
ケースワーカー×強請り×ハニートラップ×群像喜劇
26歳の守は生活保護受給者のもとを回るケースワーカー。同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースの女性に肉体関係を迫っていると知った守は、真相を確かめようと女性の家を訪ねる。しかし、その出会いをきっかけに普通の世界から足を踏み外して――。生活保護を不正受給する小悪党、貧困にあえぐシングルマザー、東京進出を目論む地方ヤクザ。加速する負の連鎖が、守を凄絶な悲劇へ叩き堕とす! 第37回横溝ミステリ大賞優秀賞受賞作。

◆登場人物
佐々木守(26)……配属一年の生活福祉課・保護担当の社員
宮田有子(26)……佐々木と同期の同僚
高野洋司(33)……佐々木の七年先輩の同僚
嶺本……生活福祉課・保護担当課の課長
山田吉男(42)……元タクシードライバーで離婚歴のある独身ケース
林野愛美(22)……四歳の娘がいるシングルマザーのケース
金本龍也(29)……セクキャバ店長でもある森野組のヤクザ
莉華(22)……金本の店で働くセクキャバ嬢。愛美の知人
石郷……総合病院に勤めるヤブ医者
古川佳澄(32)……八歳の息子がいる無一文のシングルマザー
【目次】
悪い夏
エピローグ
【感情トリガー】
悪い夏
├内密の相談【怪】(ン⁉︎ ナンダロウ?)
├姦淫する者【蔑】(キモチワル)
├癇癪持ち母【唖】(ッ⁉︎——)
├元女暴走族【嫌】(ナンダコイツ)
├虐待の若母【唖】(ッ⁉︎——)
├色恋の誘惑【唖】(ッ⁉︎——)
├男色の上司【忌】(ムリムリ…)
├金本の脅迫【恨】(コイツ…)
├バイアグラ【惧】(マズイ)
├捏造の協力【傷】(ショック)
├宮田の頼み【謎】(ナゾ)
└警察の訪問【驚】(エッ⁉︎ イガイ)
エピローグ
猛威を振るう真夏の暑さの中、生活福祉課に配属されてまだ一年の佐々木守が午前中の家庭訪問を終え、チャリで向かった近場の料理店で昼食を摂っていたときだった。
二十六歳の同期仲間から電話がきた。チームの紅一点でありながら歯に衣着せぬ物言いで周りから煙たがられている女性である。
彼女と電話で話すのは始めてだ。
携帯に出ると彼女から今夜時間を作ってほしいと頼まれた。相談があるそうだ。
守は風邪気味で不調なのを忘れてうっかり承諾してしまう。内心後悔しているのがわかる。
どんな相談事なのか事前に尋ねると、彼女から同僚の名前が出てきたではないか。責任感の薄い七年先輩の男。詳しくは会ってから話すとのことだ。
くれぐれも内密に、と付け加えて。
日傘を差して家を出た愛美は近くのコンビニでタバコをカートンで頼んだ。
見た目のせいで身分証はないかと店員に聞かれたが、二十二歳で子供もいると言うと追及はなかった。が、お金が足りず、バラで足りるだけ購入し、自宅へと戻った。
玄関に男物の革靴が置かれているのを視認し、愛美に落胆の色が浮かび上がる。
担当のケースワーカーが勝手にソファでくつろいでいた。薬指に指輪を嵌めた壮年の男だ。
その隣で四歳の娘がアイスを食べている。愛美が買ったものではない。
鍵を締めないで不用心じゃないかとお為ごかしな注意を吐いた男は、愛美の薄着姿を全身舐め回すように視線を這わし、自分の隣に誘いだした。
憮然と愛美は彼に従っていく。
太ももに手を置かれ、「早速いいかな」と指輪を外して催促してきた。
愛美は娘に部屋でお絵描きしといでと居間から退かせる。
アイスを食べ終えた小さな娘は黙って従い、無言で襖を閉めた。
外道の唇が愛美の首筋に這ってくる……。
事が済んだ後、担当のケースワーカーは午後の家庭訪問に出て行った。
体だけでなく金の要求も釣り上げられ、愛美に彼への憎悪が増していく。が、何もできない無力な自分に嫌悪すらもする。
愛美は部屋の襖を開け、チラシの裏面にうつ伏せでお絵描きしている娘の許に近づいた。
相変わらず何の絵を描いているのか大人には理解不能だ。
娘の髪を手で梳いてやりながら愛美が何の絵なのかを尋ねた。愛情が全くないということでもない。
すると娘は愛美を避けるようにすっと体勢を変えた。居間で何が起きていたのか子供ながらに分かっているのかもしれない。きっと嫌なことを無理やりさせられていたのだと。
そんな娘の尻を愛美は憎らしげに蹴りつけた。勢いがつき、娘の頭が壁に当たってゴッという鈍い音が響く。
まったく予期しなかった愛美の酷い仕打ち。娘の動きが止まってしまった……。
お絵描きに無我夢中の四歳の娘を家に残し、愛美は知人のシングルマザーとファミリーレストランに来ていた。
二人は先ほどまでパチンコ店で遊んでいたのだが、ここで知人が今日誘ってきた本題を切り出してきた。
またセクキャバで働いてほしいと。
前回はキャバクラだと嘘ついていたくせに。そのせいで客として来店したケースワーカーにバレ、強請られるようになったのだ。
愛美はきっぱりと拒否するが、どうもこの女は食い下がってくる。しつこい。ねちねちと。
働いてるセクキャバの店長に惚れてるもんだから期待に応えようと必死だ。
ナマポもらえてるのも自分のおかげだろと恩着せがましく言ってきた。助言しただけなのに厚かましい。
このクソ女と愛美が睨み合う。
すると「喧嘩売るなら買うよ」とテーブルを叩いて愛美に威圧してきた。
隣の老人が喧嘩を窘めようとすると、クソ女が暴言を飛ばす。
元レディースの暴走族上がりだから気性が荒い。
仕舞いにはヤクザでもある店長の名前を出し、愛美を酷い目に遭わしてやると脅してきた。
まさに虎の威を借る狐のごとく、傍若無人のクソ女である。
愛美は今、もっとも逼迫している状況といえた。
悪徳ケースワーカーから救ってやるし、報酬も支払うというセクキャバ店長の甘言に乗っかり、愛美は協力することにした。
件のケースワーカーに抱かれているところをビデオカメラに収め、証拠を提供した。それを脅しのカードとして店長がケースワーカーの男を強請るのだ。シノギの駒になってもらうと。
だが、意外にもこの計画は頓挫してしまう。
愛美の自宅に二人の面識ないケースワーカーが訪問してきた。
なぜか悪徳ケースワーカーの悪事を知っていた。
すぐに連絡とった店長からシラを切れと命じられ、彼らに帰ってもらった。
果たしてこの選択が正しかったのか、道理に暗い愛美には分からない。
店長に従えば悪徳ケースワーカーから解放され、報酬の五十万が手に入り、生活保護も継続する皮算用だったがそれも不確かだ。
警察に被害届けをだして欲しいと言ってきたケースワーカーに従えば、隠れて働いていたことを看過するというが信用できない。認めれば生活保護を打ち切られる理由も与えてしまうのだ。
開けない道に濛濛とするなか、店長の舎弟のような男が家にやってきた。
彼は訪問してきたケースワーカーの男の方に関心がある様子。
当然だ。彼を担当しているケースワーカーだったのだから。
すると、またインターホンが鳴り出した。
数時間前に追い返したケースワーカーの男の方だ。
舎弟がクローゼットに隠れると、愛美がドアを開けた。
何しにまた来たというのか。
二十代半ばの大人しそうな男がクレヨンセットと絵描き用紙を持っている。娘に約束したから渡しに来ただけだと云う。
いつも感情希薄な娘が嬉々として玄関に現れ、無言で受け取るとその場でお絵描きに夢中となった。
愛美が苛立つ。邪魔だから部屋に行けと言っても聞かない。怒鳴ってやると娘がやっと立ち上がった。
その時落としたクレヨンが床に散らばり、愛美は娘の頭に一撃を放った。
目の前のケースワーカーに咎められても罪悪感はこれっぽっちも見られない。
その様子を見て彼は悟った。あの娘は虐待を受けているのだと。
どうして自分の娘にあんな仕打ちができるのか。母親なのに。愛情というものはないのか。
ケースワーカーが質す。
愛美は愛情というものを分かっていなかった。どうやったら娘に持てるのか。
愛美は孤独。金も知識も社会的サポートさえ持ち合わせていない。男に裏切られたあげく、面倒な娘だけを残された哀れな女。
そんな彼女にケースワーカーの男が自分なりの持論で教え諭そうと頑張っている。
すると突然、愛美は彼の胸に抱きついた。「たすけて」と硬直してる彼の耳元にささやいて。
今まで女気のなかった二十六の佐々木は、融通の利かない堅物女の同僚に嘘をついてケースのシングルマザーの自宅にお邪魔していた。
まさかこんな展開になるとは驚きだ。
四歳の娘に虐待する酷い女だったが、彼女に「たすけて」と耳元で囁かれ、抱きしめられた衝撃が忘れられず、昨日の日曜日も母娘と一緒に公園で遊んでいた。
社会福祉課という立場を忘れた盲目な男である。
堅物女——宮田有子に知られれば、佐々木も悪徳ケースワーカーと同類として見られるだろう。弱みにつけこんで金と身体を強請っているわけでもないのに。
佐々木は買ってきた食材で夕飯を一緒に作り、まるで家族のように団欒と楽しい時間を過ごしていた。
アニメを見ていた娘はもう熟睡してしまっている。
そろそろ部屋を辞そうとする佐々木を、まだ八時だからと母親の愛美が引き止めた。
二人だけの時間となり、缶チューハイの空きが増えていく。
気づくと、二人の唇同士がくっつく寸前だった。
が、佐々木が堪えられずその場で嘔吐し、愛美が退いた。
実はめっぽう酒が弱いのを無理して飲んでいたようだ。
愛美から風呂へ行くよう促され、佐々木は覚束ない足取りで向かい出した。
愛美はいらないTシャツを取り出し、台所で水に浸そうとする。
そこで彼女の動きが止まり出した。近くでシャワーの流れる音が聞こえてくる。
いったい何を考えているのか、服をゆっくりと脱ぎだしたではないか。
愛美は下着も外し、裸になった。
佐々木は何度も断る罪悪感に耐えれず、ついに課長の嶺本と居酒屋に来てしまっていた。
同僚であり、同期の宮田有子から教えられるまで全く意識していなかったが、彼女曰く、課長は佐々木を狙っているとのことだった。間違いなく同性愛者だと。
話題は先週退職した同僚についてだった。件の悪徳ケースワーカーである。辞職しろと云う佐々木の要求に従ったようだ。
五十手前の嶺本は辞めた部下の悩みに気づけず、負い目を感じている。その部下が陰でケースを強請り、肉体関係も強要していたなんて知る由も無い。
事情を知っている佐々木は決して高野に哀憐の情は抱かない。奴は何度も愛美と交わっていた。あっちが不能のせいで今も同棲してる彼女と性交できていない佐々木には、むしろ憎しが募るいっぽうだった。
ところで、と嶺本が話題を変えてきた。最近、宮田とはどうなんだ、お前らデキてるんだろ、と。
もちろん佐々木は否定した。確かに宮田は職場の紅一点といえる存在だが、彼女に恋愛感情は持してない。
嶺本はまだ独り身の宮田を案じているようだ。あれはもらい手に困るぞ、と、自分を棚に上げて。
確かに杓子定規ともいえるあの厳正的な性格についていける男はなかなかいないだろう。
きっと聖人君子みたいな男でないと、そんな佐々木の考えに嶺本が酒臭い顔を近づけて青臭いなと言ってきた。
ああいうのに限って変なのとくっつくんだ、と佐々木に啓蒙じみた言葉を吐いている。
そして嶺本は佐々木の少ない人生経験を指摘してきた。まっすぐ若い部下を見つめ、彼の手の上に自分の手を重ね出す。
経験を積んでみるか、と訊いてきた。
林野愛美の自宅で舎弟の山田は金本の荒っぽい訊問を受けていた。愛美がケースワーカーと同棲していることを莉華が突き止め、金本の問い詰めで愛美が山田のことを吐いたのだ。
二人は金本に秘密で協力し合っていた。
山田の背叛行為に金本は憤懣だが、首元に押し付けてた包丁を遠ざけ、彼の言い訳に耳を傾けた。
どうやらハニートラップの撮影に難航しているらしい。
愛美は遣ってないから撮れてないだけと言うが、莉華が蓋の開いたゴムのパッケージを見つけてる。
愛美が嘘をつく理由を鋭い金本は察した。佐々木に惚れてるのだと。
協力者の思わぬ裏切りに近くの山田が唖然としている。
金本は山田の計画を引き継ごうと目論み、ビニールで拘束されてる愛美に協力を迫った。
沈黙を決め込む様子に失望し、金本は傍で愉快そうにしてる莉華に命じて愛美の娘を連れて来させる。
四歳の美空が怯えた様子で隣の部屋から現れた。
金本は躊躇なく包丁を美空の顔に近づける。刃先で軌道を示し、一生モノの傷跡を残すぞと愛美を脅しつけた。
今日も早く美空に会いたくて愛美の自宅に帰ると癒しの天使は姿を見せなかった。愛美の友達の家に泊めもらっているらしい。
佐々木はどうも釈然としない。朝は空だった灰皿に吸い殻がたくさん入ってるし、夕飯はスーパーの惣菜だけだった。最近は料理を頑張っていたのに。それにどこか愛美の態度が素っ気ない。
尋ねても答えてくれなかったが佐々木は追及しなかった。
きっと生理によるホルモンバランスの問題だろうと気にせずシャワーを浴び、居間にもどると愛美が佐々木を待っていた。
彼女は水の入ったコップを持っている。反対の手には紫色の錠剤が一粒載っていた。
佐々木にそれを飲ませようとしている。
愛美は彼にバイアグラだと言った。
だが、本当は精巧に似せた違法ドラッグの一種、MDMAである。
不能の佐々木を覚醒させ、隠しビデオカメラに抱かれているシーンを撮る気なのだ。
革靴を履いて「行ってきます」という佐々木を引き留め、愛美は彼に指示を出した。手を出して、と
彼の手に、用意していた封筒を芝居じみた動作で手渡した。
佐々木が中身を確かめ、入っていた数枚の万札に訝しむ。
愛美は何も訊かずに預かっててほしいと言った。
金を強請られている絵を撮っているのだ。
人はこうも簡単に愛した人を裏切れるものなのか。一時は自分の娘と家族のように過ごし、幸せだったはずなのに。武が悪いと見れば手のひらを返したように佐々木をどん底に嵌めようとする。
真、仁義の欠片もない現金な女であった。
昼さがり、朝打った薬の効果が切れてしまい、佐々木守はひどく焦燥感に駆られていた。
そんなとき、同僚の宮田有子が久しぶりに話かけてきた。
林野愛美との関係についてだったが、宮田は佐々木を尾行していたらしく、二人が蜜月の仲であったことを知っていた。
二人の恋はとっくに終わっているのだが。
会社にバレたらまずいから黙っててあげると宮田が言った。
慈悲のない懲悪行為に愉悦を覚えるみたいな節のある彼女が、いったいこれはどういうわけか。
そのかわり、と宮田は続けた。
やはり林野愛美を出汁に使っただけか。
目的は同僚に悪行がバレて辞職した高野の行方についてだった。
仕事を辞めるよう催促したのは佐々木だが、その後、高野がどこで何をやっているのかなんて知る由もない。
宮田曰く、彼は奥さんに家を追い出され、今は離婚しているとのこと。だが、高野の行方だけは掴めていないらしい。
それを佐々木が調べてくれ、と。
なぜ佐々木が高野の居場所を探さなくてはいけないのか。
宮田は理由を語らなかった。とにかく彼を探してほしい、と。
高野に拘る他の理由があるというのか?
【刺激された感情の種類:9種】
驚度😳:★★★★
驚=後から知る意外な事実(1)
唖=俄に起こる想定外な事件(3)
思考🤔:★
謎=不可解な問題が提起される(1)
不幸😫:★
傷=味方から蔑ろにされる(1)
恐怖😣:★★
惧=喪失が心配される事態(1)
忌=回避反応が出る気持ち悪さ(1)
怪=言動に違和感を覚える様子(1)
攻撃👊:★★★
蔑=不快にさせる異常な行い(1)
嫌=傲慢な態度をみせる奴(1)
恨=弱みに付け込んできた外道(1)
全体を通してのプロット
【人物・世界観の説明】

舟丘市役所生活福祉課・保護担当課に勤める佐々木守(26)が七月の猛暑のなか、担当してるケースの自宅に家庭訪問していく。
一件目はヘルニアを理由になかなか就労活動してくれない離婚歴のある四十代男性。二件目は一人息子からの援助の疑いがある七十代の元スナックママ。
昼休憩のとき、同僚の宮田有子(26)から珍しく相談の電話が入り、今夜時間作ってくれと頼まれる。

四歳の娘を持つシングルマザー——林野愛美(22)の自宅に担当のケースワーカーである高野洋司(33)が仕事でもないの訪問してくる。
林野愛美は申告せずにセクキャバ店で働いていたのを客として現れた高野に知られ、以降、お金と身体を強請られていた。
愛美は同じシングルマザーの知人——莉華から、またセクキャバで働いて欲しいと打診されるが、それを頑なに拒否したことで店長——裏で薬物も捌いているヤクザ——の名を出し、脅迫される。
が、愛美の事情を知った莉華は態度を翻し、高野の強請りを解決したらセクキャバ店で働いてもらうという交換条件を提示する。
【物語が始まる起点・問題】

佐々木守は同期の宮田有子と会い、彼女から同僚がケースを強請っているという情報を聞かされる。宮田は直感で高野洋司を疑っており、佐々木も事実確認の調査に付き合わされる。

過去のトラブルで八代組から森野組に島流しされていた金本龍也は、自分とこのセクキャバ店で働く莉華のつながりで愛美の事情を耳にする。
強請りの件が事実ならケースワーカーをシノギに利用できると思い、龍也は舎弟ともいえる山田吉男を遣わし、強請りの証拠を押さえようとする。
【問題の広がり・深刻化・窮地】
愛美が高野の強請りを否定し、被害届を出そうとしない。
高野を脅迫してシノギの駒にする計画が頓挫する。
裏で佐々木をハニートラップに嵌めようと山田が目論む。
佐々木が愛美と美空のことを愛してしまう。
【人物の葛藤・苦しみ】
山田が目論む佐々木を狙ったハニートラップが進展しない。
金本の勘の鋭さが山田の計画の障害となってくる。
愛美は山田の協力者だが、佐々木の人柄に心が揺れてしまう。
金本に全てバレてしまい、愛美は佐々木を裏切ることになる。
【終盤に向かう最後の決意】
金本が佐々木守を次の標的に奸計を企てる。
【終幕への行動】
佐々木守を罠に嵌めて自暴自棄にさせてしまう。
読了した感想
◆ケースとの遣り取りがリアルに見える!
生活福祉課の保護担当の人は何としても不正受給者に辞退してもらいたい。
一方、不正受給者は何としても働きたくない。
二つの異なる立場がぶつかり合うシーンが、まるでドキュメンタリーのようでしたね。
家庭訪問で佐々木守が山田吉男に就活するよう催促するも、彼はヘルニアを患っているため、医者からの診断書を免罪符のように提示し、頑なに働く意思をみせませんでした。
佐々木が担当するもう一人は高齢の女性。五十代の一人息子がいるのに消息不明で分からないと嘘をついていた。調べると息子は会社を経営していたことが発覚。
しかし、佐々木が扶養照会を持ち出すと露骨な拒否反応が返ってきます。相手に寄り添い饒舌なトークを展開していた元スナックのママが。
◆この物語の一番の被害者は美空だ!
ネグレクトな愛美の一人娘です。彼女はまだ四歳。
子供らしい快活さはほとんど見られず、黙ってチラシの裏にクレヨンでお絵描きするのが生きがいの幼女なのです。
他の登場人物たちは互いに私利私欲のために行動し、その結果、悲惨を被っているので自業自得とも謂えます。でも美空はちがう。
まだ自分の意思決定で自由にできないのですから。
なのに大人達の愚挙に巻き込まれる形となりました。
愛美と美空のその後の描写は描かれていないので、少し悶々ですね。
◆お譚は好きじゃないけど文体は好みでした
難解な問題や厳しい逆境を想定外な方法で且つ納得できるもので解決してしまう構成が好みなのですが、本作は其れとは違う内容でありました。
まず主人公がいない群像劇が少し苦手でして、どうも感情移入がしづらい。特定のキャラクーを通して感情を擬似体験しようとしても、すぐに別の視点に切り替わるので、読み手は神の視点で俯瞰的に見せられる形になります。
なので著者自身も語られているように『喜劇』になってしまう。
まるで幼稚な子供達が同じ教室内で暴れまわり、最後は先生に見つかって叱られ、垂れ幕が降りるという終わり方。
だけど、文体は気持ちいいくらい読みやすいです。
とにかく動きがあるし、セリフも多く、説明書っぽさがほとんどない。キャラクターたちの性格や人格が、動きのなかで読み取れるようになっている。
今のところ、三人称一元視点の文体では染井為人さんがトップ。
一人称視点の文体では『Re:ゼロ』の長月達平さんがトップってとこですかね。
『悪い夏』
染井 為人(著)
KADOKAWA
2020年9月24日発売
全351ページ
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