
水族館×トリック殺人×消去法
夏休みの最中の8月4日、向坂香織たち風ヶ丘高校新聞部の面々は、取材で横浜市内の穴場スポットである、丸美水族館に繰り出した。館内を館長の案内で取材していると、B棟の巨大水槽の前で驚愕のシーンを目撃。な、なんとサメが飼育員と思われる男性に食らいついている! 駆けつけた警察が関係者に事情聴取していくと、容疑者は11人にもおよぶことに。しかも、それぞれに強固なアリバイが……。袴田刑事は、しかたなく妹の柚乃へと連絡を取った。あのアニメオタクの駄目人間・裏染天馬を呼び出してもらうために。“若き平成のエラリー・クイーン”が、今度はアリバイ崩しに挑戦。
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◆主な登場人物
佐川奈緒……二年生。女子卓球部部長
袴田柚乃……一年生。女子卓球部
野南早苗……一年生。女子卓球部
八橋千鶴……二年生。元生徒会副会長
向坂香織……二年生。新聞部部長
裏染天馬……二年生。駄目人間
仙堂……神奈川県警捜査一課の警部
袴田優作……仙堂の部下。柚乃の兄
忍切蝶子……高等部二年生。関東最強の女子卓球部員
裏染鏡華……中等部三年。天馬の妹
【目次】
賑やかなプロローグ
第一章 夏と丸美と私と死体
第二章 兄の捜査と妹の試合
第三章 単手の到着とアリバイの解明
第四章 日曜のテートと水際の実験
第五章 多すぎる容疑者と少なすぎる手がかり
読者への挑戦
第六章 黄色いモップと青いバケツ
静かなエピローグ
【感情トリガー】
賑やかなプロローグ
第一章 夏と丸美と私と死体
└沈没の係員【唖】😳(ッ⁉︎——)
第二章 兄の捜査と妹の試合
└容疑者ゼロ【謎】🤔(ナゾ)
第三章 単手の到着とアリバイの解明
├時限式の謎【解】🤔(ナルホド)
└開口部の血【肯】🤔(タシカニ)
第四章 日曜のテートと水際の実験
├絞った一人【驚】😳(エッ⁉︎ イガイ)
└裏染の天啓【訝】🤔(ハ?)
第五章 多すぎる容疑者と少なすぎる手がかり
読者への挑戦
第六章 黄色いモップと青いバケツ
静かなエピローグ

沈没の係員【唖】😳(ッ⁉︎——)
八月前半の夏休み、高校新聞部の生徒達が取材で水族館を訪れていた。
五十代の館長がインタビューに応じてくれ、一般客が鑑賞している館内を案内しながら生徒達に優しく説明してくれている。
一行は当館の目玉でもあるレモンザメの水槽まで進み、その圧倒的な存在感にお客も生徒達も驚きを隠せない。
サメは世間から恐れられる存在だが、実際に人を襲うのは稀だと館長は言った。
まして水槽で飼われているサメならなおさら。たとえ、飼育員が水槽に落ちても問題はない。
血まみれでないかぎりは……。
新聞部の女の子が自前のカメラにサメを収めていたときだった。
二メートルを超えるサメの水槽に飼育員の男が落ちてきた。
彼の首から漏れている血が水中を赤く濁している。
誰かが危機迫った声を発した。
その直後、サメが男の脆弱な首筋に尖った歯を突き立てた。
館内にだれかの絶叫が響きわたる。
畏敬と癒しの空間であるはずが、それはまさしく目の前で起きた惨劇であった……。
容疑者ゼロ【謎】🤔(ナゾ)
体長二、七メートルもあるレモンザメのいる水槽に、首を切り付けられた飼育員が突き落とされてサメに食べられるという悲劇を起きた。来客している一般人や取材をしていた学生新聞部たちのいる目の前で。
警察の捜査により容疑者は水族館で働く従業員十一名に絞られ、事情聴取で一人一人のアリバイを確認していく。
事件が起きたのは午前十時七分。
その時間帯の行動を辿っていくと、なんと容疑者全員にアリバイがあることが判明した。
バックヤードは暗証番号を知る従業員しか入れないし、進入口には監視カメラだって設置されている。
つまり外部犯には犯行不可能。
なら犯人は、やはり内部のものによる犯行に違いない。
いったい、どうやって被害者の男を水槽に突き落としたというのか。
仮説
①犯人は複数いて、嘘のアリバイ証言をしている
②犯人は予め罠を張っていて、自分のアリバイがある時間帯に発動するよう仕組んでいた

トイレットペーパーで開口部のドアと柵を巻きつけ、画鋲で固定していた。
排水口を塞ぎ、開口部に殺害しておいた被害者を立てかけておく。上の水漏れを利用し、トイレットペーパーが溶けたことでドアが開き、サメ水槽に落下させた。
犯人が使った時限装置のトリックは、思いつきではないと裏染は云った。
彼は、開いていたキャットウォークの開口部上部に血がべったりと付着していたことに注目。
なぜなら普通、大きなモノを外に出すなら事前に扉を開けておくはず。
被害者の血が柵の上に付くはずがないのだ。
なのに血が付着していたということは、被害者は開口部に凭れていたということ。
でも開口部の鍵は開いていたから、何かで固定する必要がある。
そこから時限装置のトリックを推理していたのだ。
更衣室のルミノール反応を調べると被害者の血液は出てこなかった。つまり、シロ。
となると、容疑者は一人に絞れると裏染は云った。
再び水族館へむかう警察車両のなかで柚乃がその容疑者を訊ねる。
彼から出てきた名前は、獣医師の緑川先生だった。
なぜ、獣医師なのだろうか?
緑川は飼育員の代田橋に医務室に来るよう伝えていた。
何時に入室してくるかわからないというのに、犯行に及ぶだろうか?
もしも犯行時間に代田橋が医務室を訪れれば、居なかったことを怪しまれるというのに。
僕の見立てでは、アルバイトの女の子が一番犯人像に当てはまる。
犯人は清掃員に扮して雨宮に接触していた。
ヒビのある古いバケツと血の付いたモップがその証拠。たくさんある飼育員用のバケツを使わなかったのは、飼育員に扮することができなかったから。専門知識が必要で、犯人には其れがなかった。
つまり、事務方かアルバイトの子に絞られる。
ということは、飼育員と同じ黄色のポロシャツを着ていたはず。じゃないと代行しているのか他の職員には分からないし、着てないと不審に思われる。
で、雨宮の首を切りつけたときに付いた血がポロシャツに残ってるはずだから、更衣室で着替える必要が出てくる。
更衣室には予備のポロシャツもあるから、交換すればいい。
でも、ルミノール反応ではシロだった。
つまり、犯人は更衣室で着替えておらず、今もそのポロシャツを着ている可能性がある。
飼育員でもないのに黄色のポロシャツを着ているのは、アルバイトの女の子だけ。
彼女の服装を調べれば、わずかに付着した被害者の血が見つかるのではなかろうか。
裏染はトイレットペーパーを使った時限式トリックを証明すべく、学校のプールを貸し切り、協力者たちと実験していた。
結果、被害者と同じ体重を支えるにはトイレットペーパーの長さ一メートル必要で、溶けるのに八分かかるということ。
しかし、長さを増やせば溶けるまでの時間を延長できるし、事前に濡らすことで短くすることもできてしまう。
指針がわかっても容疑者を絞るまでには至ってない。
ちょうど貸し切り時間が終わり、協力者の元副会長——八橋がプールに落ちたトイレットペーパーの破片を片付けようとしたときだった。
ちょっと待てと、裏染が何かに驚愕した。
八橋が手にしていたバケツに注目し、自らの右手をその水の中に突っ込んだ。
バケツから手を出し、その指からしたたる水滴を観察する。
弾けた水滴の跡を食い入るように見て彼は云った。
「でかした」と。
バケツと水滴で何がわかったというのか。
皆目見当もつかない。
【刺激された感情の種類:6種】
驚度😳:★★
驚=後から知る意外な事実(1)
唖=俄に起こる想定外な事件(1)
思考🤔:★★★★
肯=諭す言葉に納得する(1)
解=不可解が解明される(1)
訝=疑問を抱かせる言動や描写(1)
謎=不可解な問題が提起される(1)
全体を通してのプロット
【舞台設定】

風ヶ丘高校の新聞部が夏休み中に掲示する増刊号の特集で、横浜丸美水族館へと取材に出かける。
一般客も来館している水族館で取材をしている最中、飼育員の男が水槽に落下し、巨大なサメに喰われるという悲劇が起きる。
事件が起きたのは、従業員しか入れないバックヤード内。二階のサメ水槽室にあるキャットウォークから落下していたが、現場には血の付いた凶器、犯人と思われる血の足跡が残っていた。
バックヤードへの出入り口は監視カメラが付いており、外部から侵入された記録は見られなかった。よって、容疑者は館内で働く従業員に限られ、十一名に絞られる。
【問題起点】
亡くなった飼育員が水槽に落下してサメに喰われたのが午前十時七分。
ところが、その時刻、容疑者十一名全員にアリバイがあった。
担当刑事の袴田優作と千堂警部は、前回の『体育館の殺人』で犯人逮捕に貢献した高校二年生——裏染天馬に協力を要請する。
【問題拡張】


裏染天馬の推理により、本当の犯行時刻が推定された。
ところが、今度は容疑者全員にその時間帯のアリバイがなく、捜査は振り出しに戻ってしまう。
【試練の時】
後日、裏染と柚乃が再び水族館を訪れ、関係者の聞き込みと現場を調査していく。
犯人が使った時限式トリックを証明するため、裏染は学生仲間と校内のプールで検証する。
【一件落着】
プールでの検証から翌日、裏染たちは三度目の水族館でイルカショーを鑑賞。
営業終わり、関係者たちを集めた裏染が推理で事件の真相を解明する。
読了した感想
◆「アリバイある奴が逆に怪しい」が通用しない!
事件もののミステリーって、大概、アリバイのある者とない者に分けられてると思うんですけど、容疑者全員にアリバイがある、若しくは全員にアリバイがないってのは珍しい。
それを両方やってのけるのだから、青崎先生が如何に稀有な作家であることは明らか。
裏染にアリバイ作りのトリックがバレてしまい、犯人にとってはまさに窮状。
がしかし、都合良いことに犯行時間のアリバイがある人物は誰もいなかった。
裏染は、いったいどうやって容疑者を絞り込んでいくのか?
最後は脱帽でしたね。納得のいく推理です。天才です。
◆ラブコメ要素も忘れちゃいない!
部室棟を無許可で寝泊まりに使っている裏染天馬の部屋に、なぜか毎度訪れる一年後輩の袴田柚乃。
二次元の趣味に自堕落する先輩を放って置けないという、世話焼きな一面を見せる健気な女の子であります。
そんな二人が事件に関わっていくのですが、思わず笑いを誘うような場面がいくつか出てきます。
裏染がオンライン通話で話していたカメラに、柚乃の際どいところが映ってしまったり、プールでの検証実験で何度も水に落とされてしまうスクール水着姿の柚乃。
さらに、誰もいない裏染の部屋で着替えていた柚乃のまえに現れた、変態要素ありの裏染妹。
事件だけを一筋に追っかけていく堅苦しさがなく、適度に気を緩ませてくれるところがまた面白い。
◆次巻への伏線も気になるところ
水族館で事件が起こる数時間前、柚乃はまだ他校との合同試合中でありました。
そのとき登場したのが、関東最強と謳われる女子卓球部のエース——忍切蝶子。
裏染と同じく二年生で、柚乃が憧れる先輩——佐川奈緒でも勝てませんでした。
どうやらこの忍切蝶子という女の子、裏染となんらかの関係があったようなのです。しかし、いまのところ其れは不明。
三番目に嫌いな奴と裏染が言っていたから、良い関係でないことは確か。
いったい、二人の間にどんな確執あるのでしょうね。
そして、裏染が自宅に帰らない秘密。
今回、初めて登場した妹——裏染鏡華が明かしてくれました。
父親に勘当されたからだと。
さらに踏み込んでみようと思った柚乃に、新聞部部長の向坂が歯止めをかけました。
その話題は本人に御法度だと。
裏染天馬の、まだ明かされてない背景が気になりますね。
『水族館の殺人 〈裏染天馬〉シリーズ』
青崎 有吾(著)
東京創元社
2016年7月29日発売
全421ページ




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