サスペンス・ミステリー

【推理小説】魔法使いが多すぎる(感情トリガー/感想)

魔法使い×魔法犯罪×魔法の証明

業界震撼させた『神薙虚無最後の事件』、待望の続編!
〈名探偵倶楽部〉シリーズ第二弾!

「名探偵たるもの、信じ抜くのです!」
剣が宙を舞い、炎を操る。
そんな証言を、あなたは信じられますか?
やさしい名探偵の傑作ミステリー

ーーー
人を不幸にしない名探偵を目指す大学生・志希が出会ったのは、
自らを魔法使いと信じる女性だった。

依頼された事件は、師匠の死。
剣が宙を舞い首が落ちる事件で、
獄炎使いも人形師も次々に犯行を自白する
という異常事態を論理で解決せよ!

「探偵たるもの、依頼人を信じ抜くのです!」
魔法を信じる心に〈名探偵倶楽部〉の論理は届くのか。
青春の日々が蘇る、やさしいミステリ。

◆登場人物
瀬々良木せせらぎ白兎はくと……ボロアパート住まいの東雲大学二年生。(20)
来栖くるす志希しき……瀬々良木と同じアパートに住む大学の後輩。(19)
御剣みつるぎゆい……推理を依頼してきた東雲大学一年生。(19)
金剛寺こんごうじきら……東雲大学理学部四年生。名探偵。(22)
雲雀ひばり耕助こうすけ……同大学二年生で煌の助手。
伊勢崎いせさき……瀬々良木のクラスメイト

聖川ひじりかわ光琳こうりん……世界最強の魔法使い。(75)
聖川アルト……長女。人形師
聖川火乃ひの……次女。獄炎使い
聖川悠里ゆうり……三女。時空旅行者
聖川うらみ……四女。神霊使い
聖川麻鈴まりん……末女。東雲大学に通う一般人。(20)

【目次】
プロローグ
第1章   二十歳の魔法使い
第2章   暗黒魔導書
第3章   魔法 vs.論理
第4章   現実と虚構
第5章   暴かれた真実
第6章   魔法の極意
エピローグ

【感情トリガー】
プロローグ
 └記憶失う薬【知】(ヘェ~)
第1章   二十歳の魔法使い
第2章   暗黒魔導書
第3章   魔法 vs.論理
 └拘束具の嘘【訝】(ハ?)
第4章   現実と虚構
 ├意外な関係【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
 ├安東の行動【謎】(ナゾ)
 ├私達の関係【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
 └麻鈴の佩用はいよう【訝/悔】(ハ?)(チクショー)
第5章   暴かれた真実
 ├影の協力者【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
 ├錆びる液体【知】(ヘェ~)
 └麻鈴の救済【諦】(オテアゲ)
第6章   魔法の極意
 ├上毛カルタ【知】(ヘェ~)
 ├満たす位置【驚/肯】(エッ⁉︎ イガイ)(タシカニ)
 ├生首の真相【解】(ナルホド)
 └来栖の推理【褒】(スバラシイ)
エピローグ
 └影の幇助犯【訝】(ハ?)

記憶失う薬【知】(ヘェ~)
 同じ襤褸ぼろアパートのとなり部屋に住んでいる後輩の女性と学食のテーブル席で探偵談義をしていた青年が、話題を日常会話へと移す。
 先ほど彼女が話していた試験問題について。
 社会問題になっている薬物名が解らなかったらしい。
 飲み会で女性のお酒に混ぜて昏睡させる危ない薬。
 すると青年が答えてみせた。
 ベンゾジアゼピン受容体作動薬。服用から効果が切れるまでの記憶を失う前向性健忘を悪用し、よく犯罪に使われてしまうと云う。


■ベンゾジアゼピンの効果とは
・鎮静
・抗不安
・睡眠障害の改善


■ベンゾジアゼピンの副作用とは
・眠気が残る
・注意力の低下
・ 一過性前向性健忘
・アルコールの摂取による作用増強

■ベンゾジアゼピンの一般的な商品
・ハルシオン(超短時間作用型)
・サイレース(中間作用型)
・ドラール(長時間作用型)

※日経メディカル(処方薬事典)より

拘束具の嘘【訝】(ハ?)
暗黒魔導書グリモワール>を共に読み終えた二十歳の青年と一つ後輩の賢女けんじょが、魔法使いと自称する同大学の小柄な少女と、夜も深い児童公園にやってきた。
 その待ち合わせ場所には、すでにローブを
まとった人物がたたずんでいる。
 十年前の白ひげ殺人事件で、最強の魔法使いである老師を殺害したのは自分だと主張する長身の女だ。
 青年も賢女もまだ真相は掴めていない。まずは彼女の主張を聞いてから整合性のある判断を下すつもりである。
 長身な女は電気を操れる魔法使いらしく、老師の脳を電気的に操作して樽に閉じ込め、今度は電磁気力により鉄剣を動かして樽に突き刺したと
のたまった。
 なんとも荒唐無稽な話である。
 本当に魔法使いなら雷を操ってみろと青年が言うと、女は既に能力が枯れかけていて、二十歳をピークに大魔法は使えなくなったと答えた。
 まったく都合に良い言い訳にしか聞こえない。
 なら大魔法がまだ使えた十年前、なぜ一気に鉄剣で突き刺さず、樽に閉じ込めるという余計な手間を
はさんだのか? 賢女がたずねた。
 老師といえども相手は最強の魔法使い。返り討ちを懸念した女は、樽を拘束具として利用したのだと云う
 しかし、それだと符合がいかない。賢女は指摘する。
 樽にも木の板を固定する金属の
たがが付いており、電磁気力を使えば鉄剣だけでなく樽も動くはずだと。
 それも女は反論してみせた。
 単純に樽は質量的に重いからだと。優に百キロは超えていた。それだけあれば磁場の影響を受けずに拘束具として機能する。
 なかなか
ほころびを出さない女だ。
 と思ったら、賢女が
めたとばかりに微笑み断言する。
 それは無理なのです、と。

 今から十年ほど前に起きたという『白ひげ殺人事件』。
 手がかりは依頼主である自称魔法使い——同大学に通う二年の少女——が幼いころに手記していた日記のみ。
 しかし、ファンタジー要素の強い抽象的な内容が多く、依頼主の養父を殺害した犯人を推理するにはあまりに事実性が乏しい。
 そこで『名探偵倶楽部』の会員である少女が知り合いの情報屋を
つかわし、『白ひげ殺人事件』に関する資料を手に入れた。
 被害者の養父は児童養護施設の経営者で七十五歳。
 二十五日の午前二時に消防へ匿名の通報が入り、事件が発覚。
 被害者は自宅の工房で殺されていた。樽に入れられた状態で外から八本の剣を突き刺され、火事で遺体が半焼。おまけに首を切断されて犯人に持ち去られていた。
 彼の五人の養女らは無事自宅から救出され、無傷で助かっている。
 依頼主の少女は、その五人姉妹の末女。彼女の手記では養父を本物の魔法使いだと思い込んでいたが、資料によると彼はただの奇術師であったことが判明した。
 プロのマジシャン用の小道具などを開発し、売買していたのだと。
 昔、世間を賑わせた怪盗王にも提供していたことが暴露されている。
 施設経営者の裏の顔は、マジッククリエイターだったのだ。
 樽と剣は人体串刺しマジックの道具だったことが分かる。
 では、誰が白ひげの養父を殺害したのか?
 工房の出入りが許されているのは養女らの五人だけ。
 日記ではとても信頼され慕われていた様子が
うかがえたのだが、実は養父のことを憎んでいた養女がいたというのか?
 他に関係者として浮かび上がるのは同じ経営者の男とその秘書。
 事件発覚後、秘書の男は姿を消し、今も行方は
わかっていない。重要参考人であり、被疑者のひとり。
 経営者の男は度々白ひげの自宅を訪れていたことが日記に書かれている。
 物腰柔らかい師匠と違い、いつも怖い目をしていたと。部屋の中でもサングラスをしていたらしい。これは何かの伏線なのか。
 資料によると、彼の本当の名前が表記されていた。
 施設の共同経営者である彼は、白ひげ養父の兄だった
 ちなみに兄には確実なアリバイがあり、事件当時の映像記録も残っている。

 今も行方不明となっている児童養護施設の経営者の秘書。
 十年前の当時、彼は四十二歳。気の弱そうな中年男である。
『白ひげ殺人事件』発覚後、なぜか失踪し、被疑者として指名手配がされている。
 資料によると、彼は最後に妙な行動を取っていた。
 二十四日の午後六時ごろ、白ひげの自宅を訪れており、養女たちに菓子折を渡して立ち去っていたらしい。
 養父はまもなく帰ってくる、と意味深な言葉を残して。
 菓子折を食べてしまった養女たちはその場で眠ってしまい、火事で焼け死ぬところを消防に救助された。
 だが、よく考えるとおかしいことに気づく。
 火災の通報が入ったのは二十五日の午前二時ごろ。放火に八時間も空白があったのは何故だろう?
 匿名の通報者は秘書の男だったのだろうか?
 少女らを殺害する気があったのか、それとも無かったのか。

依頼主である自称魔法使い末女は、次女の姉弟子と無事和解し、<暗黒魔道書グリモワール>の件は一件落着した。
 しかし、肝心の師匠——養父を殺害した魔法使いの正体は謎のまま。
 次女の姉弟子から長女の連絡先を聞いた末女は、同大学の探偵たちと一緒に彼女が経営する人形店を訪ねた。
 長女の姉弟子と末女が十年ぶりの再会を果たす。
 話題は白ひげ殺人事件に変わり、現在、行方不明の秘書が被疑者として指名手配されていることに長女の姉弟子が否定する。
 秘書は犯人ではない。師匠は魔法で殺されたのだから、と。
 なんと長女も魔法が実在すると信じるスタンスだった。
 それどころか、師匠を殺害したのは自分だと自白した。
 彼女は人形師。姉の魔法では殺害できないと末女が指摘する。
 すると店の奥からもう一人の女性が現れた。
 神霊使いである三女の姉弟子だった。
 末女に付き添った探偵らも動揺を隠せない。
 長女は自分だけじゃ殺害できないことを認めた。三女と協力して
ったのだと。
 なぜ、あれほど慕っていた師匠を殺害したのか?
 気になるのは動機だ。
 末女が訊ねると長女は
はばからずに答える。
 私達の恋仲を邪魔されたから、と。
 長女と三女は恋人同士だったのだ。

 魔法使い一家の長女、次女、三女が主張する師匠殺しの自白は、名探偵倶楽部に所属する女子大生によって論破された。
 依頼主である末女とも和解し、無事、一件落着。
 残るはあと一名。四女の魔法使い。
 大学の部活棟——名探偵倶楽部に呼び出された四女が姿を現した。
 
真贋しんがんの判断を委託された女子大生と末女もその場に居合わせ、『白ひげ殺人事件』について四女の話を伺っていく。
 やはり彼女も自分が師匠を殺害した犯人だと主張した。
 姉弟子達が自白してきた理由は極意を得るための手段だった。最強の魔法使いを超えた証となり、極意を手にする資格が得られる。末女が手記した手帳——<
暗黒魔導書グリモワール>にの極意が移されているようで、だから末女に近づき、手帳を奪おうとしてきた。
 ところが、本当の狙いは違った。
 ずっと過去に
とらわれている末女を手帳を奪うことで救ってあげようとしていたのだ。
 恐らく四女も同じ理由で嘘の自白を主張しているのだろう。
 その矛盾を指摘し、彼女が犯人でないと証明しなくてはいけない。
 四女が主張する殺害手口は、至ってシンプルだと云う。
 魔法を使わず、物理的に行ったのだと。そもそも魔法なんてものは存在しないと言い切った。姉妹の中で唯一彼女だけが現実的な論拠を語った。
 二十四日の夕方、帰宅した師匠を工房に呼び出し、殺害。
 剣が樽に向かって飛び出してきたのは、そういう装置だったから。
 樽と剣はマジックセットの一つだと。
 すると他の姉弟子から反論が飛び出す。
 あの日の夕方は、クリスマスパーティーの準備で一緒に行動していたと。
 それなら他の目を盗んで師匠を殺害するのは不可能だ。
 四女が得意とする<時空旅行>——瞬間移動でもしないかぎり。
 でも、それだと魔法を否定する論理に矛盾する。
 四女は
の疑問に答えれるとのたまう。
 
おりよく部室に一人の人物が入ってきた。
 見た目が四女と
うり二つの女性だ。まさか双子がいたとは。

 被害者は自宅裏手にある自身の工房内で殺されていた。
 事件当時、夕方五時以降から雪が降り始め、火災通報で消防隊や警察が駆けつけた深夜二時過ぎまでは工房に誰も入っていない。
 なぜなら雪で積もっていた正面入り口に足跡が残っていなかったから。
 裏口は鍵が掛かっていたし、警察の検べでは錆びが酷くて使えないとのこと。
 つまり死亡推定時刻の夕方六時頃は、ほぼ密室であったのだ。
 自分が殺したと主張する四女は、どうやって現場から気絶してた末女を運び、自宅内に戻ったというのか?
 なにも難しくないと四女は答えた。
 普通に
ひさし付きの裏口から被害者と入り、犯行後も裏口から出て行っただけだと。
 その時、オキシドールを鍵穴に注入したらしい。
 オキシドールとは過酸化水素のこと。
 漂白剤や消毒薬などに含まれる成分で、強力な酸化力を持つ。

 名探偵倶楽部に所属する女子大生の反証によって、姉弟子達は師匠を殺害していなかったことを認めた。
 依頼主である末女の懸念を一つ解消でき、女子大生も安堵する。
 ところが、突然嵐のように自家用ヘリで現れた尊大な女性——東雲の名探偵と称される先輩——が現れた。
 事の
顛末てんまつをなぜか既知していた彼女は、『白ひげ殺人事件』の真相に辿り着いたと豪語する。
 その圧倒的な考察力によって悲劇的な真実が明かされた。
 依頼主が傷つかない真相を探しだすという信念を無慈悲に砕かれ、女子大生は反論もできずに完敗した。
 そんな彼女の自宅アパートに、隣部屋の先輩男子がやってきた。傷心してる想い女を元気づけてやろうと、バイト先で覚えたカクテルを作るために。
 その男子大生は最近『ギムレット』を練習してると
う。
 レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説『長いお別れ』に出てくるカクテルである。
「ギムレットには早すぎる」という有名なセリフを思い出し、女子大生は何か雑念に駆られた。
 男子大生から「話してほしい」と云われる。「力を合わせれば二百万だよ」と。
 その言葉に一瞬呆気にとられ、やがて女子大生に
天啓てんけいが降りた。
 思わず
嬉々ききと男子大生に抱きつき、のたまう。
 これで依頼主を救えると。
 東雲の名探偵による完璧な推理に穴があるとでも言うのか?
 依頼主を救済する真相とは、果たして存在するのだろうか?
 白ひげの師匠は、本当は生きてるのか? だとしたら、この十年で連絡がないのはどうして。
 未だ行方不明の容疑者——養護施設経営者の秘書の男も、どうして見つからない? 
 去年八六歳で亡くなった師匠の兄は、本当に事件と無関係だったのか? 完璧なアリバイには、何か訳があるのではないか。
 魔法という世界観は否定しなくていいのなら、瞬間移動や火炎魔法、空中浮遊など自由に都合よく作れるし、そんな答えでは読者も納得しないはず。
 来栖の閃いた真相……まったく想像もつかない。

【刺激された感情の種類:9種
賛美🥳:★
 褒=解決策に納得する(1)
驚度😳:★★★★
 驚=後から知る意外な事実(4)
思考🤔:★★★★★★★★★★
 肯=諭す言葉に納得する(1)
 知=豆知識を教えてくれる(3)
 諦=希望や答えがみえない(1)
 解=不可解が解明される(1)
 訝=疑問を抱かせる言動や描写(3)
 謎=不可解な問題が提起される(1)
攻撃👊:★
 悔=謀られていた盲点(1)

全体を通してのプロット

人物・世界観の説明
 主人公は瀬々良木せせらぎ白兎はくと、二十歳。
 東雲しののめ大学の二年で後輩の来栖くるす志希しきとは同じ襤褸ぼろアパートの隣人同士。
 四年の金剛寺こんごうじきらが創設した<名探偵倶楽部>に所属し、東雲の名探偵と持てはやされるきら先輩の助手ということになっている。
 前回は一年の後輩から依頼された二十年前の事件——『神薙かんなぎ虚無うろむ最後の事件』——の謎に部員たちがのぞみ、煌先輩が推理した不幸な真実を、見事、同じ部員の来栖志希が希望の真実にくつがえした実績がある。
 夏休み、アルバイトから帰路についていた瀬々良木は、夜の公園で対峙たいじし合っている女性達を目撃する。魔女のようなコスチュームにまとった女性が、本物の炎を魔法で出す瞬間も。
 その内の一人——小柄な魔法使いは、瀬々良木と同じ大学に通う二年の聖川ひじりかわ麻鈴まりんであることが判明する。
 のっぴきならぬ事情を抱える麻鈴に、瀬々良木は金剛時煌先輩を紹介すると請け合う。

物語が始まる起点・問題
 聖川麻鈴から真贋の判断を依頼される。
 十年前の『白ひげ殺人事件』で姉弟子の火乃が師匠を殺したと自白しており、彼女の嘘を証明できないと大切な魔導書が奪われてしまう。
 事件の手がかりは全て自身が手記した<暗黒魔導書グリモワール>の中にあるとう。明日の夜、火乃と会うまでに見極めてほしい、と。

発生した問題への対処
 金剛時煌が不在のため、瀬々良木と来栖志希が代わりに事件の謎解きを請け負う。

問題の広がり・深刻化・窮地
 聖川火乃との議論対決。
 聖川アルトと聖川うらみコンビとの議論対決。
 聖川悠里との議論対決。
 金剛時煌から告げられる酷な真実。

人物の葛藤・苦しみ
 煌先輩の完璧な推理を覆す真相の模索。
(主人公らがというより、読者側が模索に苦しむ)

問題解決に向かう最後の決意
 元気づけに訪れた瀬々良木の何気ない言葉から、来栖の脳裡に新たな推理が完成される。

問題解決への行動
 来栖志希が最も相応しい真相を発表し、依頼主である麻鈴を救済する。

読了した感想

魔法世界を肯定した上で推理するというのが斬新!
 其れを論理で否定するのが探偵というイメージですが、今回の依頼主は魔法世界を盲信しており、その想いを汲み取って推理しなくてはいけません。
 このパターンは初めてなもんですから、<暗黒魔導書>を読んでも全くちんぷんかんぷんでありんした。
 故に私こそが師匠殺しの犯人だ、と自白する魔法使いの弟子達との論議バトルは大変面白かったです。

伏線の使い方が巧妙!
 事件を紐解くヒントのキーワード(伏線)を巧みに使ってるなぁと後から感嘆します。
 敢えて分かりやすい伏線を提示しながら、分かりにくい伏線を散りばめているんですよ。
 何度も登場するキーワードについ引き摺られてまうから、ほかの重要なヒントになかなか気づけません。

◆これって伏線じゃなかったのかな?
 一つ、回収されないまま終わった伏線がありました。
 麻鈴の両親が事故死した時期です。
 事件の推理に影響は与えないものの、放置されていたので気になりました。
 麻鈴が手記した<暗黒魔導書>では、彼女が六歳のときに両親を亡くしたと書いてあるんですけど、来栖志希が依頼していた情報屋の資料によると、麻鈴が三歳のときに交通事故で亡くしてるとあります。
 トラウマ級の出来事を勘違いして憶えていたというには期間が空きすぎてるし、来栖志希が信頼する謎の情報屋が誤ったとも考えづらい。
 もしかすると作者や編集者も見逃していた誤字の可能性もある。

◆煌先輩と来栖の推理対決が圧巻!
 さすが『東雲の名探偵』と呼ばれるだけの実力が、これみよがしに見せつけられました。
 前巻の『神薙虚無最後の事件』と同様、来栖にとって不都合な真相を瑕疵なく推理していく無慈悲なところが煌先輩の魅力であり、また、完全無欠と思われる名探偵の推理を、別の視点から覆してしまう来栖の天才的な発想に度肝を抜かれます。
 個人的には前巻より頭を使い、苦悩し、満足度も高かったです。
 未解決事件に優しい真実を与える女神——来栖志希。
 其の女神に無自覚で天啓を与える助手——瀬々良木白兎。
 また二人の描くやさしいミステリが読みたいですね。

魔法使いが多すぎる 名探偵倶楽部の童心
紺野 天龍(著)
講談社 
2025年2月14日発売
全356ページ

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