
怪事件×推論の巫女×虚構
巨大な鉄骨を手に街を徘徊するアイドルの都市伝説、鋼人七瀬。
人の身ながら、妖怪からもめ事の仲裁や解決を頼まれる『知恵の神』となった岩永琴子と、とある妖怪の肉を食べたことにより、異能の力を手に入れた大学院生の九郎が、この怪異に立ち向かう。その方法とは、合理的な虚構の推理で都市伝説を滅する荒技で!?
驚きたければこれを読め――本格ミステリ大賞受賞の傑作推理!
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◆登場人物
岩永琴子……ベレー帽と赤いステッキが特徴の小柄な美少女
桜川九郎……妖怪に恐れられる大学院生
弓原紗季……真倉坂警察署交通課の女性警官。九郎の元恋人
寺田徳之助……真倉坂警察署刑事課巡査部長
【目次】
第一章 一眼一足
第二章 鋼人の噂
第三章 アイドルは鉄骨に死す
第四章 想像力の怪物
第五章 鋼人攻略戦準備
第六章 虚構争奪
第七章 秩序を守る者
【感情トリガー】
第一章 一眼一足
├破局の理由【訝】(ハ?)
└左足と右眼【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
第二章 鋼人の噂
第三章 アイドルは鉄骨に死す
第四章 想像力の怪物
第五章 鋼人攻略戦準備
第六章 虚構争奪
第七章 秩序を守る者
定期検診で大学附属病院に訪れた一七の美少女は、裏庭のテラスベンチに座る細身の男に気づき、その隣りに腰を降ろした。
二年前に病院の廊下で転倒しかけた彼を救ったのが一目惚れのきっかけ。五つ上の彼は長期入院してる従姉の見舞いで度々来院し、交際している彼女も同伴させていた。
これはチャンス。仲良しになった看護師曰く、彼は最近彼女と破局したらしい。
好きな男に臆することなくド直球でアタックし、自尊心が低下している彼の心の隙間に入り込もうとする強かな美少女。
だが、今は新しい恋愛に踏み切れないと遠回しに断られてしまう。
美少女は諦めない。彼女は破局した理由を憚らずに訊いた。
結納直前まで順調だった恋人同士だったのだ。
朴訥とした優男の印象を持つ彼が由を語り出した。
去年、彼女と京都旅行に出かけた時だと云う。新年を迎えたばかりの夜中、月明かりに照らされた川沿いの道を二人で歩いていたとき、それは水辺に現れたのだと。
カッパが。
大学病院の裏庭テラスベンチに並んで座る二人の男女。
ベレー帽をおしゃれに被る小柄な美少女が片想いの男に破局した理由を訊ねると、意外な答えが返ってきた。
今から五ヶ月前の年明け深夜、彼女と川沿いを歩いていたらカッパと遭遇したという。皮膚が緑色で口が尖ったあのカッパだ。それがきっかけで別れることになったのだと。
お茶を濁すように立ち去ろうとする彼を、少女は手に持つ赤いステッキで遮った。
彼女は魑魅魍魎の存在をなぜか認めている。六年前、その類に誘拐されたことがあると告白した。それもにわかに信じがたい。
当然、男は自分を揶揄っていると疑う。
だが、当時の地方新聞にちゃんと載っていると少女は毅然と言った。
発見された女の子は左足の膝下から切断され、右眼をくり抜かれていたと。
なんと少女の右目は義眼で、ワンピースから覗けるソックスの下は義足だったのだ。
【刺激された感情の種類:2種】
驚度😳:★
驚=後から知る意外な事実(1)
思考🤔:★
訝=疑問を抱かせる言動や描写(1)
全体を通してのプロット
【人物・世界観の説明】

大学病院に通院している一七の岩永琴子には片想いの男性がいる。その男が最近恋人と破局した噂を聞き、見舞いで来院していた桜川九郎にアプローチをかけていく。
琴子より五つ上の桜川九郎には同じ大学で一つ上の恋人がいた。結婚間際まで順調だったのだが、婚前旅行で出かけた先でカッパと遭遇してしまい、以降彼女から恐れられるようになり破局した。
九郎は妖怪の肉を喰べても無事だった特殊な体質で、妖怪達の能力も引き継いでいる。人魚の不死と件の未来決定能力を持っているため、他の妖怪達からは恐れられる存在である。
対して琴子は十一歳の時に妖怪に拉致された経験があり、その妖怪たちに懇願され、彼らの知恵の神になることを決意した。そのおかげで常人が視ることのない魑魅魍魎が視え、触れることも可能になった。

九郎と別れてから二年半後、交通課に所属していた弓原紗季は刑事課の寺田巡査部長から協力を頼まれ、ある怪事件に関わっていく。三日前に対応した交通事故の証言で、ハンドルを誤った運転手は奇妙な存在を目撃していた。
其れは二メートルくらいの細長い鉄骨を携え、ミニスカートのドレスに大きなリボンを頭につけた顔のない女性が突然車の前に現れた、と。
その特徴は今年の初め亡くなった元人気アイドルの姿と一致しており、この真倉坂市内では最近都市伝説となっているものだった。
【物語が始まる起点・問題】
仕事帰りで帰路についていた弓原紗季が、元人気アイドルの亡霊を退治しようとしている岩永琴子と遭遇する。
【発生した問題への対処】

岩永琴子から怪事件に関わるなと忠告されたが、弓原紗季は亡くなった元アイドルの資料を手に入れ、彼女の経歴から事故死の真相を探っていく。
琴子も亡霊について探っていたが手詰まりとなり、仕方なく弓原紗季の力(職権)で捜査資料の情報を得ようとする。
【問題の広がり・深刻化・窮地】
亡霊の鋼人七瀬に不死身の桜川九郎が挑むが、相手も不死身で普通に斃すことはできない。
鋼人七瀬は人々の想像力が生み出した怪物であることが判明する。
亡霊を退治するには鋼人七瀬を生み出しているまとめサイトの掲示板に、存在を否定できる最もらしい物語を提示する必要がある。
【人物の葛藤・苦しみ】
鋼人七瀬の基となった七瀬かりんの捜査ファイルから、合理的な虚構物語に必要な疑問点の整理と仮説や推測を立てていく。
ついに鋼人七瀬による犠牲者が出てしまう。この事件も合理的な説明を用意しなくてはいけない。
鋼人七瀬を生み出した黒幕の正体が明らかになる。
【問題解決に向かう最後の決意】
岩永、弓原、九郎の三人が、出現した鋼人七瀬の下へ臨む。
【問題解決への行動】
九郎が鋼人七瀬を抑えている間、岩永が準備した四つの虚構物語で、まとめサイトの閲覧者達に怪物の嘘を証明してみせる。
読了した感想
◆真実なんてナンセンス!ってのが斬新!
真実へと導くのが推理の醍醐味だと思ってましたけど、その逆もあったのかと新たな視点で楽しめたのは意外でした。虚構へと導く推理なのです。
常識の逆で驚かせ、楽しませるという天才的な挑戦が素晴らしいですよね。
◆ただ感情移入による没入感は乏しい
推論による試行錯誤が主要過ぎる一方で、物語のエンタメ性は残念という感想です。
世界観やキャラ設定の説明、事後報告の説明が多く、まるで説明書を読まされてる感が否めません。
顔のない女の亡霊が襲ってくるというホラー展開も、主人公らは然も当たり前のように果敢な行動をとるもんだから、まったく恐怖感が伝わってこない。
バトルシーンも俯瞰による観察描写で、九郎の活躍がお座なり。
九郎の未来決定能力が使われていたのかも全然分からない。
だってこれは虚構の推理の譚だからってことですかね。
◆亡霊の嘘を証明する僕の虚構推理とは
都市伝説の鋼人七瀬が存在しないことを証明するには?
仮説)鋼人七瀬の正体は七瀬かりんのストーカーだった!
だから人気アイドルの娘に集る父親を代わりに殺害し、邪魔だった姉とも不仲になるよう仕向けていた。
だが、かりんがマネージャーとデキていたことに激怒し、彼女を殺害することを計画する。マネージャーに成り済まして立ち入り禁止の建設予定地に呼び出し、隙をついてスタンガンで気絶させた。防御反応がなかったのはそのため。首の火傷を消すため、鉄骨を倒して顔を潰した。
なぜ七瀬かりんの姿で一般人を襲うようになったのか?
ストーカーは七瀬かりんに成りたい願望が強く、成り切ることで一心一体感を味わいたかった。これぞ究極の愛という偏執の持ち主。
一般人を襲ったのは、偶然目に入った男がかりんを奪ったマネージャーと重なったため。憎しみが転移し、長い鉄骨を武器に振り回した。
今も捕まっていないこのストーカーの性別は不明。長い鉄骨を振り回すくらいだから男の可能性が高いが、ストーカーが必ずしも異性とは限らない。女の可能性もある。
以上、都市伝説の鋼人七瀬の正体は、妄想に囚われた只の人間である。
『虚構推理』
城平京(著)
片瀬茶柴(イラスト)
講談社
2019年1月23日発売
全332ページ
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