サスペンス・ミステリー

【推理小説】神薙虚無最後の事件(感情トリガー/感想)

オルゴール館×不可能犯罪×多角的推理

本に秘された謎、倶楽部が明かします。
「誰かを不幸にする
 名探偵なんていりません!」

圧巻推理に絶賛続出!
人が死なないミステリー
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◆登場人物
瀬々良木せせらぎ白兎はくと……ボロアパート住まいの東雲大学二年生。(20)
来栖くるす志希しき……瀬々良木と同じアパートに住む大学の後輩。(19)
御剣みつるぎゆい……推理を依頼してきた東雲大学一年生。(19)
金剛寺こんごうじきら……東雲大学理学部四年生。名探偵。(22)
雲雀ひばり耕助こうすけ……同大学二年生で煌の助手。

神薙かんなぎ虚無うろむ……《欠陥探偵》
御剣みつるぎまさる……御剣唯の父。《観測者》
星河ほしかわかぐや……御剣唯の母。《探偵姫》
水守みなもり稜湖いずこ……《守護者》
渡良瀬わたらせ鈴子すずね……《調停者》

久遠寺くおんじ写楽しゃらく……怪盗王
沖影おきかげ綸理りんり……第零使徒
十六夜いざよい紅海くれみ……第一使徒
空峰そらみね美満みちる……使徒
秋山あきやま大地だいち……使徒
月見里やまなし読子よみこ……使徒

◆あらすじ
 同じ襤褸ぼろアパートの隣人同士である平凡な学生男女が二人、恋人然と仲睦なかむつまじく帰路にいていた。
 二人は道中、道の真ん中で突然、倒れだした上背の女性に遭遇そうぐうする。
 同年齢くらい。一冊の本を所持していた。
神薙かんなぎ虚無うろむ最後の事件』という表題。
 後輩である来栖くるす志希しきの部屋で目覚めた彼女は、同じ東雲しののめ大学の一年生で、御剣みつるぎゆいという名前であることがわかった。手にしていた記録小説の著者——御剣まさるの娘。
 訳ありげな彼女は、名探偵を求めていた。
 翌日、《名探偵の助手》ということにされている瀬々良木せせらぎ白兎はくとは、来栖と一緒に御剣唯をある人物に会わせることにした。
《東雲の名探偵》と称される大学の先輩、金剛寺こんごうじきら令嬢である。
 モデル顔負けの美貌で頭脳明晰、文武両道の女傑じょけつ
 そんな彼女と邂逅かいこうし、御剣唯は、ある依頼をするのだった。
 父と母が関わった二十年前の未解決事件を解決して欲しいと。
 それが『神薙虚無最後の事件』。
 解決に必要なすべては作中にしるされているとう。
 期日は、四日後の五月二十日。
 きら令嬢の意向で瀬々良木も推理発表会に参加することとなった。来栖も彼のフォロー役にまわり、共に事件の真相を探っていく。
 ——
 かつて国内に君臨した犯罪のカリスマ的存在——《怪盗王》久遠寺くおんじ写楽しゃらく
 それに挑む英雄として名乗りを挙げた一人の天才高校生——《欠陥探偵》神薙虚無。
 互いにしのぎを削り合ってきた好敵手同士が、同じ館で一夜を過ごすという異様な状況の中、不可能と思える事件が起きていた。
 神薙虚無は本当に実在したのか?
 いまだ謎に包まれる過去の未解決事件に、現代の探偵達が挑んでいく!

【目次】
第1章 伝説は蘇る
第2章 《王の宝物庫》への誘い
第3章 オルゴール館の殺人
第4章 残酷な《真実》
第5章 解き放たれた《真実》
エピローグ
全379ページ

【感情トリガー】
第1章 伝説は蘇る
第2章 《王の宝物庫》への誘い
第3章 オルゴール館の殺人
 └密室の永眠【謎】(ナゾ)
第4章 残酷な《真実》
 └妙な昇降機【謎】(ナゾ)
第5章 解き放たれた《真実》
 ├上下に動く【訝】(ハ?)
 ├意外な逆説【訝】(ハ?)
 └神薙と星河【驚】(エッ⁉︎ イガイ)

密室の永眠【謎】(ナゾ)
 五人の使用人をはべらしている館の主——怪盗王が、五人の探偵らをねぎらうつもりで招待していた。
 危害を加えないという
言質げんちを信じ、探偵らは主人の意向に沿うことにした。
 この館には特殊な趣向が
らされている。
 二階に使用人らと探偵らの部屋が
てがわれているのだが、その部屋を開けると音楽が流れるように。一人一人異なる曲で、ドアを閉めると止まるのだ。
 更に、このオルゴール館は、深夜
れい時を過ぎると防犯機能が作動する。
 部屋を開けると、その部屋の音楽が三分間、館内中に流れるように。
 誰が部屋を出たのか曲で
わかり、警戒もできる。
 誰かと開閉が重なった場合、一番先だった部屋の曲が優先される。しかし、三分間が終わっても開いてる部屋の曲は流れない。『開く』という動作に反応するため。
 だから明朝六時までは、部屋を出るなという規則が強いられた。
 ところが、深夜二時過ぎ、館内中に音楽が流れだす。
 主催者である怪盗王の部屋の曲。
 案内人の使用人と三名の探偵が一階に
り、直通エレベーターに乗り込む。
 三階に止まり、怪盗王の部屋へと直行した。
 鍵が掛けられていた。呼び掛けても反応がない。
 一つしかないマスターキーで使用人が開けた。まだ、館内中に音楽が流れている。
 ベッドの上で眠るように横たわっていた。
 息絶えた老人の怪盗王が……。
 なぜ?
 曲が流れ出した時、部屋から出来てた使用人らと探偵らは全て
そろっていた。
 怪盗王の鍵は部屋の引き出しから見つかっており、マスターキーを持つ使用人が犯人なら、二階に瞬間移動でもしない限り、案内役は不可能。
 怪盗王の腹部には刺創があるのに凶器はなし。
 電気毛布で死亡推定時刻も
わからない。
 いつ、誰が、どうやって完璧な密室殺人を行ったのか。

妙な昇降機【謎】(ナゾ)
 怪盗王と彼の使用人五人が持て成すオルゴール館に、五人の探偵達が参加していた。
 一階が食堂やリビングなどの
くつろげる間で、二階が使用人らと探偵らの個室とプレイルームの間、三階が怪盗王の私室となっている。
 怪盗王がなぜ
敵人てきにんを招待したのか真意は分からない。この催しの趣旨はねぎらい。探偵らを傷つけるものではないらしい。
 内容はまだ明かせないとのことだった。
 
寄木細工よせぎざいくの秘密箱の中に、催しに重要な言葉が隠されているという。
 その日は誰も
けず、各自、てがわれた部屋に戻っていった。
 深夜二時過ぎのこと。
 館内中に曲が流れ出した。怪盗王の部屋を示す曲だ。
 使用人らと探偵らが部屋から起き出した。彼らは、皆んな揃っている。
 案内人の使用人と三人の探偵らが代表として一階に下りていく。向かうは三階に直通するエレベーター。四人が乗り込み、怪盗王の部屋へ駆けていった。

 果たして彼は自室で亡くなっていた。それも密室で、腹を刺されて。
 ————
 という
くだんの記録小説を読み、主人公はあることが気になっていた。
 二人乗り用のエレベーターに四人も乗れていたことだ。
 車椅子が必要な怪盗王でも乗れるよう、40キロの余裕は持たせている。
 規定されてる大人一人分が65キロ。二人だと130キロ。つまり、170キロオーバーだとエレベーターは動かない。
 三人であれば、ぎり許容範囲に収まるかもしれないが、四人は無理だろう。
 乗っていたのは成人女性二人と、男性二人。子供ではないのだ。
 なら、どうして彼らは三階に昇ることができたのか?

 放課後の探偵倶楽部に集まっていた学生らが、各々の推理を発表していく。
 二十年前に起きたオルゴール館での殺人事件。
 怪盗王と五人の使徒達が持て成す隠れ家に、五人の名探偵達が招かれていた。
 催しの内容は不明。それも推理してみろということだろう。
 深夜二時過ぎ、主催者である怪盗王は、なぜか三階の自室で殺されていた。
 探偵らと案内役の使徒が駆けつけ、発見したのだが、問題はどうやって彼らがエレベーターに乗れたのか?
 重量制限は170キロ。
 なのに四人が乗り込み、一階から三階まで
あがっていた。
 50キロ代でも、せいぜい三人までが限界のはず。
 という謎について、一人の学生が解答を提示する。
 根拠として挙げたのは、館にシャンデリアが一つものなかったこと。
れたら危ないという理由で、列車や飛行機、客船にも存在はしない。
 以上から、学生はこう推測した。
 オルゴール館は動くのだと。上下に昇降するエレベーターのように。

 オルゴール館で起きた殺人事件の真相を推理し合う会が、放課後の探偵倶楽部で行われていた。
 そのうちの一人が、これは内部犯によるものだと提唱した。
 殺人事件が起きたのは深夜二時過ぎ。
 館内中にメロディが流れ出し、二階に宛てがわれていた参加者全員が何事かと部屋から出てくる。メロディは参加者達それぞれ異なるもので、深夜零時以降、部屋のドアを開けると館内中に流れる仕組みになっている。防犯装置の
たぐいとして。
 一度開かれると三分間曲が流れ、その間に他の部屋を開けても最初の部屋が優先される。
 流れてきたメロディは、三階にある
館主かんしゅの部屋だった。
 後、案内役の使用人と参加者三人が一階に下り、三階直通のエレベーターに乗って
あがっていく。
 館主の部屋は閉まっており、鍵が掛けられていた。
 マスターキーを持っていた使用人が開けると、ベッドに横たわって死んでいる館主を発見する。電気毛布に覆われていた館主は、腹を刺されていたが、しかし凶器はない。
 という一連の事件。犯人は参加者たちを持てなしていた使用人だという。
 午前零時前、参加者の一人は館主の部屋に訪れていた。案内役の使用人が連れてきたのだ。
 館主と参加者の話が終わると、使用人の一人が館主の部屋に残り、またすぐ出てきて参加者を一階まで見送った。
 館主が刺されたのは、使用人が残ったすぐの出来事。悲鳴を上げ、助けを求めなかったのは、自分の死を催しに採用していたから。鍵を掛け、自分でベッドまで戻り、電気毛布を掛けて命を絶ったのだと。
 これが密室殺人の謎の解答。
 すると、すぐに他の部員から反論が挙がった。
 館主のメロディーが流れたのは深夜二時過ぎ。午前零時前という犯行時刻と一致しない。怪盗王の部屋が開けられたとき、使用人はみんな二階にいたのは事実なのだ。
 しかし、それも問題ではないという。
 なぜなら、実行犯である使用人の部屋の曲が、館主の曲に変わっていたのだから。

 一九の少女は、ある事件の真実をとてもおそれていた。
 二十年前に起きたオルゴール館での殺人事件。
 少女の父親《観測者》と母親《探偵姫》も参加していた、父のノンフィクション小説である。
 父は二年前に
不慮ふりょの事故で逆行性健忘症ぎゃっこうせいけんぼうしょうを患い、事件の記憶を失っていた。また、母には関しては娘が幼少期のころに蒸発じょうはつしている。
 真実はついぞ闇の中。
 だが、小説を読んでいくと妙なことに気づいてしまう。
 母《探偵姫》がもう一人の参加者《欠陥探偵》に対し、やけにべったりと寄り添っていたことに。
 父が母に特別な好意を抱いているシーンは
垣間かいま見えるが、それ以上の親近感を二人に感じたのだ。
 事件から二ヶ月後に父と母は学生結婚し、翌年に娘が生まれている。ところが、誕生日から逆算すると、事件の時には既に妊娠していたことが判明した。
 もしかすると、本当の父親は《欠陥探偵》の方じゃないのか。
 事件後に失踪した——戸籍すらない偽名の男の……。
 放課後の探偵倶楽部に集まっていた生徒が、この問題を解決できる——相談してきた少女に希望を与えられる——答えがあるという。
 これなら人数制限を超えて乗ることができたエレベーターの謎や、事件後に館から《欠陥探偵》が失踪した謎の説明がつく、唯一の解答。
 それは、初めから《欠陥探偵》は存在していなかった
 なぜなら、《探偵姫》の
からだを共有していた別の人格が彼だったからである。
 母親は、二重人格の持ち主だった——と。

【刺激された感情の種類:3種
驚度😳:★
 驚=後から知る意外な事実(1)
思考🤔:★★★★
 訝=疑問を抱かせる言動や描写(2)
 謎=不可解な問題が提起される(2)

全体を通してのプロット

人物・世界観の説明
 東雲しののめ大学に通う薬学部二年の瀬々良木せせらぎ白兎はくとが、学部一年後輩でありながら同じ襤褸ぼろアパートに住む隣人の来栖くるす志希しきと下校中、道の真ん中でくずおれだした女性を目撃する。
 のちに所持していた学生証から、同じ大学の一年、御剣みつるぎゆいであることが判明。彼女が手にしていたモノは、ネット黎明れいめい期時代に炎上のもととなった『神薙かんなぎ虚無うろむ最後の事件』という表題の記録小説で、著者は御剣まさる
 来栖の部屋で意識を取り戻した御剣唯から、名探偵を知っていないかたずねられる。
 翌日、瀬々良木と来栖は、大学の先輩である金剛寺こんごうじきらが設立した『名探偵倶楽部』に足を運び、彼女に御剣唯を紹介する。

物語が始まる起点・問題
 御剣唯から、二十年前に起きた未解決事件の解決と、その決定的証拠品を手に入れて欲しいと依頼される。
 未解決事件とは、世間から捏造ねつぞう創作と思われている『神薙虚無最後の事件』。
 証拠品とは、『久遠寺くおんじオルゴール』。

発生した問題への対処
 四日後の五月二十日に、『名探偵倶楽部』に所属する金剛寺、雲雀ひばり、瀬々良木らが各々の推理を発表し、御剣唯の意にかなったものを真相とする。
 まだ未読である瀬々良木は、小説『神薙虚無最後の事件』から全容をつかんでいく。

問題の広がり・深刻化・窮地
 《怪盗王》久遠寺くおんじ写楽しゃらくが催すオルゴール館に、五人グループの名探偵が招待される。
 密室で、死人が一名発見される。
 オルゴール館で火災が発生する。
 参加者の一人、神薙虚無が謎の失踪をげる。
 事件は、犯人による自殺だったとして片付けられる。

人物の葛藤・苦しみ
 重量制限を超えた人数で、なぜエレベーターは作動したのか。
 二階に被害者以外の参加者がすべて揃っていたのに、どうやって三階の部屋を開閉したのか。
 隠し扉や隠し通路がない部屋で犯行に及び、どう密室を作りあげたというのか。
 神薙虚無は、なぜ姿を消したのか。
 御剣唯は、なぜこの未解決事件の真相に緊迫しているのか。
 『名探偵倶楽部』で、推理発表会が始まる。

問題解決に向かう最後の決意
 瀬々良木の助手として参加していた来栖志希が、絶望的な真相を希望に変える最後の推理にひらめく。

問題解決への行動
 来栖の推理による想定外の真相で、御剣唯の杞憂きゆうが解消される。

読了した感想

推理モノでありながら仄かにラブコメ

 謙遜的でキャラの薄い主人公——瀬々良木には、偶然、同じアパートの隣部屋に住む、一つ後輩のガールフレンドがおります。
 小柄で清楚、やや強情っぱりなところもありながら、なぜか瀬々良木と一日交代で夕食を作り合い、それを毎日続けてるという来栖志希。
 でも、二人は恋人同士ではありません。
 当然、瀬々良木は彼女のことを意識してはいるものの、自尊心が低いあまり口説くことなどできません。
 じゃあ、来栖は彼のことをどう思っているのか。夕食代をかせれる都合の良い隣人? そうではなさそうです。
 一見、天然で文学系の可憐かれんな少女然としているのですが、瀬々良木の女関係に敏感であったり、嫉妬しっとする態度が垣間かいま見えました。
 二人は両思いなのかもしれません。
 紺野先生の著作『雛森ひなもり寧子ねいこのミステリな日々』と雰囲気が類似るいじしております。プラトニックなラブコメ要素が好きなんですね。

複数の解答に圧巻!

 オルゴール館で起きた不可能犯罪を説明できる真相とは何か?
 という一つの問いに、複数の解答が存在し得る最もらしい推理が素晴らしかったです。
 あんなトリッキーな発想、なんぼ捻っても出てきません。
 こういう条件・制限でこんな事件を起こすなら、どんな解決策が考えられるか? という問題に対し、紺野先生は四パターンも答えを考えていたなんて。
 答えを一つ思いつくだけでも常人には難しいのに、やっぱり、脳みそのレベルが違いすぎるなぁと思いましたね。

神薙虚無最後の事件 名探偵倶楽部の初陣
紺野天龍 (著)
講談社
2025年1月15日発売
全379ページ

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