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Re:ゼロから始める異世界生活 6(感情トリガー/感想)

稚拙な交渉×夜霧の白鯨×無償の愛

大罪司教ペテルギウスへの復讐を誓い、再び王都へ『死に戻り』したスバル。魔女教を撃退しエミリアを救うための協力者を求めて奔走するが、候補者たちはそんなスバルに未熟者の烙印を押し、取り合おうとせず――!?
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◆登場人物
ナツキスバル(17)……突如、異世界に召喚された高校生
エミリア……ルグニカ王国四十二代目の『王候補』の一人
パック……エミリアと契約してる猫の姿をした大精霊
ラム……ロズワール邸の双子メイド(姉)。ぺったん
レム……ロズワール邸の双子メイド(妹)。家事全般が得意
ベアトリス……禁書庫の司書
オットー・スーウェン……若い行商人
クルシュ・カルステン(20)……カルステン公爵家当主で男装の麗人。騎士はフェリス
フェリス……ロズワール邸を訪れた王都からの使者。ネコミミ
ヴィルヘルム・トリアス……フェリスと共にロズワール邸を訪れた竜車の御者
プリシラ・バーリエル……スバルが王都で出会った少女。豪華な衣服と尊大な態度が特徴的。騎士はアル
アル……漆黒のフルヘルムに山賊のような奇抜なファッションに身を包む男
アナスタシアホーシン……カララギの一大勢力、キーシン商会の会長。騎士はユリウス
ラッセル・フェロー……商業組合を取り仕切る会計係
ペテルギウス・ロマネコンティ……魔女教『怠惰』担当の大罪司教

ロズワール・L・メイザース……奇抜な衣装とピエロ風メイクの貴族
カドモン……厳つい商売人
ロム爺……盗品窟の主
ラインハルト・ヴァン・アストレア……『剣聖』と呼ばれる騎士の中の騎士
フェルト(15)……王都の貧民街育ちの盗人少女
ユリウス・ユークリウス……ルグニカ王国近衛騎士団所属の騎士。『最優の騎士』
エルザ・グランヒルテ……艶めいた雰囲気をまとう美女

◆あらすじ
 ペテルギウスへの復讐を心に誓ったナツキ・スバル。
 三周目に突入した『死に戻り』で、三人の有力候補と交渉に臨んでいく。
 冷徹なクルシュ、尊大なプリシラ、狡猾なアナスタシア。
 魔女教徒に対抗するための戦力が必要不可欠だった。
 が、すべて惨憺たる結果で交渉は失敗。
 誰からの援助も受けられないまま、スバルはレムと二人だけでロズワールの屋敷へ戻ることを決意する。
 道中、竜車を所有する行商人たちと出遇ったスバルは、持ち合わせの大金で彼らを雇い、アーラム村の人達を運ぶための足を確保した。
 行商人らを同行させ、村へと急ぐスバルらの前に、妖しげな霧が立ちこめる。
 それは恐ろしい災害級の生物が現れる前触れであった。
 宙を遊泳する極大の白鯨が。
 ——
 無知と無能、失望と絶望、悔恨と逃避……
 もどかしいフラストレーションが溜まりに溜まる、
 苦痛の煉獄ここに極まれり!
 

【目次】
第一章 幼い交渉
第二章 豚の欲望
第三章 白鯨の顎
第四章 言葉にはさせない
第五章 ゼロから
第六章 配られたカード

【感情トリガー】
第一章 幼い交渉
 └稚拙な交渉【失】(ソンナァ)
第二章 豚の欲望
 ├同胞の異変【蟠】(キニナル)
 └世間話の罠【悔/驚】(チクショー/エッ⁉︎ イガイ)
第三章 白鯨の顎
 ├仲間の失踪【訝/呆】(ハ?/ッ⁉︎——)
 └悲壮な決断【失】(ソンナァ)
第四章 言葉にはさせない
 ├存在の抹消【謎】 (ナゾ)
 └禁忌の代償【呆】(ッ⁉︎——)
第五章 ゼロから
第六章 配られたカード

稚拙な交渉【失】(ソンナァ)
 17の青年は、近日、ある領主の領地で大量虐殺が起きることを知っている。とても難儀な能力、『死に戻り』によって。
 大好きな村の仲間たちも全員殺されていたのだ。
 その犯人の正体も
わかっている。
 敵は異教徒の連中だ。
 青年は異教徒への復讐をその瞳に宿し、それを果たす謀略を考える。
 戦力となる味方を増やすこと。
 青年には当てがあった。
 自分が今厚遇を受けている屋敷の領主に助けを乞うこと。
 その領主——若き令嬢と交渉に臨む。
 だが、軍隊を貸してもらうその見返り、どんなメリットが相手にあるのかという基本的な交渉術を青年は心得ていなかった。
 領主は互いに政敵どうしの関係。助ける義理がないのだ。
 そも、青年がなぜ襲われる時期を承知しているのかも相手にとっては不審でしかない。
 向こうも異教徒が煩わしい存在であることを認知しているが、青年は、ただ復讐をしたい一心で、肝心な救いたいという言葉が出ていなかった。
 感情に訴えても令嬢の冷徹な判断は変わらない。
 力は貸せないと一貫される。
『死に戻り』を証明できない以上、青年の望みは初めから
ついえていたのだ。

 地球という星から異世界に飛ばされた17の青年は、ある領主の屋敷に身を置くことを許され、双子姉妹のメイドと仲良くなっていた。
 召喚されてから既に数か月が経つ。
 主の領地を離れていた青年は、
知己ちきの貴族邸におとなった。
 そこに住まう尊大な令嬢に援助要請で出向いたのだが、結果は撃沈。
 彼女に仕える兜の傭兵に屋敷から連れ出された青年は、連れのメイドと合流した。
 青年と同じ異世界召喚者の傭兵は、なぜかメイドの名前を知っていた。
 しかし、その名前はここに居ない姉の方。
 妹が傭兵に正すと、彼は怪訝な様子になる。
 神妙に傭兵が訊ねてきた。
 姉の方は生きているのかと。
 当然、姉は存命だ。
 その事実を知った傭兵の男に異変が生じる。
 彼の殺伐とした雰囲気に青年は悪寒を覚えた。
 すぐにまた
飄々ひょうひょうとした軽い感じに様子がもどったが、傭兵の気分を害したのは間違いない。
 青年とメイドは彼の言葉に従い、邸宅から辞していく。
 遠く離れる二人の背後で、傭兵が嫌悪の視線を送っていたとも知らずに。

 17の青年は焦っていた。
 自分を居座らせてくれている領地がもうじき異教徒らに
蹂躙じゅうりんされることを知っている。
 しかし、『死に戻り』を明かせられない縛りで苦悩していた。
 今は何がなんでも戦力が欲しい。
 青年は主の政敵だろうと構わず支援を求めて訪ね回った。
 が、幼稚な交渉が上手くいくはずもなく、どれも
惨憺さんたんたる結果となった。
 状況は一刻を争う。
 街にいた青年の前に、ほかの政敵関係者
現れた。
 大阪弁を使うはんなりとした少女風の大物商人。
 以前、同じ王城で二人は出会っていた。
 少女からのぶら下げられた餌に釣られ、世間話に付き合った。
 近くの食事
どころに入り、街の商売に関する講義を聞かされる。
 その流れで青年も自然と耳目していた情報を述べていた。
 すると、満足したように少女が席をたつ。
 聞きたいことは全て聞いたと彼女に言われた。
 青年もその違和感にきづく。
 世間話は自分から情報を聞き出すための口実。
 彼女にまんまと
はかられたのだ。
 /
 街で偶然出くわしたのも演出。
 少女は開き直り、青年の無知さを
たしなめた。
 交渉はテーブルに着くまえにどれだけ準備できるかで決まる。
 ボディーガードを連れて悠然と辞する少女は、みんなに合図をだした。
 怪訝な青年をとりまく店内のお客たち全員が立ち上がる。
 みんな少女の陣営の者だったのだ。

 夜の暗い平原を馬車ならぬ竜車が走り続けている。
 暗くて見えない地図を明かりで照らすため、御者の隣りに乗る17の青年は、元いた地球の携帯をとりだした。
 その見慣れないアイテムに、並走していた竜車の乗客が物珍しそうに興味を示してくる。
 今は一刻を争うため、青年は説明を濁し、目的地へと心を向ける。
 地球では見られない一本の巨大な大樹が見えてきたところで青年は気づいた。
 先程まで右側を並走していた竜車の乗客が見えないことに。
 人が突然消えるなんてありえない。
 左側を並走する御者に青年は訊ねた。
 御者が面食らったような顔で言う。
 はじめから反対側は誰も走っていなかった、と。
 /
 いや、確かに右側を竜車は走っていた。
 その乗客だって携帯を覗いてきたじゃないか。
 怪訝な青年の視界が不意にぼんやりと滲んだ。
 闇のなかに靄が発生している。
 青年は消えた乗客の方面に携帯の光で確認してみる。
 そこには、あまりにも巨大な生物の眼が浮かび、それと目が合った。

 夜霧の平原を走り続ける竜車が襲われた。
 規格外の大きさを誇る宙に浮いた白鯨が、大口開いて迫ってくる。
 竜車を操るメイドの美少女が、17の青年を庇いながら白鯨と奮闘する。
 危機迫った窮する異常事態。
 それは死を覚悟するほどのもの。
 地球からきた凡人の青年は、ただ必死に縋り付くのがやっとだ。
 彼を愛慕しているメイドが小袋に入った大金を手渡してきた。
 竜車から降りて迎撃してくると彼女は言う。
 青年はメイドを抱き寄せ、引き止めようとする。
 これまで隣りで献身的に支えてくれた大切な仲間、家族。
 彼女をまた喪うなんて死んでもごめんだ。
 青年に抱きしめられているメイドの顔に、悦びが浮かぶ。
 直後、彼女の手刀が青年の後頭部に降りた。
 意識を失いかける。
 一度、強く抱きしめられた。
 それが最後に感じた彼女の感触だった。

 17の青年は命からがら、主の屋敷にようやく帰還した。
 竜車で帰路につく道中、夜霧の中から現れた大きな白鯨と遭遇し、犠牲となった大切な仲間に命を救われていたのだ。同じく主に仕える使用人で、青年に愛慕していた可憐な美少女。白鯨を迎撃するといって、青年を強引に引き離した彼女は、もういない。
 屋敷の一室で目覚めた青年の隣りで、もう一人の使用人が付き添っていてくれた。
 青年はその使用人に伝えなくてはいけない。双子姉妹である彼女の妹が、白鯨によって帰らぬ人になったことを。
 それを聞いた姉に動揺は見られなかった。
 妹の名前を聞いても知らないという。
 これはなんの冗談なのか。たしか竜車の御者も同じことを言っていた。
 健忘症の類かなにかか。
 妹が確かに存在していたことを証明するため、青年は彼女の部屋へ移動し、室内へ入っていく。
 これまたどういうことか、彼女の小物や飾り物などが全て撤去されており、他の空室と変わらぬ内装になっていた。
 当惑している青年に姉が淡々と言い放つ。
 自分に最初から妹はいない、と。

 突如、異世界に召喚された17の青年には、ある縛りがあった。
 自分が『死に戻り』していることを他人に打ち明けられない。
 打ち明けようとすれば、時間が静止し、闇から形作られる手によって青年の心臓を鷲掴みにされるという恐ろしい苦痛を味わされるのだ。
 だが、もうそんなこともどうでもいいと思えるくらい、青年は切羽詰まっていた。
 仲良くなった屋敷の令嬢——自分の想い女であるエルフの美少女——が殺される運命を見てきている。
 なのに令嬢は妄言であるかのように信じてくれない。
 青年は意を決し、『死に戻り』を打ち明けようとした。
 また、恐ろしい苦痛が時間の止まった動けない青年に襲いかかる。
 これまで一本だった手が、二本に増えた。
 耐え難い苦痛を伴うもなす術がない。
 やがて時間が進みだし、目の前の令嬢がこちらに倒れかける。
 青年はとっさに躰を受け止めた。
 びしゃりびしゃりと大量の血を吐き出す彼女を。

【刺激された感情の種類:7種
驚度😳:★★★
 驚=予想外の出来事(1)
 呆=俄に起こる想定外な事件(2)
思考🤔:★★
 訝=疑問を抱かせる言動や描写(1)
 謎=不可解な問題が提起される(1)
不幸😫:★★★
 蟠=中途半端でまだ未解決(1)
 失=土壇場で期待を裏切られる(2)
攻撃👊:★
 悔=謀られていた盲点(1)

全体を通してのプロット

人物の葛藤・苦しみ
 クルシュとの交渉に失敗する。
 プリシラから援助要請を断られる。
 アナスタシアに謀られる。
 白鯨に襲われる。
 レムとエミリアを喪う。
 ペテルギウスに襲われる。
 終焉の獣に無為にされる。
 絶望からの逃避をレムに断られる。
 再び、クルシュとの交渉が始まる。

問題解決に向かう最後の決意
 次巻へ続く。

読了した感想

アニメではカットされてた意味深な伏線が気になる!
 天上天下唯我独尊スタイルをつらぬくプリシアの騎士——アルの言動がとても看過できない内容でありました。
 西洋風の兜で頭を覆い隠す、どこか飄々とした隻腕の男。
 ナツキ・スバルと同じ地球からの異世界召喚者。
 スバルが藁をも縋るおもいでプリシラを頼り、彼女にすげなくあしらわれたあとのシーンで、アルは、レムのこと『ラム』と呼んでおりました。
 初対面であるはずなのに。しかも姉の名前。
 レムに正されたあと、アルの様子が一瞬危うくなっています。
 姉が生きていると知ってから。
 去っていくスバルとレムの背後で、呟いていたアルの発言も気になります。
ふざけるなよ、アレがそうだってのか……反吐がでるぜ
 アレとは『鬼族の双子姉妹』を指しているのか。
 反吐がでるという言葉から、姉妹に対しての嫌悪が感じられます。
 重要な伏線だと思われるのですが、なぜアニメではカットされていたんですかね?

◆強さがインフレしすぎていて凄さが色褪せる
 スバルが召喚されたこの異世界、もう強さがバグっております。
 鬼族のラムとレム、魔法導師のロズワール、未だ未知数な司書のベアトリス、腸狩りのエルザ、などなど……。
 アナスタシアが携えていた小さな幼女でさえ、傭兵団の副団長。
 今回登場する魔獣『白鯨』の恐ろしさが際立ちません。
 その前に終焉の獣——パックの存在も見せられましたからね。
 なんと、『剣聖』のラインハルトは、その上をいくと示唆する場面がありました。
 いったい、この世界の強さバランスはどうなっているのか?
 そこが面白いとこでもあり、シリアスに見れない欠点でもあります。

◆『白鯨』の夜霧効果が怖しい
 夜霧に晒された行商人オットーは、先ほどまで同行していた同胞仲間やレムの存在をぽっかり忘却されていました。
 でもなぜか、スバルだけは記憶に影響受けておりません。
 寵愛されている魔女の護符てきな効果なのでしょうか?
 つまり、スバル以外の人物が霧に晒されると、白鯨に殺された者たちの存在を忘れてしまう、ということなのか。
 この推測は、どうやら外れていたようです。
 なぜなら、霧に触れていないラムやエミリアまでも、レムの存在を忘れていたからです。
 しかもですよ、記憶だけではありません。
 レムの部屋までも存在がなかったかのように変化していたのです。
 ミステリーですよね。まるでパラレルワールドの世界です。

Re:ゼロから始める異世界生活 6
長月 達平 (著), 大塚 真一郎 (イラスト) 
KADOKAWA
2015年4月25日発売
全306ページ

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