによる集団感染のことが書かれていたらしく、後日、その事件が本当に起きたとして編集者達を驚かせた。
二ヶ月前の集団感染事件は、先輩と共に当事者であったので他人事ではない。その犯人は捕まっており、彼の所持品から黒幕がいることを突き止めている。
ミステリ愛好会会長である青年と、同会員の先輩が追いかけている闇の組織。
最近になり、また謎の預言者から手紙が届いたようで、そこには闇の組織に触れた内容が書かれていた。彼らがある村人を買収し、そこで超能力実験を行っていたと。
これは手がかりだ。
この謎の預言者を突き止めれば、組織について情報が得られるかもしれない。まずは、手紙が届いたという編集者のほうを当たってみてはどうかと青年は提案した。
すると、端正な彼女から歯止めをかけられる。
まずは、うちの信頼できる探偵に調べさせるから待ってほしいと云うのだ。
それから数日が過ぎ、十月の最終週。
いつも寝過ごして講義に遅刻したり、約束をすっぽかす先輩から電話がきた。
朝早くに掛けてくるなんて珍しい。何か預言者について判ったのだろうか。
しかし、今日は風邪で講義をお休みするという瑣末な連絡だった。メールで済むようなことをなんで電話で。
寝ていれば良くなるから、とにかく気にしないでと念を押されたのだった。
闇の組織を追っているミステリ愛好会会長の青年と会員の彼女。ある記事から手がかりを得た二人は、目的地へと遠出した。
彼女の知り合いの探偵が、組織が関わっていた超能力実験の施設を突き止めたのだ。
電車で三時間、昼過ぎに目的のW県に着き、そこから路線バスで市街から離れた山地へと運行していく。
晩秋の肌寒さを共に感じながら、二人は、残っている他の乗客一組にどこか違和感を覚えていた。
同じターミナル駅に乗り込んできた若い男女。高校生ぐらいだろう。最後尾の長椅子に並んで座っている。
携帯も使えなくなるほど離れた山林地帯。
目的地の近くまでバスで乗ってきた助手役の青年と探偵役の彼女は、先に降車していった妙な若い男女二人の跡を辿っていった。
どうやら目的地が一緒のようだ。山道を登ったところで、男女は障害物のまえで立ち往生していた。
工事現場などで目撃する『安全第一』というフェンス。
探偵女が二人に接触した。彼らは高校生だと判った。ここには調べ物があって来たらしい。
四人は立ち入り禁止に踏み入ることにした。スペースに乗用車が一台駐まっていたのだ。フェンスに責任者の社名なども書かれていないし、誰かの私有地ということでもない。
集落に着くも、住人は誰一人居なかった。車庫はあっても車がない。一斉に出かけたということなのか。
すると、ガス欠で困っていたライダースジャケットの男から始まり、墓参りで帰省してきた派手な女と葬儀帰りでエンジントラブルを起こした親子二人と出遇った。
派手な女が云うには、川の橋を渡った先にも住居が一軒あるとのことだ。
預言者を匂わすような名前で、高校生らが会いたがっている人物だった。
早速、一同は川を渡り、件の住居を発見する。
屋根が平らなプレハブ様式で、大きく、そして、コンクリートで作られている。
偶然、使用人の女が外に出て来たので事情を説明し、中に入れてもらえることになった。
先客がいたようだ。オカルト雑誌の取材でやってきた髪の薄い記者。スペースに駐めていた車は彼のものだった。
やはり、この家主こそが青年と探偵女が捜していた人物で間違いなそうだ。
預言者のところまで案内すると使用人に言われ、青年らも記者の後ろを付いていく。
最後尾のライダースジャケットの男が、まだ食堂室に残ってる高校生らに呼びかけた。
男の子の方が、後から向かうと応えた。
なぜだろう。預言者に訊きたいことがあって遥々来たというのに。
テロによる集団感染事件の黒幕組織が密かに研究していたという超能力実験。その施設が、ある辺鄙な集落にあったとう情報を掴み、ミステリ愛好会会長兼助手役の青年とその会員であり先輩でもある探偵役女が遥々訪れた。
なぜか村民の姿は誰ひとり居なく、皆、車で外出していた。
偶然、目的地が同じだった高校生男女二人、ガス欠で困ってたツーリングの美男子、帰宅困難の親子二人を乗せていた元住人の派手な女と出遇い、いっしょに川を渡った先の預言者の家を訪れた。
固定電話が使えなかったらしく、親子二人は派手な女と共に引き返した。
他の一同は、家主の使用人に案内され、預言者との面会を果たす。
だが、高校生男女らは食堂に残り、付いてこようとはしなかった。
青年は彼らのことを懸念し、探偵女の黙認を認めて一人で食堂のほうへ向かい出す。
観音開きの扉が閉められていた。青年は隙間から彼らの様子を窺う。
美術部の女の子が、なにやら色鉛筆を使ってスケッチブックに描いていた。
こちらを背に向けていたので絵の内容が視認できる。
激しく炎上した光景。橋だ。さきほど渡って来た木橋にも似ている。
彼らの声が聞こえる。避難した方がいいとか、みんなにも教えるべきだとか、誰も信じてくれないなど。
窺っていた青年は事情を訊こうと扉を開けて男女らを驚かせた。
時を同じく、玄関の方から男の叫び声が響いてきた。
差し迫ったようすで橋が燃えていると。
深い谷底の川で遮られた集落へつなぐ橋が炎上し、一同は帰れなくなってしまった。
仕方なく、預言者の居住宅で明日から始まる不吉な二日間をやり過ごすことにした。
元々超能力実験のために設られた建物で、部屋数には余裕がある。
ミステリ愛好会の二名、高校生二名、ツーリング客一名、帰省者一名、親子二名、記者一名の計九名でも間に合った。
助手役の青年は、食堂で見た美術部の女子が描いた絵のことを美人の相方に話した。
その探偵女は、まだ自作自演の可能性がゼロではないと考えている。じゃないと、描いた絵の通りの出来事が起こるなんて説明つかない。
とりあえず二人の様子を見るということでまとまった。
使用人から浴室の利用が認められ、順番が回ってきた青年も入浴を済ませた。
割り当てられた部屋に戻ってくると、スケッチブックに絵を描いていた女子が待っていた。
突然の感謝の言葉。
青年は他のみんなに絵のことを黙っていたのだ。相方には話しているが。
すぐに引き換えそうとする彼女を引き留め、絵のことを訊ねた。
しかし、絵を描くのは好きだからだし、一致したのはたまたまだとお茶を濁される。
なぜ隠そうとするのか。やましいことがないなら別に……。
相方には自分から伝えるから話してほしいと青年が言いかけると、隣の部屋からその当人が顔を出した。
俄かに驚く青年。いつから話を聞いていたのか。
問うと探偵女は言った。
「『好きなんだから、どうしようもないです』『俺もそう思う。だからこそ隠す必要なんてないだろう』『分かってもらえるはずがありませんよ』『話してみなきゃ分からない。比留子さんには俺から』だね」
ひいいい! なんというピンポイントなやりとりを!
今村 昌弘. 魔眼の匣の殺人 〈屍人荘の殺人〉シリーズ (創元推理文庫) (p.105). 株式会社 東京創元社. Kindle 版.
橋が燃やされ、森林と川で囲まれた地区に閉じ込められた一同は、そこに一つ佇む預言者の居住宅に泊めてもらうことにした。
翌朝、彼らは二手に分かれ、脱出できるルートを探し回った。
同大学の男女と派手な女、ツーリングの美男子が裏庭をずっと進んだ滝壺の方まで回ったが、脱出できる道は確認できなかった。
その後、同大の男女は橋の方を調べに行ってるグループに向かった。
途中、預言者の老婆を取材で来ていた記者——軽薄、薄情、薄髪の三拍子揃った男——と合流する。
雑誌の記事で興味を持ったから訪ねてきたという表向きの理由に、記者は鋭く突いてきた。特別な理由があるのではないかと。
本当は犯罪を裏で操ってる闇の組織を追っているとは言えるはずがない。公にするには、あまりにも危険を孕んでいる。
記者は匿名の手紙に書かれた住所でこの場所を知ったらしい。
青年はそれを牽制に利用し、橋を燃やした連中に誘き出されたという説を仄めかした。もしかしたら、まだ事件は起こるかもと。
すると記者は堰を切ったように本音をぶちまける。
そうでないと困るんだと。こんな面白い状況になってきたのに、ババアの話だけ聞いて帰れるわけがない。
悪態をつき、誰か一人くらい死んでくれなきゃと彼は云い捨てた。
記者が本音を吐き捨てると吸っていた煙草を不興然と踏み潰した。
そこに木橋の方を探索していた教授の男と高校生男女が戻って来た。
やはり、深い谷底を渡れる他の道はなかったようだ。
同大学男女も皆といっしょに預言者の居住宅に引き返していく。
青年は同大の探偵女からの視線に気づいた。サインを送っている。後ろを見ろと。
振り向くと、文学部の女子高生が憑依されたかのように無心でスケッチブックに絵を描いている。
周囲のことを全く気にしていない。
女子高生の連れの男子と教授も唖然と驚き、その様子を見守っていた。
全体的に茶色が目立つ。複雑な陰影に無機的な直線。
いったい、何を予見した絵なのか。
すると、地面が強く揺れ出した。地震だ。
それで青年は何の絵を描いていたのか察せられた。
探偵女が先に口火を切り、何かが崩れ落ちると警鐘を鳴らした。
新しい煙草に火を点けようとしていた記者が揺れでよろめく。
彼は石垣と共に崩壊した山の一部に呑み込まれ、すり潰された。
この閉ざされた山河地帯で男女二人ずつ、四人死ぬ。
その予言の日が今日と明日の二日間。
信じがたいことに偶然起こった地震で山の一部が崩落し、記者の男が犠牲となった。
橋を燃やされ帰れなくなった一同は、彼の救助を諦めて預言者宅に引き返した。
ミステリ愛好会の同大学男女は預言者の老女と面会し、集団テロ事件の黒幕だった組織について訊いてみた。
しかし、何十年も前に関係を絶っていたようで組織の手がかりは得られず。
失望に終わり、部屋を辞して廊下を通ると同大の探偵女が不意に足を止めた。
青年も彼女の視線で異変に気づく。
玄関横にある受付窓の四体のフェルト人形。
そのうちの一体が消えていたのだ。
まるで生き残っている犠牲者の数を暗示するように。
ただの悪戯なのか? とすれば、教授の息子である小学生の男の子がやったのかもしれない。
最後の順番だったミステリ愛好会会長の青年が風呂から上がり、宛てがわれている自室に戻ってきた。
灯油ストーブを焚き続けていたので室内は暖かく、青年はそのままベッドで睡魔に呑まれていく。
脈絡のない場面がいくつも重なり、これが夢のなかだと青年は自覚していた。
だが、なかなか夢から抜けだせず苦戦する。
彼を現実に引き戻したのは相方の探偵女だった。
いつの間にか青年の部屋にいて、心配そうに張り詰めていた。
扉の方でスケッチブックを抱えている女子高生の姿も見える。
どうしたんだろうか。何かあったのか。
すると、探偵女から説明される。
一酸化中毒だよ、と。
ストーブが不完全燃焼を起こしていたのだ。
夜十九時を迎えるということで、同大学男女は食堂に移動した。
預言者の使用人が客人用の食事の準備を忙しなくしていた。
招かれたわけでもないのに献身的な女性である。
準備を手伝うことにした青年は、彼女と初めて対面したときのことを思い出した。
預言者宅から出て来た彼女は、熊よけ用に散弾銃を携えていたのだ。
そこで彼女に猟もするのかと青年は尋ねた。
一応、狩猟免許は持っていると云う。ただし、ライフルの所持許可は持っていなかった。
青年は問うた。
散弾銃とライフルの所持許可は別なのかと。
使用人が答えた。
ライフル銃は散弾銃を所持して十年の経験年数が必要なのだと。
夜十九時過ぎ。
帰宅困難者たちが食堂に集まり、夕食を食べている。
小学生の男の子が宝物を見つけたと嬉しそう報告してきた。
大人たちが脱出経路を探索していたとき、少年は屋敷を探索していたらしい。
暗号の紙。
ウィジャボードだと父親の教授が言った。
交霊術などに使う文字盤のこと。
オカルト好きの男子高生が食いつく。
超能力実験に使われていたのかと女子高生も話題に参加してきた。
しかし、教授はそんなもの詐術に過ぎないと冷たくあしらう。
オートマティスムを利用しただけだと。
ウィキペディアより
■オートマティスムとは
訳すと自動書記
文字や絵などを勝手に描く
無意識に身体が動く自動作用の現象
憑依されて肉体を支配されているように見える
■こっくりさんの動く原理とは
観念性運動と呼ばれる筋肉の無意識の動きによるもの
預言者宅の食堂で夕食の席についていた教授が、超能力はすべて科学で説明がつくと啓蒙的な弁舌で主張していた。
預言者についても同じこと言えると。
彼が話終えると何か物音がすぐ近くで聞こえる。
美術部の女子高生が再びスケッチブックに絵を描いていた。
集まっていた一同が少女の絵に注目する。
描き終えた紙には倒れた人影が確認できる。もがき苦しんでるような体勢だ。
大学の青年が毒死ではないかと発言し、派手な女が小さく悲鳴を上げた。
先ほど食堂を出て行った小学生がまだ戻ってきていない。
まさか……と教授が息子の安否を危惧し飛び出そうとしたとき、まだ食堂に顔を出していなかったツーリングの美男子が、子供と一緒に現れた。
束の間の安堵。
だが、この屋敷にはまだ預言者の老女がいる。
一同は部屋を出て、すぐに向かった。
玄関に飾られている花と同種の花が引き戸の前に散らばっていた。
老女の咳き込む声が聞こえ、使用人が飛びついていく。
鍵は掛かっていなかった。
中で痩躯な老女が横臥で苦しんでいる。
彼女の周りは廊下同様に赤い花が散らばっていた。
預言者の老女が毒殺されかけていた。
事件が起こる直前、その光景をスケッチブックに描いた女子高生が疑われ、現在、彼女は自室に軟禁されている。明日の午前六時まで、誰も彼女に接触してはならないと。
他の一同は食堂にまた戻り、女子高生以外の犯人説を考察し合う。
探偵女が注目したのは受付窓に置いてある四体のフェルト人形。
記者の救出を諦め屋敷に戻ると、一体の人形が消えていた。
そして預言者の老女が毒で襲われると、二体目の人形が消えていた。
これは預言者が唱えた『男女二人、四人死ぬ』を見立てた犯行なのではないか。
であるならば、匿名の手紙に誘われた記者のように自分たちの中にも、どこかで犯人との繋がりがあるのかもしれない。
例えば、自分の親が恨まれるようなことをしていたとか。
それを探るため、一同は順番に自分の身の内を語っていくことになった。
ツーリングの美男子に回った。
祖父がルーマニア人らしく、色白の外国人っぽさの由縁が窺える。
教授の息子は、最初に会ったとき女だと思ったらしい。
見た目が女子っぽいことで小さいときから弄られたことがあると本人も認めた。
背が低いことも気にしているらしい。
派手な女も思い当たることがあったのか、昨夜、薄暗い地下で鉢合わせたときに悲鳴を上げて腰を抜かしてたと暴露した。
探偵女の助手役を担う青年も少し気になることがあった。
着替えを持ってなかった美男子にシャツを貸していたのに、昨夜からずっと革ジャン姿のままなのだ。
——
もしかして、性別を隠しているのかも。
ツーリングの美男子は、実は女なのかもしれない。
食堂で居眠りこいてた教授が息子に起こされ、トイレに付き添った。
二人が戻って来たのは十五分くらい経ったあと。
時刻は十一時五十五分。
もうすぐで日を跨ぐごろ、向かいの部屋から使用人の女性が出て来た。
預言者の老女の容態は安定しているとのこと。
そのあと、使用人はトイレへと去っていく。
地下の自室に籠っている女子高生以外が一階にまとまっている状況。
ついに午前零時を迎え、二人目の犠牲者を出さずに済んだ。
残り二十四時間もこの調子で監視し合えば、『男女二人、四人死ぬ』という予言を外させることができるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いてしまう大学生男子。
すると、お手洗いに行っていた使用人が駆け戻って来て叫んだ。
事務室の散弾銃をどうしたのかと。
保管庫の鍵が壊され、中が空っぽになっていると云うのだ。
使用人の女性が血相を変え、保管庫の銃が無くなっていると食堂に駆け戻って来た。
衣服に収まるようなサイズではないし、ここにいる皆んなは持っていない。
となると、考えられるのは一人だけ。地下の自室に籠る女子高生だ。
一同は階段を下り、女子高生の部屋までやってきた。
明け方の六時までは出ないようにと鍵まで掛けてもらっていたはず。しかし、施錠は外されていた。
扉を開け、照明を点けると床に散弾銃が転がっている。
そこから少し離れた場所に、胸に大穴を開けた女子高生が仰向けで倒れていた。
憧れの美人探偵と交わしたばかりなのに……。
今度、絵のモデルとして描かせてもらう約束を。
予言の二日目の朝七時前。
自室にいた大学生の青年の許に、使用人の女性がやってきた。
浴場で見つけたスマホから、青年の相方——探偵女の物だと判り探すも彼女の姿が見当たらないらしい。
使用人と一緒に他の人たちの部屋も見て回るが結果は同じ。
玄関は内側からかんぬきが掛かっているため、外に出た形跡はない。
しかし、昨晩施錠したはずの裏口の鍵が開いていた。
人組の足跡がぬかるんだ地面に続いている。その特徴的な模様から探偵女の沓だと判明した。
先陣を切ったのは青年。足跡を辿り、落としていった彼女のストールを拾った。昨晩から降りしきっていた雨で濡れている。
他の面々も青年の後を追いかけ、滝の流れる崖の端までやってきた。
青年は崖端で憮然と佇み、下を見下ろしていた。
足跡の途絶えた場所に片割れの沓が転がっている。
まさか彼女が飛び込み自殺を図ったのか?
そんな疑問が他の者から挙がった。
しかし、自ら命を捨てるような彼女でないはずだ。
仮に岩壁を伝って戻って来ても裏庭に足跡が残るはず。
自分の足跡にぴったりハマるように後ろ向きで戻ろうとしても、片方の足だけではまず不可能だろう。
しかも、探し回るときに確認した受付窓で、また人形が一つ無くなっていた。
今は四つあったフェルト人形が一つしかない。
記者の男性と女子高生、そして探偵女も予言の犠牲となってしまったのか。
探偵女が謎の失踪を遂げたいた。
相方である大学の青年は、単独で犯人の手がかりを探そうと女子高生の遺体がある部屋に向かった。
荒らされていた部屋を観察していると、供花を抱えた派手な女性が現れた。
彼女も後ろで見守るなか、青年は床に落ちていた弾丸に気づく。
しかし、その弾丸はよく見る尖った形をしていなかった。
派手な女性曰く、それはスラッグ弾なのだそうだ。
先が丸い弾の方が貫通力が弱く、当たったときの衝撃力が強くなると。
だから熊などの獣を仕留めるには、貫通しない方が良いらしい。
予言の最終日、今は助手役の大学青年が探偵事をして回っている。
使用人の部屋と預言者の部屋を調査し終え、自室に戻る途中、トイレの前で父子と出会した。
誰が犯人か皆疑心暗鬼になっているなか、女子高生が殺されたときのアリバイがあった青年は警戒されていなかった。
小学生の男の子が一人でトイレに行ったあと、教授から参考になる話を聞く。
彼が昨夜風呂を利用した時、腕時計を脱衣所に忘れたらしい。取りにもどると、ツーリングの美男子が着替えていた。背中にタトゥーが彫られていて驚いたと。
だから美男子は頑なにライダースジャケットを脱ごうとしなかったのだろう。皆んなの前では。
教授はそのときのタトゥーを見て怪訝に感じたらしい。
なにやら五芒星やら蛇やら、魔除けのものを組み合わせたような、ちぐはぐな印象を受けるもので、隠そうとしていた様子に。
/
そこで男の子がトイレから戻ってくる。
彼は探偵女によく懐いていた。
誰もが彼女の生存を諦めているなか、その少年は青年に告げた。
『お姉ちゃんだけは絶対に助けようね』と。
少年は父親に手を引かれ、地下の自室に戻って行った。
【刺激された感情の種類:20種】
驚度😳:★★★★★
驚=予想外の出来事(2)
唖=俄に起こる想定外な事件(3)
思考🤔:★★★★★★★★★★★★★★★★★★
肯=諭す言葉に納得する(1)
知=豆知識を教えてくれる(4)
解=不可解が解明される(1)
訝=疑問を抱かせる言動や描写(6)
謎=不可解な問題が提起される(4)
推=事件の謎を解く手がかりを得る(1)
仮=知り得た情報からある仮説が立つ(1)
不幸😫:★★
蟠=中途半端でまだ未解決(1)
憮=如何ともし難い痛ましさ(1)
恐怖😣:★★★★★★
警=用心する非常な状況(1)
危=もう少しで死ぬとこだった(1)
怪=様子に違和感を覚える(3)
虞=生命線が危ぶまれる事態(1)
攻撃👊:★★★
嘲=ある状況から妙な誤解をされる(1)
嫌=他者を見下す卑賤な奴(1)
悔=気づけなかった盲点(1)
乗気🤩:★
興=まだ未開な出来事への期待(1)
全体を通してのプロット
【人物・世界観の説明】
前代未聞のテロ事件が婆可安湖で起き、其れに神紅大学に通う生徒達が巻き込まれていた。その三ヶ月後の十一月、生き残った一回生の譲は、一学年上の比留子先輩にある記事を紹介する。テロ事件の真の黒幕と思われる、班目機関について触れた内容を。
名家の令嬢である比留子は、知り合いの探偵を介し、編集者宛てに届いた手紙の差出人を突き止めようとする。
判ったのは書かれていた実験施設の場所だった。黒幕の手がかりを得た譲と比留子は、調査に赴く道中、妙な高校生二組と出会い、彼らと同じ目的地へと辿り着く。四人は、たまたまツーリングに来ていた小柄なイケメンと、墓参りで帰省した元好見の住人の派手な女性、葬儀帰りでエンジントラブルを起こした父子と出会う。
どの民家も不在だったなか、元住人の秋子が、ある人物の名を挙げる。サキミという人物が近くに住んでいると。高校生男女がこの村に来た理由だった。
道を彼女に案内してもらい、辿り着く。魔眼の匣に。
譲と比留子も、その風変わりな屋敷に招かれ、サキミという預言者と対面する。老婆は予言した。
「十一月最後の二日間に、真雁で男女が二人ずつ、四人死ぬ」と。
【物語が始まる起点・問題】
死者が出ると予言された真雁地区から出られなくなる。
【発生した問題への対処】
魔眼の匣で一夜を過ごし、帰る手段を皆んなで探す。
【問題の広がり・深刻化・窮地】
予知した悲劇が実際に起きていく。
犯人の検討がつかぬまま、予言の最後の一日を迎えてしまう。
【人物の葛藤・苦しみ】
剣崎比留子が行方を晦ます。
譲が単独で犯人の手がかりを探す。
予言の恐怖に皆、追い詰められていく。
【問題解決に向かう最後の決意】
これから犯人を明らかにすると宣言する。
【問題解決への行動】
犯人である根拠を明示し、本人に認めさせる。
読了した感想
◆前作を読んでなくても楽しめる!
本書は『屍人荘の殺人』のシリーズもの。しかし、それを知らずに手にして読んでしまい、後悔するも、杞憂でした。『班目機関』という組織については、ぜんぜん背景が見えてこなかったですが、今回のクローズドサークルで起こるミステリーが主流なんで、譚に付いていけないということはなかったです。
◆キャラクターの特徴がイメージしやすい!
葉村譲という名前からなんとなく特徴が窺えます。庶民的で、活躍の場はあなたにゆずるという謙遜的なタイプ。
剣崎比留子は、どこか鋭い視点を持っていそうな感じがします。ヒルコという名は、二神の間に生まれた最初の神らしく、未熟児ということで捨てられたそうな。実際、比留子は不幸を呼んでしまう体質らしく、忌やがられて両親から島流しされてるっていうのも共通していますね。
十色真理恵、高校生の女子で色鉛筆でスケッチを描くという趣味(呪い?)を持っています。だから十色なんでしょう。
茎沢忍、十色真理恵の巾着袋で同じ高校生男子。茎を英語で『ストーク』と言い、ストーカーという意味合いを含めた名前になっています。
王寺貴士、二十代後半から三十代前半のイケメンです。露骨過ぎるくらい王子様感がありますね。
朱鷺野秋子、ホステス風の派手な女性です。苗字がなんとく派手な印象を受けますし、『朱』は赤色という意味があるから、服装も同じ色にしたのでしょう。
師々田厳雄、気難しい社会学教授です。師という字から教える職業をイメージしますし、厳雄は、もうそのまま。
師々田純、厳雄の息子です。まだ幼い純粋な子だから純にしたのでしょう。
神服奉子、サキミの世話係です。なんか神に服して奉仕するようなイメージが湧きますよね。そのまんまです。
物語に出てくる登場人物は多いですが、特徴をイメージしやすいような名前のおかげで、何回も読み返すという煩わしさがありません。とても伝わりやすいです。
◆長編小説だけど中弛みしなかったのは驚き!
ちゃんと序章からも感情を刺激してくれる細かな事件があり、後半に進むにつれ、どんどん刺激が増えてきます。おそらく過去一でしょうね。これを超える小説はあるのか? ずっと目が離せないプロットの魅せ方が超越していますよ。
◆コメディ要素が楽しかった!
推理小説だからシリアスな感じが首尾一貫するのだろうと思っていたら、笑かしてくれるところがありました。
譲と十色真理恵とのやりとりです。大学生と高校生ですから、恋に発展してもおかしくないわけで、周囲に誤解を与えてしまう感じが面白かった。まるでラノベのラブコメでしたね。
◆惜しいなと感じたところ
ミステリー好きの方には是非、読んでいただきたい傑作本でありますが、腑に落ちないところもありました。
犯行を認めない容疑者に推理を語るクライマックス。譲の部屋に小動物の死骸が誰かに置かれていたのですが、犯人は不明でした。しかし、探偵役の方は〇〇がやったと言います。なにか決定的な証拠があるのかと思いきや、憶測でした。犯人の言い逃れができてしまいます。
最後は、橋の炎上。あやふやでやり逃げになっています。誰かが意図して燃やしたのだとしたら、その犯人までも明かして欲しかった。
とはいえ、ちゃんと推理できるヒントを提示してくれてたのは高ポイント! 伏線ではありません。その上で犯人が解りますか? という著者からの挑戦状。
とにかく、これは読まないと人生損するってくらい面白かったです。
『魔眼の匣の殺人』
今村 昌弘(著)
東京創元社
2022年8月10日発売
全405ページ
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