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Re:ゼロから始める異世界生活 10(感情トリガー/感想)

聖域の試練×家族の再会×悪夢の再来

白鯨を打ち倒し、怠惰のペテルギウスを葬ったスバルたち一同。だが、ロズワールが不在のまま戻ってこず――。
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◆登場人物
スバル……『死に戻り』ができる青年。地球から来た異世界召喚者
レム……スバルの介添人で鬼族亜人の美少女。大罪司教との遭遇で永い眠りに就いてる
クルシュ……王選候補の一人。大罪司教との遭遇で記憶喪失になってる
フェリス……クルシュの騎士。ネコミミ亜人
ヴィルヘルム……クルシュの執事
オットー……行商人の青年。スバル達としばらく行動を共にする
フレデリカ・バウマン……ロズワール邸に戻っていた古参の半獣メイド
ガーフィール……短絡的で口の悪い『聖域』の守護者
ペトラ……スバルを慕うアーラム村の少女。ロズワールの屋敷の使用人見習い
ベアトリス……禁書庫の司書をしてる大精霊
エキドナ……『強欲の魔女』。アルビノ然とした少女の姿をしてる
ラム……ロズワールに仕える侍女。レムの双子姉。
ロズワール辺境伯……歌舞伎者の魔術師でエミリアの後援者
リューズ・ビルマ……『聖域』で暮らす集落の代表者
菜月賢一けんいち……スバルの父
菜月菜穂子なほこ……スバルの母

◆あらすじ
 メイザース領に潜伏し、魔女とているエミリアを襲おうとしていた魔女教は、スバルの『死に戻り』によって撃破された。
『白鯨』と『怠惰たいだ』の大罪司教をほふり、アーラム村と村民を救うという偉業を果たしたスバルだが、王都にもどって失望する。
 白鯨討伐後に帰還していたクルシュ陣営が他の大罪司教に襲われていたのだ。
 頭首であるクルシュは記憶障害を負い、竜車に同乗していたレムは、スバル以外のみんなから存在の記憶が消されていた。おまけに昏睡こんすい状態。
 再び『死に戻り』を試すも、事前に戻ることは出来なかった。
 レムとクルシュの症状は、『白鯨』の異能いのうと似ている。『白鯨』は『暴食』の係累けいるいであることをパックはらしていた。記憶をうばったのは、『暴食』の大罪司教とみられる。魔女教との戦いはまだ終わらない。
 このまま進展がないと見て、スバルは王都に避難させた村民を村に帰すことにした。エミリアとレムも同乗させて。
 クルシュ達と別れ、アーラム村に帰還する。だが、『聖域』に避難している残り半分の村民が戻っていなかった。
 スバルらはロズワール邸にもどり、新顔の使用人——フレデリカと対面する。元々居たメイドで、後輩のラムに呼ばれて来た半獣の女性。エミリアの王選事情で一時的に離れていたという。ロズワールの指示で。
 王選開始前の周到な準備に対し、魔女教の襲撃には不用心だったロズワールの矛盾する行動が理解できない。
 スバルは禁書庫の大精霊——ベアトリスに尋ねてみるが、疑問の答えは全て『聖域』にあるとのことだ。
 ロズワールの思惑、福音書の意味、魔女因子の答え。
 半獣のフレデリカがみちびいてくれる、と。
 スバルは村民の安否確認と『答え』を得るため、エミリアと共に『聖域』へと足を運ぶのであった。
 

【目次】
プロローグ 墓所 
第一章   帰り着いた場所で
第二章   聖域への道中
第三章   待ちかねた再会
第四章   親子
第五章   踏み出した一歩

【感情トリガー】
プロローグ 墓所 
第一章   帰り着いた場所で
第二章   聖域への道中
 └痛い痛い話【笑】(アハハ)
第三章   待ちかねた再会
第四章   親子
 └父への懺悔【涙】(ウルウル)
第五章   踏み出した一歩
 └桃色の物体【唖】(ッ⁉︎——)

痛い痛い話【笑】(アハハ)
 17の青年が召喚された異世界では、元居た世界と『約束』の重みが異なり、厳守されるものだと想いびとの天然ハーフエルフは言う。
 複数の精霊と契約を結んでいる彼女にとって、
れは譲れない倫理だった。
 そうとは知らず、彼女との約束を
無下むげにしてしまった青年は、失望されたあげくに決別をされたしまったのだった。
 だが、彼女の窮地をもう一度救うことができ、青年は自分の気持ちを素直に伝えることができた。二人の距離が縮まり、信頼を取り戻すことに成功した。
 そんな二人に、また新たな問題が。
 戦場から避難させていた村人が戻ってこない。
 仲間から秘密の避難場所の行き方を教えてもらったが、それ以上の情報は誓約で話せないと
かたくなだった。
 一大事なのに融通が
かない態度に、青年は不満をらす。
 
そばにいたハーフエルフが青年をたしなめた。
『約束』の重みを再認識し、過去に犯した
あやまちについて青年は謝罪する。
 彼女は、
めてるわけじゃないと釈明するが、当時のイラっとした気持ちを無意識に打ち明けた。
 耳が痛いと
辛苦しんくする青年。
 彼女は自分にも落ち度があったと認め、すぐに仲直りできなかったことを後悔していたと告白した。
 胸が痛いと
悔悟かいごする青年。
 彼女は精霊術師であることに誇りがあるからと釈明し、やっぱり『約束』を軽んじた青年を許さないと非難しだした。
 心が痛いと撃沈する青年。

父への懺悔【涙】(ウルウル)
 不登校の引きこもり高校生が、突然、異世界に召喚されてしまった。
 少年は、王都の街でハーフエルフの美少女に一目
れし、ひょんなことから何度も死を味わう壮絶な経験をかてに彼女との距離を縮めていった。
 そんな二人にまた新たな問題が降りかかる。
 聖域の試練に合格できないと領地の屋敷に帰ることができない。
 試練を受けていたハーフエルフが遺跡の中で倒れていた。
 心配した少年が彼女の
もとに駆けつけると、世界が一変する。
 目覚めると、少年は元いた世界——自分の生家——で、父母と再会した。
 仕事が休みだった父に誘われ、平日の朝の散歩に付き合わされる。
 陽気でぶっとんだ愛情表現をしてくる父から、好きな人はできたかと唐突に尋ねられた。
 瞬間、これまでのことを走馬灯のように思い出し、少年は父に自分の思いを打ち明ける。
 どうして不登校になってしまったのか。
 周りから慕われる父の存在の大きさ。父への
あこがれ。それを誇りにおごっていた自分の行動。味わった敗北と挫折。学校では陰鬱に、家庭では快活に過ごすという不純な精神への困憊こんぱい
 自分の弱さと向き合い、認められたのは異世界で出会った仲間のおかげだろう。自分を慕ってくれる少女からの慈愛と激励。それが無力感に
さいなまれていた少年に自尊心を取り戻す救いとなったのだ。
 これまで家族に迷惑をかけてきたことへの反省が少年の心を満たし、父の前で
滂沱ぼうだと涙をながす。これが現実でないことは知っている。今さら親に恩返ししようにも、もう元の世界には戻れない。
 何度も「ごめんなさい」と
むせび泣く少年を、父は優しく抱き留めていた。

桃色の物体【唖】
 ハーフエルフを狙う魔女教の襲撃をついに退しりぞけた。
『死に戻り』ができる少年の功績だった。
 だが、『聖域』に避難させた村民と仲間が戻ってこない。討伐後から数日も
っているのに。
 王都から主人の屋敷に戻った少年は、『聖域』の行き方を使用人に教えてもらい、想い
びと——ハーフエルフの令嬢と共に出立する。
 聖域の結界を
くぐると令嬢の首飾りが反応した。少年がすぐ奪い取らなければ危ういところだった。その首飾りは、出立前に使用人が用意したもの。結界を通るのに必要だと。
 なぜ、こんな危険なものを令嬢に渡したのか。
 まさか、背反の意図があったのか。
 聖域で村民と仲間との再会を果たし、安堵する。
 が、そこでまた別の問題が発生した。
 聖域に入ると、混血の亜人は結界を通ることができない。つまり、ハーフエルフの令嬢もこの集落から外に出られないということ。

 村民と仲間は集落の亜人らに軟禁されていたため、村に戻れなかったのだ。
 集落の代表が要求してきたのは、聖域の結界が解くことだった。
 それは資格のあるハーフエルフが、遺跡の試練に合格することで成せるもの。
 令嬢が試練を受けることで、村民の解放が許された。
 少年は一旦令嬢と別れ、村民らを村へ無事に届けてあげた。
 気がかりを確かめに、少年は近くの主人の屋敷へと足をはこぶ。
 もし使用人が聖域の解放に反対の立場だったのなら……
 彼女も半獣の亜人。人間である少年では太刀打ちできない。
 屋敷は
いていた。使用人の姿は見られない。なぜか屋敷中の部屋が開けっ放し状態だ。違和感でしかない。嫌な予感がする。
 少年は駆けだした。まだ魔女の呪いで目覚めないメイドの少女の部屋へ。突つと足がもつれ、廊下に倒れてしまう。後ろを振り向くと細長い物体が床に転がっていた。
 そこでようやく少年は気づく。自分の体から
こぼれ落ちたものだと。
 綺麗に裂けた右腹から
れている桃色の内臓が。

【刺激された感情の種類:3種
幸福☺️:★
 涙=力及ばない悔しさと慰めの慈愛(1)
驚度😳:★
 唖=俄に起こる想定外な事件(1)
攻撃👊:★
 笑=進捗具合を狂わせる滑稽さ(1)

全体を通してのプロット

人物・世界観の説明
 魔女教の大罪司教『怠惰』のペテルギウスを斃したスバルは、エミリアと一緒にクルシュの屋敷で静養していた。
 このまま滞在していてもレムの眠り状態は変わらないため、一旦屋敷へ戻ることをスバルは決意する。
 クルシュ、フェリス、ヴィルヘルムと別れの挨拶を交わし、報酬として与えられた竜車にエミリアとレムを乗せ、メイザース領へと帰路につく。

物語が始まる起点・問題
 辿り着いたアーラム村に異変が起きていた。
 魔女教の襲撃を退けたのに、『聖域』に非難した村人たちが村に戻っていない。彼らを案内していたラムや滞在中のロズワールも同じく。
 魔女教対策を講じていなかったロズワールへの不審感をスバルは抱く。

発生した問題への対処
 スバルは屋敷に戻り、ベアトリスにロズワールのことを尋ねる。
 ロズワール邸に戻っていた古参のメイド……フレデリカから『聖域』の行き方を教えてもらう。

問題の広がり・深刻化・窮地
 スバルは聖域で『強欲の魔女』エキドナと邂逅し、試練を受けるための資格を与えられる。
 聖域の守護者であるガーフィールと、集落の代表者リューズと出会う。
 聖域の試練に合格し、結界を解かなければ村人を集落から解放しないと脅される。

人物の葛藤・苦しみ
 聖域の試練でスバルは過去の自分と向き合わされる。
 村人たちの、ハーフエルフに対しての悪い印象を払拭するためには、エミリアが試練を乗り越えなくてはいけない。
 スバルは一旦エミリア達と別れて、解放してもらった村民らと共にアーラム村へと引き返す。
 フレデリカの思惑に計り兼ねてたスバルは、ロズワールの屋敷に居るレム達の安否が気になり、確かめに行く。

読了した感想

フレデリカを疑うのは早計では?
 ラムやレムの先輩に当たる半獣の使用人メイド
 レムの不在で屋敷の管理がままならなくなり、ラムが呼び寄せていた——僕らにとっては新顔の——麗人れいじんです。
 ロズワールの指示で休暇を取らされていたフレデリカから『聖域』の行き方を教わるのですが、その準備に二日掛かると言われました。
 いざ出発となったとき、彼女から輝石きせきの首飾りを渡され、それをエミリアが身につけます。結界を通るのに必要だと教えられ。
『聖域』でその輝石が光りだし、慌ててスバルがエミリアから引き離すと、遺跡のところに転移しました。スバルだけ。
 遺跡でスバルは『強欲の魔女』エキドナと邂逅かいこうし、そこから戻ると竜車でまだ意識を失っていたエミリアと再会する。
 そこでスバルはフレデリカに対し、不審感を抱いちゃうわけです。
 のち、『聖域』の守護者ガーフィールから話を伺うと、首飾りの輝石に問題はないということでした。エミリアが気絶したのは、混血者が結界にれたことによるもの。つまり、危害を与える物ではなかったのです。
 なのにスバルといい、ロズワール、ラム、みんなして少し疑念を抱くような様子に、若干の違和感を感じてしまいました。
 早計では?

スバルの試練に読んでて涙が誘われる
 第一巻から公表されていたスバルの引きこもり。
 なぜ学校に行かなくなったのかという疑問がここで解消されます。
 つまむと、大きくのし掛かる期待への圧力プレッシャーでした。
 その原因は偉大するぎ父の存在。だからその息子も出来て当然という暗黙の期待が寄せられ、その期待にこたえようと必死に努力する。やがて限界を知り、挫折を味わい、違う方向性で目立とうし、気づくと一人ぼっちになっていた。
 周りから常に父と比べられ、勝手に失望される現状に耐え兼ね、ついに不登校が日常となってしまったのです。
 この悔しくてたまらない切実な想いを父に打ち明け、ようやくわだかまりが晴れたスバルに、また切なくて辛い悔しさが生じてしまいます。
 本当の父と母がいる現実の世界に帰ってやれないということ。伝えたいことも伝えられず、これまでの恩返しだってすることができない。それに、この異世界を好きになってしまっている。大切な仲間や好きな女の子とも離れたくはない。
 幻の父の前で堰を切ったように泣きじゃくり、ただただ謝罪するスバル。そんな息子を優しく受け止めていた父は慈愛に満ちておりました。
 そして息子の背中を押してあげたのです。「がんばれよ」と。
 そりゃウルウルしますわ。感動です。

キャラ立ちさせるのが上手すぎる!
 新章でまた個性的な人物が出てきました。
 乱暴な口調で猪突猛進型の半獣ガーフィール。
 能弁でエキゾチックな『強欲の魔女』エキドナ。
 家族愛が強すぎる豪快な父親——菜月賢一。
 天然ボケでおっとりとした母親——菜月菜穂子。
 他にもフレデリカやリューズといった新キャラが登場しますが、この四人が強く印象に残ります。
 アニメだとあまり目立たなかったスバルの母——菜穂子。彼女に設定された会話のパターンが面白く、勉強になります。
 初級『前半と後半の繋がりがない』
 中級『突然よみがえる過去の話』
 上級『どれだけ脇道にそれても、最後は正解に辿り着く』
 一見、支離滅裂な会話でお馬鹿さんのように見えますが、ちゃんと最後は核心を突いてくるというこのギャップ。面白い。
 はぁ〜、スバルの両親も異世界に来てくれないかな。

Re:ゼロから始める異世界生活 10
長月 達平(著)
大塚 真一郎 (イラスト) 
KADOKAWA
2016年9月23日発売
全317ページ

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