
学生×体育館×殺人事件×密室
風ヶ丘高校の旧体育館で、放送部部長の少年が何者かに刺殺された。放課直後で激しい雨が降り、現場は密室状態だった!? 早めに授業が終わり現場体育館にいた唯一の人物、女子卓球部の部長の犯行だと、警察は決めてかかるが……。死体発見現場にいあわせた卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長のために、学内随一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。内緒で校内に暮らしているという、アニメオタクの駄目人間に――。しかしなぜ彼は校内に住んでいるのだろう? “平成のエラリー・クイーン”が単行本版より大幅改稿で読者に挑戦!
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◆登場人物
佐川奈緒……二年生。女子卓球部部長
袴田柚乃……一年生。女子卓球部
野南早苗……一年生。女子卓球部
増村慎太郎……教師。女子卓球部顧問
梶原和也……二年生。演劇部部長
三条愛美……二年生。演劇部副部長
志賀慶介……一年生。演劇部
松江椿……一年生。演劇部
正木章弘……二年生。生徒会長
八橋千鶴……二年生。生徒会副会長
日比谷雪子……一年生。生徒会書記
朝島友樹……三年生。放送部部長
森永悠子……三年生。放送部副部長
津田沼寛二……二年生。放送部
蒔田千夏……二年生。放送部
秋月美保……二年生。放送部
巣鴨康平……一年生。放送部
針宮理恵子……二年生。帰宅部
早乙女泰人……一年生。吹奏楽部
向坂香織……二年生。新聞部部長
裏染天馬……二年生。駄目人間
仙堂……神奈川県警捜査一課の警部
袴田優作……仙堂の部下
白戸……保土ヶ谷署の刑事
【目次】
プロローグ 前口上
第一章は事件とともに始まる
第二章において探偵役が登場する
第三章は容疑者絞りに費やされる
第四章の末尾で全てのヒントが出そろう
幕間——読者への挑戦
第五章は解決編である
エピローグ 舞台裏
【感情トリガー】
プロローグ 前口上
第一章は事件とともに始まる
└事件の開幕【謎】🤔(ナゾ)
第二章において探偵役が登場する
├無実の証明【訝】🤔(ハ?)
└多くて五人【訝】🤔(ハ?)
第三章は容疑者絞りに費やされる
第四章の末尾で全てのヒントが出そろう
幕間——読者への挑戦
└読者に挑戦【推】🤔(マテヨ…)
第五章は解決編である
エピローグ 舞台裏
└序章の回収【清】☺️(スッキリ)

事件の開幕【謎】🤔(ナゾ)
ようやく放課後をむかえ、一年の早苗と柚乃が卓球の台出し当番で体育館に急いだ。
そのまえに校舎を出た部室棟で着替えを済まし、部活に使う最低限の荷物を持ってまた校舎に戻ってくる。
生憎の天気で外はどしゃぶりだったため、わずか十メートルほどの距離でも服に雨が吸いこみ、泥濘んだ地面を通った上靴の底は泥まみれ。
放課後のチャイムが聞こえる昇降口で二人は泥を落とし、渡り廊下を通って旧体育館にむかった。
道中、柚乃は体育館の北西側にあるトイレの窓の前に、傘を差した金髪の女子生徒が立っているのを目撃した。
なぜそんなところに一人でいるのか? 誰かを待つにしても、庇のある昇降口のほうが楽なのではと訝しんだ。
西口から館内にたどり着くと、すでに女子卓球部顧問の増村先生と三年の佐川先輩が準備運動をしていた。
柚乃はまた違和感に気づいた。
普段は開放されている体育館北側のステージの幕が下りていることに。
ショートヘアの佐川先輩から、来るの遅いよと明るく言われる。
放課してまだ十分しか経っていないのにだ。
部長の彼女は三時に来てたと云う。六時間目が早く終わったからと。
佐川先輩も用具倉庫に付き添い、球出しマシーンを持っていってくれた。
柚乃と早苗は卓球台を運び出した。
入れ違いでバドミントン部の男子二人が中に入っていった。
いつの間にか体育館に来ていたようだ。
待っていたスポーツ刈りの増村先生は、練習強化に励みたいらしい。文武両道の佐島先輩も気合いが入っている。
そのとき、どこかで太鼓を叩いたような大きな音を耳にした。
ドーン、ドーンと。
体育館にいた皆の動きも一瞬固まる。
どこから鳴ったのか判然としないまま、ステージの舞台袖に通じる扉から、もじゃもじゃ頭の男子が尋ねてきた。
演劇部部長の彼も幕が下りていたことに訝っているようだ。
早く来ていた佐川先輩が答えた。
三年の放送部の部長が、さっき一人で舞台袖に入っていって、その後すぐに幕が下りたから朝島さんじゃないかと。
もじゃもじゃ頭の梶原が同じ演劇部副部長の三条に指示を出し、ステージの幕を上げさせる。
電動式で幕が天井へと上がっていくと、真ん中の演台が見えてきた。
注目していた皆がある異変に気づく。
その台の側面に背をあずけ、脱力しきった男子生徒がいたのだ。
胸にナイフが突き刺さった状態で。
この状況を知らなかった梶原が舞台袖から現れ、呆然と彼の名前を確かめるように呟いた。
朝島さん?——と。
殺害されていたのは三年の放送部部長、朝島友樹。
最後に彼を目撃していたのが佐川先輩と増村先生の二人で、佐川先輩は三時に体育館にやってきたと云っていた。
幕が下りたのは三時以降。
三時十分に一年の柚乃と早苗が現れた。
その後、太鼓で叩いたようなドーン、ドーンと大きな音が鳴り、ステージを開幕させると死体が登場。
つまり、朝島が殺されたのは幕が下りてから音の鳴った三時数分〜三時十五分くらいとみられる。
演劇部の梶原と三条はいつ体育館に入ってきたのか?
二人のうちの誰かが朝島に成りすましていた可能性もある。
朝島はもっと前に殺害されており、幕を下ろした後、ステージ側の出入り口から演台まで運んだのかもしれない。
ただ、気になるのが傘を差して立っていた金髪の女の子だ。
なぜ伏線であるかのように登場させたのか?

無実の証明【訝】🤔(ハ?)
旧体育館では警察による事情聴取が行われていた。
女子卓球部、バドミントン部、演劇部、帰宅部、生徒会。
彼らの証言をまとめると、放送部部長の朝島友樹を殺害できる人物は一人しかいないと刑事らは判断した。
その人物は、午後三時から旧体育館に来たという女子卓球部部長の佐川奈緒。
事件の不可解な点はいくつも残っているが、現場がほぼ密室であったことと、人の目があったことから消去法で容疑者を絞ったようだ。
女子卓球部一年の袴田柚乃は尊敬する佐川先輩が疑われ、ショックを受ける。勉学も有能、人格的にも素晴らしいカリスマ的存在の人が犯人であるはずがない。
しかし、このままだと佐川先輩が容疑者として固まってしまう。
柚乃は生徒会の副会長——大和撫子然とした八橋先輩——に相談すると、彼女から心当たりのある人物を教えてもらった。
学内で噂になっている二年の裏染天馬。成績一位で、全ての科目が満点だった英才の男。
柚乃は彼が密かに住み込んでいるという校内の文化部部室棟に向かい、教えてもらった部屋を訪ね、件の男と対面した。
いかにも漫画やアニメオタクといった部屋の様子に呆然としてしまうが、彼は柚乃が履いていた運動シューズから現状を推理してみせた。探偵と謂れるだけの才は柚乃も認めた。
とはいえ、性格にちょっと難がある。
柚乃が部員とカンパし合って十万支払うと約束しなければ、裏染天馬は協力してくれなかっただろう。
依頼内容は、佐川先輩が潔白であることを刑事たちに証明すること。
裏染の部屋に現れた新聞部の女子にも協力してもらい、職員からの情報を仕入れてもらった。
そのあと、裏染と柚乃は刑事達のいる教室に入っていった。
犯人扱いされている佐川先輩と歳の離れた刑事が二人。
一人は十歳離れた柚乃の兄。もう一人は五十代の頭の堅そうな男だ。
いきなり部外者が入ってきて追い払おうとする刑事に、裏染は毅然と佐川奈緒は犯人でないと宣った。それどころか、犯人から最も遠い位置にいる人間だと。
それを証明できると彼は云った。
佐川奈緒が犯人だったと仮定しよう。
彼女が旧体育館に来たのは午後三時ちょうど。
コーチと一緒に来たから事実としてよい。二人以外は誰もいなかった。
その三分後の午後三時三分、手ぶらの朝島友樹が舞台裏に入っていくのを目撃。
これはコーチも同じ証言をしている。
その二分後の午後三時五分ごろ、コーチがメニュー表を取りに館内を出ていった。つまり、館内は朝島と佐川の二人きりという状態。
その三分後の午後三時八分ごろ、手ぶらで制服姿の小柄な女子を佐川が目撃する。朝島と同じく舞台裏に入っていったと。
ところが、体育館の外でずっと突っ立っていた生徒は目撃していなかった。もし嘘ならまだ朝島と二人きりということになる。
その二分後の午後三時十分、コーチが戻り、女子卓球部一年の二名も館内に現れる。
つまり、佐川が犯行に及べるのは午後三時五分から午後三時十分までの五分間だけ。
五分以内に朝島を刺殺し、上手舞台袖から演台まで遺体を引きずり、舞台裏から戻ってくることは不可能——とも言い難いのではないだろうか。
いったいどうやって無実を証明するのか。
読者に挑戦【推】🤔(マテヨ…)
幕間は著者自身から読者へのメッセージが書かれている。
これまで描かれてきた内容のなかに、真相を推理するだけのヒントが全て揃っていると。
なら、その慇懃に応えてみようではありまんせか。
【推理】犯人は生徒会会長の正木章弘だ!
■根拠
まず犯人と出会した放送部二年の秋月美保の証言から、三時十五分までのアリバイがある人物は犯人でない。
彼女は逃げ去る前に上手舞台袖側の扉を外から叩き、館内にいた部員たちがその音を聞いていた。
それが三時十五分ごろ。
タイムスケジュールからアリバイのない人物を絞ると三名になる。
生徒会二年の正木章弘、一年の椎名亮太郎、放送部二年の蒔田千夏。

■さらに絞り込む
殺された放送部部長の三年、朝島友樹はこう云っていた。
『相手は、針宮さんよりずっと危険な人間だ』
『自分の身を守るためなら何でもする』
推測するに、ある程度知れている人物が犯人ということになる。
一年の椎名亮太郎は排除してもよいだろう。
ちなみに彼は坊主頭の長身で、謹厳実直そうな男子だった。
■さらに絞り込む
正木章弘も蒔田千夏も同じD組で、二時五十分に放課している。
どちらも逸早く旧体育館に向かうことができるだろう。(卓球部の佐川も同じクラスだが、着替える時間が必要)
三時三分にやってきた朝島を殺害することができる。
しかし、犯人は紳士用の黒い傘を用意していた。
それとビニールに入った白いスニーカー。
上手舞台袖まで逃げきてきた秋月が目撃している。
そして、制服の衣擦れの音を確認していた。
おそらく、ズボンの裾が擦れていたのだろう。
つまり、犯人は靴を脱いでいた男子である。
スカートを穿いてる蒔田千夏は排除してもよい。
■結論
最後に残った容疑者は正木章弘。
本来、朝島を殺害し、問題のDVDを回収後、上手舞台袖の扉から校舎に戻る手筈だったのだろう。
■経緯
正木は放課後、白いスニーカーと傘を持って旧体育館に向かった。
上靴は履かずにそのまま渡り廊下から入り、舞台裏で待ち伏せする。
三時三分にやってきた朝島を上手舞台袖のとこで刺殺。
問題のDVDと放送室の鍵を奪い、二階で映像を確認した。
その後、遺体を演台まで運び、鍵を朝島のズボン右ポケットに戻す。
右ポケットだけ鍵と財布と携帯が入っていたのは、反対のズボン左ポケットに問題のDVDが入っていたからと推測。
生徒会も放送室を使うから、勝手を知っていて当然だ。
三時十分に副会長と電話で話し、備品室に居ると嘘をつく。
あとは靴を履き、上手舞台袖の扉から傘を差して備品室に戻ればいい。
演劇部に遺体を発見してもらえば、その時間のアリバイはほぼ完璧。
ところが、死体と靴と傘を誰かに目撃されてしまった。
自分の傘の上に制服のリボンが置かれていたから、目撃したのは本校の女子生徒だと判る。
上手側の扉を外から叩かれて逃げるに逃げれず、鍵を閉めるしかない。
正木はそうとう焦ったことだろう。
反対の下手舞台袖の扉から演劇部が入ってくるし、館内は部員たちが既に活動している。
正木は咄嗟に靴と傘を持って男子トイレに隠れた。
絶対絶命のピンチと思いきや、チャンスがやってくる。
リヤカーを運んできた演劇部部長と副部長がステージへ向かったのだ。
後方側にいた演劇部二名は悲鳴を聞き、リヤカーを扉の外に引き戻そうとする。
横幅はギリギリだし、うずたかく積まれた荷物で前は見えない。
この時、正木は傘をトイレに残し、リヤカーの死角を利用して脱出した。
白いスニーカーを履いた状態で、何食わぬ顔で演劇部二名の後を付いていく。
一緒に渡り廊下側の入り口から体育館をのぞき、増村先生に集められる。
傘は残してきたが問題はない。
指紋は拭き取っているし、帰るころにはとっくに雨は止んでいた。
ただ、校門付近の監視カメラに映っている可能性はある。
土砂降りの中を黒い傘を差して登校している正木章弘の姿が。
そして、帰りはその傘を持たずに下校する姿が。
以上が私の推理であります。
しかし、まだ疑問点も残っている。
犯人が残した黒い傘の持ち手部分に傷があったという描写。
二センチほどの引っかき傷が残されていたのです。
トイレの水浸しと何か関係があるのだろうか?
具体的な数字を提示してるくらいだから、重要なことなのは分かる。
しかし解らない。
【刺激された感情の種類:4種】
幸福☺️:★
清=蟠りの答えがようやく判明(1)
思考🤔:★★★★
訝=疑問を抱かせる言動や描写(2)
謎=不可解な問題が提起される(1)
推=事件の謎を解く手がかりを得る(1)
全体を通してのプロット
【舞台設定】


風ヶ丘高校の旧体育館で、三年の放送部部長だった朝島友樹が何者かによって殺された。
六月二十七日の事件当時、同じクラスメイトで女子卓球部の友達と旧体育館に向かった一年の袴田柚乃は、すでに館内でストレッチしていた部長と顧問のコーチと一緒に、卓球台の準備に取り掛かっていた。
バドミントン部の男子二人も入館し、放課後の部活動が始まってまもなく不審な物音を館内にいた部員らは耳にする。
ドーン、ドーンという太鼓が叩かれたような音だった。
すると、ステージの舞台袖へつながる扉から演劇部部長の青年が顔を出し、館内にいる人たちに、幕が下ろされていることを問う。
普段は下さないのにおかしいと柚乃も思っていた。
一番手で体育館に来ていたた佐川先輩と増村先生は、自分らの後に入ってきた三年の朝島友樹を目撃していたらしい。
渡り廊下から入館し、舞台袖に通じる扉から入っていく姿を。
おそらく、幕を下ろしたのは彼だろうと佐川奈緒が答えた。
それを聞いても演劇部部長は釈然とせず、副部長に幕を上げるよう指示をだす。
電動式で幕が上げられると、その異変に部員達が驚愕する。
ステージの演台に背を凭れさせている男子の胸に、ナイフが突き刺さっていたのだ。
朝島友樹は、いったい誰に殺されてしまったのか?
神奈川県警の先輩警部と共に事件現場へやってきた袴田優作は、旧体育館で個別に目撃者から事情聴取を行う。
優作は、体育館に呼ばれて入ってきた卓球部の柚乃と対面し、事件に妹が関わっていたことを驚く。
【問題提起】
事件発覚後、刑事らによる事情聴取を行われ、現場はほぼ密室であったことが判明した。
外部からの犯行は不可能な状況。
しかし、唯一被害者と二人きりになっていた人物がいた。
それが卓球部部長の佐川奈緒。
柚乃にとって憧憬であり、尊敬する大好きな先輩が容疑者になってしまう。
【問題対処】
柚乃は校内部室棟に隠れて住んでいる噂の先輩に会いにいく。
全科目満点で成績学年トップの二年、裏染天馬。
彼なら先輩の容疑を晴らしくれると信じ、協力をお願いする。
【試練の時】
柚乃も裏染天馬に付き添い、関係者たちのアリバイを確認していく。
【解決手段】
裏染天馬が関係者達を全員集め、推理を披露し、犯人を特定する。
読了した感想
◆関係者が多すぎて辛かった
二十人以上登場しましたからね。
タイムスケジュールをメモしていくのにどれほど時間を割いたことやら。
だがしかし、苦労した分、真相が判明したときの満足感はありましたね。
でも、やっぱり十名ほどで留めてほしいというのが願望です。
◆著書のほとんどが試練の時
事件が起こるのは序章だけ。
それ以降は事情聴取による情報開示の内容がメインとなります。
登場人物が二十人以上いるわけですから、そりゃ長くなっちゃいますよね。
当然、人物も内容も憶えられるわけがないので、ただただ記録していくしかありません。
苦行ですが、そのおかげで容疑者を絞ることができました。
◆専門知識なしでも推理に挑戦できる楽しさがある!
分かりやすい図面付きで、次々と出てくる謎埋めのピース。
自分の『状況把握、観察、直感』を試すには申し分ない一冊であります。
人物の多さにちょっと心が萎えますが(笑)
『体育館の殺人』
青崎 有吾(著)
東京創元社
2015年3月13日発売
全459ページ
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