サスペンス・ミステリーホラー・パニック

【サイコ・ホラー・サスペンス】黒い家(感情トリガー/感想)

保険金詐欺×サイコキラー×逆襲!

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに……。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。
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◆登場人物
若槻わかつき慎二しんじ……昭和生命京都支社に勤める入社一年あまりの主任
葛西かさい好夫よしお……同会社の副長
坂上さかがみ弘美ひろみ……同会社の入社五年になるベテラン職員
黒沢くろさわめぐみ……心理学者の卵。若槻の大学からの恋人
醍醐だいご則子のりこ……若槻の母校の心理学の教授
金石かないし克己かつみ……犯罪心理学の学者
三善みよししげる……元ヤクザの潰し屋
菰田こもだ重徳しげのり……昭和生命と契約している顧客
菰田こもだ幸子さちこ……重徳の妻

◆あらすじ
 昭和生命京都支社では、不審感を抱く自殺報告書、鬱憤を晴らしに現れるクレーマー、自殺願望者からの問い合わせ、受付員に難癖をつける恐喝者、入院給付金の不正受給、そういった客の対応もしばしばあった。
 入社して一年になる若槻わかつき主任は、クレーム客の謝罪訪問で菰田こもだ重徳しげのりの自宅を訪れる。えがたい異臭を放つ、老朽化した不気味な家の中に案内された若槻は、自分の部屋で首を吊っていた息子さんを発見した。父親の重徳は、驚愕する若槻の方をなぜか凝視していた。
 若槻は父親の不審な行動から他殺の線を疑った。
 息子の死亡保険の請求書が届くのを機に、母親が窓口に現れ、以降、父親が毎日催促してくるようになる。警察は未だ他殺か自殺か判断にこまねいていた。保険会社も決定は下せない。
 菰田家に追い詰められていた若槻は、父親が殺害したという傍証を得るため、独自で関係者を取材していくのだが……。
 菰田夫妻の異常とも思える関係性、執念、無慈悲さが超弩級! 若槻の精神を極限まで追い詰めていくサイコパスの狂気に震撼間違いなし!!

【目次】
1
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6
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単行本で365ページ

【感情トリガー】
1
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 ├向かいの家【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
 └襖の奥の子【訝】(ハ?)
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7
 └金石と菰田【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
8
 ├黒いゴミ袋【警】(カカワッテキソウ)
 ├哀哭の彼女【呆】(ッ⁉︎——)
 └無断の欠勤【察】(マサカ…)
9
10
11
 ├汚い自転車【察】(マサカ…)
 ├部屋の音声【恐】(コワッ!)
 ├人間の頭部【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
 ├浴槽から音【安】(ホッ)
 └悪魔の帰宅【虞】(ヤバ)
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13
 └呆れた表情【嘲】(ハハ)

保険の加入者Aからのクレーム電話が入り、生命保険会社勤めの主人公が相手の自宅へと謝罪訪問する。が、呼び鈴を鳴らしても呼びかけても反応なし。辺りを見渡すと、向かいの家に住む中年の女が、こちらの様子を窺っていた。Aのことを尋ねようと門扉まで近づいていくと、向かいの女はすぐに引っ込み、戸を閉めてしまった

顧客から詳細不明のクレームが入り、その内容の確認とお詫びも兼ねて、相手の自宅を訪れた保険会社の主人公は、その場所にどこか忌やな感じを抱いていた。家主の男に招かれ、悪臭漂う真っ黒な家の居間に座した。襖の奥に息子が居るらしく、開けてくれないかとなぜか男に頼まれる。言われるまま開けてあげると、十歳くらいの少年が半ば白目を剥いてこちらを凝視していた。両手両足は脱力しており、床から五十センチほど宙に浮いた状態で

金石と菰田【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
ある被保険者のA氏には、保険金を目的とした殺人疑惑が掛かっている。しかし、未だ警察は結論を出せずにいた。自分の息子を殺したのか、それとも本当に自殺だったのか。A氏は何度も保険会社の窓口を訪れ、主任Bに請求を催促していた。主任Bが昼休憩から戻ってくると、また、A氏が待っている。同じ職場の人が主任Bに言ってきた。妙な人物もお前を訪ねてきていたと。その妙な人物は、A氏の人格に問題はないか相談した件で、主任Bがついこの間知り合った犯罪心理学専門のCだった。そのCがA氏に熱心に話しかけていたという。だが、職員が現れるとピタッと口を噤んだようなのだ

最近、やっかいな客と関わり、それから無言のイタズラ電話にも遭っていた。その客との問題事が解決し、肩の荷が下りる。泊まりがけの出張からアパートに帰宅すると、自分の部屋の前に、なぜか黒いゴミ袋が置かれていた

生命保険会社に勤める主人公は、最近、保険金殺人を疑わせる客の対応に負われていた。何度も催促に現れるその客をあしらっていると、無言電話の嫌がらせや、投函されたダイレクトメールを覗き見されるという被害にも遭っていた。犯罪心理学の専門家によると、その客は、いわゆるサイコパスの特徴が見られるという。結局警察からは事件性はないと判断され、その客に保険金が下りることになる。これで終止符が打たれたかと安心したが、主人公の彼女から電話が入った。飼っていた愛ネコの首が切断されていたと

過去に保険金を不正受給していた疑いのある父親の息子が、自宅で首を吊って死んでいた。第一発見者であった保険会社勤めの主人公は、父親による自殺偽装を疑っている。相談した犯罪心理学者によると、その父親にはサイコパスの特徴があるという。興味本位で父親を尾行し、接触までしていたのだ。だが、警察は自殺と判断した。父親に保険金が下りる。しかし、これで終わりではなかった。主人公の彼女が悪質な悪戯に遭ったのだ。思い当たる節がある。父親の妻に、身の危険を知らせるハガキを送っていたからだ。主人公はもう一度、犯罪心理学者にアポを取る。ところが、彼はここ数日、無断欠勤が続いてるという。察するに、危険人物に近づきすぎたせいで、学者は監禁されているか、すでに殺されているのかもしれない。父親だと捻りがないから、サイコパスなのは妻のほうなのかも

保険会社に勤める主人公は、ある顧客と関わったがために、悪質な嫌がらせの被害を受けていた。自宅に掛かる無言電話、動物の死体をいれたゴミ袋の放置、家に侵入を図ったような窓の切れ込み。警察に相談しても埒がなく、明日、知り合いの刑事に直接相談しよう決める。その夜中、目を覚ました主人公はコンビニに出向き、アパートに帰ってくる。出がけにはなかった自転車が置いてあった。一足違いでエレベーターが上に昇っていく。察するに、嫌がらせを行ってる犯人が乗っていると思われる。主人公の部屋は七階。そこに向かっているのではないか

保険金詐欺疑惑の顧客に恨みを持たれていた主人公は、自分の部屋に向かっている聞き覚えのある足音にぎょっとする。先ほど、夜中の買い出しから戻ってくると、誰かの自転車がアパートの玄関前に置かれていて不審に思っていた。一足違いでエレベーターが昇っていったので、階段を使った。エレベーターが止まる音を聞くと、なぜか、乗っていた人物は階段を使い始めた。主人公は警戒し、足音を立てずに追いかけていく。窺うと、あの足音の主は件の顧客だった。そいつは鍵を出し、主人公の部屋に入っていく。合鍵をいつ手に入れたのか? 引き返した主人公は外の公衆電話から自宅に掛けた。ルームモニター機能で顧客の様子を確認する。顧客の呪文のような怨み言が長々と呟かれている。帰ってきたら殺すと……

仕事上のパートナーで元ヤクザの男。今は潰し屋として働き、不正する契約者を非合法的な手段で契約を取り消している。保険金詐欺疑惑のある顧客に手を焼いていた主人公は、その潰し屋を使うことにした。すると、顧客は主人公の自宅を襲い、侵入した。襲撃に失敗すると帰っていく。それを間近で目撃していた主人公に悪寒がはしる。合鍵を持っているのは恋人だけで、その彼女と連絡がつかないからだ。顧客のサイコパス性に興味本位で近づいていた学者は、無惨な死体として発見されている。酷い拷問の跡も残っていた。もしかすると、彼女も拉致されて監禁されているのではないか? 主人公は先回りして顧客の家に押し入った。浴室に切断された人間の頭部が置いてある。潰し屋の……

自分の恋人が常軌を逸するサイコパスに拉致されてしまった。主人公は、犯人の拠点を先回りして押し入った。切断された人間の死体を発見して居竦まったが、別人のものだった。同じ浴室の浴槽から動く音が聞こえる。その蓋を開けてみる。拘束された恋人が入っていた。彼女は生きていた

主人公は冷酷無比なサイコパスの拠点で拉致された恋人を発見した。拘束を解き、その場から一緒に逃走しようとする。が、犯人が家に戻ってきた。二人は納戸に隠れ、鎧戸の隙間から様子を窺う。足音が近づいてくる。ゆっくりと廊下を進んでいた。右手に巨大な包丁を下げながら

呆れた表情【嘲】(ハハ)
主人公は遠距離恋愛をしている恋人と良好な関係を保っている。しかし、実兄が自殺したのは自分の責任という罪悪感が障碍となり、肉体的な深い仲にまではいけなかった。やがて、兄の死は事故だったことを知る。ずっと苦しんできた悩みから解放された主人公は、彼女に電話で「会いたい」と伝えた。彼女もその意味を理解していながら、主人公を焦らしてくる。すると、主人公は憚らずに「君が欲しい!」と叫んだ。彼は気づかなかった。自分のいる病院の休憩室に、担当の看護師が入ってきていたことを。呆れた表情の看護師と目が合い、赤面する

【刺激された感情の種類:10種
幸福☺️:★
 安=不安・恐怖が解消される(1)
驚度😳:★★
 驚=予想外の出来事(1)
 呆=突然で呆気にとられる(1)
思考🤔:★★★
 訝=疑問を抱かせる言動や描写(1)
 察=ヒントから展開の予測がつく(2)
恐怖😣:★★★★★
 恐=襲ってきたのが危険と解る(1)
 警=警戒心を抱いてしまう(1)
 怪=様子に違和感を覚える(2)
 虞=悪い事が予測できる事実を知る(1)
攻撃👊:★
 嘲=ある状況から妙な誤解をされる(1)

全体を通してのプロット

人物・世界観の説明
 生命保険会社に入社して一年目の主任、若槻わかつき慎二しんじが死亡保険の査定で怪しげな死因に着目する。また、よく現れる鬱憤晴らしのクレーマー、自殺願望者からの問い合わせ、難癖をつけて多額の金を要求する詐欺師とも遭遇する。
 若槻は、大学の時から付き合ってる恋人とデートで久々に会い、小六で飛び降り自殺した兄のことを思い出される。
 クレームの電話で顧客から指名を受けた若槻は、事実確認も含め、相手の自宅へと謝罪訪問する。

物語が始まる起点・問題
 謝罪訪問した顧客の自宅で、息子さんの首吊り死体を発見する。

発生した問題への対処
 違和感のあった顧客の様子から、若槻は殺人の可能性があると警察の事情聴取で話す。

問題の広がり・深刻化・窮地
 殺人疑惑のある顧客から、息子の死亡保険の請求書が届く。
 亡くなった息子と父親に血縁関係はなかった。
 父親は過去に障害給付金を受給してたが、自作自演の疑いが残る。
 保険会社に直接、亡くなった息子の母親が催促で訪ねてくる。
 疑惑の父親が、毎日、保険会社を訪ねてくる。
 若槻の単独調査で、夫婦の精神異常が垣間見えてくる。
 若槻の自宅に何者かの嫌がらせを受ける。
 犯罪心理学の専門家から、若槻にも危険が及ぶと警告される。

人物の葛藤・苦しみ
 警察が息子の首吊りを自殺と断定し、夫妻に保険金が下りる。
 若槻への悪質な嫌がらせで、彼の恋人まで被害に遭う。
 若槻の知り合いが殺害される。
 夫妻の夫の方が事故で障害を負い、障害保険を請求される。
 若槻の部屋に侵入しようとした形跡が見つかる。
 若槻の恋人が拉致され、自宅も襲われる。

問題解決に向かう最後の決意
 若槻が恋人を救いに犯人の自宅へ向かう。

問題解決への行動
 犯人と対峙する。

読了した感想

後半からじわじわとやってくる!
 最近、ミステリー小説ばかり続いてたんで、ホラーで人気の高かった『黒い家』を手に取ってみました。事前情報なしで読んでいくと、違和感にぶち当たります。「あれ、これってホラー?」って。
 なんか、やたら保険会社に関する雑学的なストーリーが続くので、ぜんぜん恐怖の要素が感じられなかったのです。で、物語の起点となる首吊り死体の発見後も、とくに恐ろしいことは起きません。
 しかし……、後半からじわじわとおそろしさがやってきます。最近ので例えると、雨月さんの『変な家』みたいな感じ。一見、なにがホラーなのか解らない問題を紐解くと、実は怖しい事実が隠れていた、みたいな。
 終盤は、ガチでやべぇ恐ろしいに様変わり。

恐ろしい存在を虫で譬えているのが興味深い!
 若槻慎二(28)は、幼いころから虫好きらしく、遭遇する出来事と各虫の特徴とを結びつけておりました。
アリグモ社会に潜むサイコパス
 クモなのに見た目が蟻そっくりで、前肢の二本を揚げて触覚に見せることから。
クロゴケグモ愛人や夫から骨の隋まで金を搾り取る女
 毒の量がゴケグモの種類で最も多く、後尾した後は雄を丸々喰べ尽くすことから。
蛍の幼虫 生きたまま切断する殺人犯
 自分より大きなヤスデを捕食する幼虫は、麻痺性の毒液で動けなくし、体節を一つずつ切り離して喰べることから。
トタテグモ公共のトイレで標的を襲う犯人
 地中にトンネル状の穴と扉の蓋を作り、獲物が近くづくと扉から飛び出し、素早く穴に引き摺りこんで捕食することから。
ジカバチリヤカーで標的を運ぶ犯人
 獲物を毒液で麻痺させ、肉を腐らせないよう生きたまま巣穴に運ぶことから。
アリノスシジミ秩序社会を脅かしていくサイコパス
 幼虫は硬い外皮によってアリ成虫からの攻撃を防ぎ、巣内のアリ幼虫を一方的に捕食することから。

結局、最後まで御預けでした
 若槻慎二は、大学の時から付き合っている彼女がいます。今も大学で心理学を学ぶ恵です。もう二人は二十代後半になるのですが、若槻の身体的な都合であっちの方はまだの様子。その原因は、小四のときに小六の兄を自殺で喪くしているから。学校でいじめられている兄を目撃していながら、助けてやれずに逃げてしまった負いめを今も抱えていたのです。その罪悪感が快楽への隔たりとなり、彼女と交わることも出来なかったということです。
 それでも関係が維持できているなんて凄いですよねぇ。しかも、東京住まいと京都住まいという遠距離恋愛。たまにしか会えないデートで、ただ抱いてくれているだけで幸せを感じられる恵の健気さは尊すぎです。
 で、若槻の抱えるトラウマ問題は解決し、アレはもうやる気満々。がしかし、犯人と死闘したときの負傷を心配して、恵からお預けをくらうというオチでした。
 ん〜、なんかざんねん。食えないイイ女ですね。
 
 

黒い家』(角川ホラー文庫) Kindle版
貴志 祐介(著)
KADOKAWA 
2002年8月09日発売
単行本で365ページ(1997/6/1)

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