
登場人物・目次・感情トリガー
父が飛龍想一に遺した京都の屋敷――顔のないマネキン人形が邸内各所に佇(たたず)む「人形館」。街では残忍な通り魔殺人が続発し、想一自身にも姿なき脅迫者の影が迫る。彼は旧友・島田潔に助けを求めるが、破局への秒読み(カウントダウン)はすでに始まっていた!? シリーズ中、ひときわ異彩を放つ第4の「館」、新装改訂版でここに。(講談社文庫)
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◆登場人物


【目次】
プロローグ 島田潔からの手紙
第一章 七月
第二章 八月
第三章 九月
第四章 十月
第五章 十一月
第六章 十二月
第七章 一月(1)
第八章 一月(2)
第九章 一月(3)
第十章 二月
エピローグ 島田潔からの手紙
【感情トリガー】
プロローグ 島田潔からの手紙
第一章 七月
第二章 八月
└誘う身震い【怪】🤔(ン⁉︎ ナンダロウ?)
第三章 九月
├欠けた人形【謎】🤔(ナゾ)
└読書用椅子【謎】🤔(ナゾ)
第四章 十月
└土蔵の惨状【謎】🤔(ナゾ)
第五章 十一月
第六章 十二月
第七章 一月(1)
├児童狙う者【呆】😶(……)
└四人の苗字【驚】😳(エッ⁉︎ イガイ)
第八章 一月(2)
├密室の浴室【謎】🤔(ナゾ)
├犯人の正体【推】🤔(マテヨ…)
├あの女とは【察】🤔(マサカ…)
└襲われる女【喜】😲(オー!)
第九章 一月(3)
第十章 二月
エピローグ 島田潔からの手紙

誘う身震い【怪】🤔(ン⁉︎ ナンダロウ?)
誰視点かは明示されてはいないが、前の文脈からのつながりで飛龍想一の一人称視点と推測する。
人形館に越してきて一カ月が経った八月中旬、彼は行きつけの喫茶店に趣き、そこに置いてあった誌面に注目した。
見出しに『北白川疏水に子供の他殺死体』とある。
昨夜の九時過ぎに発見され、五歳の男児が扼殺されていた。
事件現場のその川は散歩でもよく通る場所だったので、あまりにも身近な悲劇に想一は杞憂した。
小さな子の命を奪われた遺族のこととか、今も存命する子を持つ親の身になれば、とても看過できない痛ましい事件である。
その時、想一の脳裡に何かが生じる。
”そういった当たり前な物思いとは別のところで、さわさわと奇妙な動き方をしている心の部分があった。それは──。
…………ん!
何かしら、穏やかならぬもの。
何かしら、身震いを誘うもの。
…………まるで、巨大な蛇の
嫌な感じだった。正体がはっきりしないだけに、この嫌な感じはいっそう増幅されて、私の神経を苛立たせた。”
平常を取り戻した彼は、その後、新聞紙をラックに戻した。
ん〜、あやしい。
憶測だが、殺された少年の歳と、想一が母を亡くしたときの歳が近い。産みの両親から十分愛されなかった想一には、ずっとその蟠りが残っていたと思われる。とくに父に憎まれていたと思い込んでるようなので、自分が生まれてきたことを自己肯定できないでいた。
父の自分に対する憎悪を、もしかしたら想一自身も抱くようになり、当時の自分を彷彿させる少年に対して、敵意を向けていたのかもしれない。
彼のなかに潜む——もう一人の人格によって。
つまり、五歳児の少年を扼殺した犯人は、想一だったのではないか?

昨年自殺した飛龍高洋が生前まで住んでいた京都の人形館。
息子の想一と育ての叔母である沙和子がその館を引き継ぎ、今年の七月に引っ越してきた。
想一は初めて踏み入る古い和風作りの平屋の中で一瞬ドキッと慄いた。
若い女性の裸体が部屋のなかで凝然と佇んでいたのだ。顔のないのっぺらぼうで、本来あるべき右腕が欠けている。
そのようなマネキン人形が何体か確認できた。全部で六体。
一階と二階に散らばり、廊下やホールの片隅に存在している。
頭部がないもの、右腕がないもの、左腕がないもの、胴部、左脚、腰と右脚。どれも不完全なものばかり。
なぜ、こんな中途半端な人形が各所に配置されているのか?
それに『動かしてはならない』と高洋の遺言に書かれていた。
二十八年前から父と疎遠になっていた想一には知る由もなかった。
想一の推測では、二十八年前に他界した母の容姿を再現していると思っている。
果たして、本当にそうなのだろうか? 現時点では何もわからない。
体の一部が欠けているのも謎である。
もしかすると館のどこかに、それぞれ欠けたマネキンの一部が隠されているのかもしれない。
なにせ奇矯な建築家が建てた家なんですよね?
また隠し通路、隠し部屋があるのは想像につく。

飛龍想一が亡き父の館を引き継ぎ、越してきたのが約三ヶ月前。
七月三日から住まい、現在は九月の終わり。
最近、たびたび夜中に何かの気配を感じるようになっていた想一は、その正体が平屋と繋がる洋館の間借り人だとわかってどこか拍子抜けした感じだった。ケースから脱走してしまったハムスターを探していたらしい。
倉谷誠。若い男の大学院生で研究用のマウスを飼っていたようだ。
彼に注意したあと寝室に戻ろうとしたのだが、アトリエにした土蔵がふと気になり、部屋をのぞいてみた。
二十体以上もあったマネキンは現在、片隅にまとめてシーツで覆っている。不気味で居心地がわるいからだ。
しかし、ある異変が起きていた。
ないはずのものが、そこにある。
想一が読書用にしている揺り椅子に、マネキン人形が座っている。
椅子の後ろから覗ける後頭部、首、肩の質感がそれだ。
想一は怯みながらも椅子の前方に回り込んでみた。
またも「ううっ」という声が漏れた。
両腕がなく、上胴と下胴の連結部が外され、腰を曲げるように座らされているのだが、喉元から胸のふくらみにかけて、血と見まごうほどの赤い絵の具が塗りたくられていた。
誰が、何の目的でこんな悪戯をしたのか?
緑影荘に住んでいる住人の誰か?
直感的に管理人夫妻は除外しとこう。そして、池尾沙和子も除外。
怪しいのは想一の親戚だった小説家志望の辻井雪人、大学院生の倉谷誠、盲目のマッサージ師——木津川伸造じいさん、そして、別の人格が潜んでるかもしれない想一自身。
まさか、外部犯ということはないでしょう。いや、わからないけど。

土蔵の惨状【謎】🤔(ナゾ)
アトリエの揺り椅子に赤い絵の具で塗りたくられた両腕のないマネキン人形が置かれるという事件以降、想一は緑影荘とを隔てている扉の鍵を修理した。
この屋敷に住む誰かの悪戯の可能性が高いからだ。
それに加え、アトリエの扉にも頑丈な南京錠をつけることにした。鍵は二つあり、その二つとも想一が管理している。
それでも奇妙な出来事は相次いでいた。
郵便ポストに入っていたガラス片。
玄関を出てすぐの場所に置かれた石ころ。
想一が使っていた自転車の切断されたブレーキワイヤー。
玄関前に放置されていた——頭を潰された子猫の死骸……。
どう考えても狙われているとしかおもえない。
友人の架場久茂に相談すると、恨まれてる節でもあるのかと尋ねられた。
すると、たびたび訪れる言葉の失調がまた顕れた。
意識を取り戻すまでの間隔も少し長かった。
その友人を招いた翌日の正午過ぎ、想一はアトリエに向かい、頑丈な南京錠を開けて中に入った。
彼はまたも驚愕した。
その部屋のようすに。ありえない。外から鍵が施錠されており、その鍵は自分以外持っていないのだ。
なのに部屋が荒らされていた。片隅にまとめてシートで覆っていたマネキン人形たちが中央に移動しており、乱雑に積み重なっている。
さらに赤い絵の具で彼女たちに塗りたくられた光景は、まさに地獄絵図のようだった。
一応、光を入れるための小さな窓は開いている。
だが人が入れるスペースではない。それに金網だって付いている。
つまり、現場は密室だったということになる。
ミステリー。
考えられるとしたら、想一自身が無意識で行っていたという説。多重人格なのかもしれない。
もう一つは、やはり隠し通路が存在してるという説。これなら施錠に関係なく、屋敷内にいる人なら誰でも犯行が可能だ。
最後は外部犯説。人は通れなくても金網の隙間から長い棒みたいなのなら通せる。それを使ってマネキンを移動させ、外から赤い絵の具を流し込むように塗りたくっていた。
この三つのうちのどれかだと思うのだが……。
四人の苗字【驚】😳(エッ⁉︎ イガイ)
母と呼んでいた叔母の佐和子が火事に遭って亡くなった。
それからも匿名の封筒が届き、『母親の死も、お前の罪だ』と書かれていた。
想一は誰かに恨まれている。そう自覚したのが契機となり、過去の記憶の断片がまた脳裡によみがえってきた。
それはまだ形を成さない単語ばかりだったが、大学時代の友人——島田潔に電話で相談しことで、やっと忘れていた記憶を取り戻す。
二十八年前、想一の実母——美和子は事故で亡くなった。列車の転覆により、頭部をつよく強打したためだった。
その原因を作ったのが、まだ六歳だった男の子——飛龍想一。
彼は線路の上に石ころを置き、実母が乗っている電車を止めさせようとしたのだ。
これで父の作品の授賞式に行けなくなり、前々から予定されていたサーカスの鑑賞に大好きな母と一緒に行ける。
しかし、その悪戯はあまりにも大きな代償を伴った。実母が死んだのだから。
実父に憎まれ、育児も放棄された。
これが想一の罪。やっと思い出し、電話越しで島田にそれを告白した。
犯人の動機も、おそらく二十八年前の事件が関係している。
後日、島田から連絡があり、重大な事実が判明してしまった。
二十八年前の列車事故で亡くなったのは五名。そのうち、一人が実母の美和子。
のこり四名は島田も知る苗字ばかりだった。
それは想一からすでに聞いていた人物名——
水尻、倉谷、木津川、森田(辻井)。
なんと人形館に住まう住民みんなが、二十八年前の事件の関係者と同じ苗字だったのだ。

島田からの情報で、この人形館にいる全員が容疑者候補であることが判明した。二十八年前の列車事故で亡くなった四名の被害者の苗字と、それぞれが同じだったのだ。
遺族関係者がこの館に紛れて混んでいるかもしれない。一人? それとも全員?
島田も近いうち館に来てくれるみたいだが、それまでは用心するようにとのこと。
それから二日後のことだった。
一月十六日、夜の九時前。
母屋の火事で変えざるを得なかった緑影荘二階の<2-B>で想一はくつろいでいた。
テレビニュースでは、昨年の夏から続いている児童連続殺人事件のことが流れている。
十三日にまた子供の遺体が見つかり、扼殺されていたと。
手口も被害者層も似ているため、警察は同一犯によるものと見ている。
九時十五分くらいすると、想一は廊下を歩く足音を聞いた。
立て付けが悪くなっているため、静かに歩こうが聞こえてしまう。
おそらくバイト帰りの辻井雪人だと見当をつけた。
こちらの部屋を通り過ぎ、左端のドアがバタンと閉まった。辻井が使用してる<2-C>に。
想一は換気するために部屋の扉を開放し、またソファに落ち着く。
今度は階段を上がってくる足音が聞こえた。
管理人の水尻夫人だった。
老婦人は辻井の部屋へと向かい、彼の名前を何度も呼ぶ。
ノックをしても返事はなかった。
事故を心配する水尻夫人に、想一も急いで部屋にもどり、合鍵を夫人にわたす。
想一が廊下から見守るなか、後ろから一階に住む大学院生の倉谷が駆けつけてきた。
風呂上がりだったのか、髪がまだぬれている。何かあったのか訊いてきた。
すると、辻井の部屋から水尻夫人のつんざく悲鳴がここまで届いてきた。
想一も向かうと、腰を抜かした水尻夫人が出てくる。
辻井が死んでる。たしかに彼女はそう言った。
室内に入り、湯気が立ち込める浴室に向かった。
シャワーが出しっぱなしなっている。ホースはとぐろを巻いていた。
辻井雪人は真っ赤に染まった湯の中に沈んでいた……。
九時十五分くらいに想一が聞いていた足音の主は誰だったのか?
辻井本人でなかったのなら犯人ということになる。
だが、部屋は鍵がかかっていた。辻井の部屋を開けられるのは、本人と合鍵を持つ水尻、想一だけ。木津川と倉谷も辻井の部屋には入れない。
水尻夫人が犯人だったのだろうか?
九時過ぎごろに階下で辻井と会っていたと言うし、それが本当なら九時過ぎから九時五十分の間に彼は殺されたということになる。
また紛らわしいのが倉谷の存在だ。
辻井はシャワーが出しっぱなしの風呂場で殺害されているわけだから、犯人も当然濡れていたに違いない。そして、倉谷は風呂上がりだった。あやしすぎる。
ぜんぜん容疑者をしぼれない。
辻井は裸だったのか衣服を着てたのかもまだ不明。
死因はなんだったのか? 刺されたのか?
もう物語後半だというのに、はやく島田よ、登場しろ!

辻井雪人が亡くなってから四日後の一月二十日。
想一は行きつけの喫茶店で、友人が務める大学の学生——道沢希早子と四日前の事件について話していた。
すでに警察の捜査も終わり、辻井の自殺ということになっている。
頸動脈切断による出血多量が確認でき、肺にも水が溜まっていたことから、直接的な死因は溺死であった。
辻井は午後九時過ぎごろにバイトから帰宅していた。水尻夫人がホールで彼と会っている。
そして辻井は二階に上がり、九時十五分くらいに自分の部屋<2-C>へと戻っていった。彼の隣の部屋にいた想一がその足音を聞いている。
九時五十分に水尻夫人が二階に上がってきて、死体を発見したのが十時ごろ。
死亡推定時刻は午後九時十五分から午後十時ということになる。
他殺の可能性がないと判断されたのは、辻井の部屋が閉まっていたからだ。窓も施錠されてるし、人が出入りできる場所はない。
それに加え、館の外側も密室状態だったからである。
辻井の部屋へ行くには二通りあり、想一の部屋を通らなければならい廊下を渡る道と、辻井の部屋の下——一階の階段ホールの扉から入っていく道。
しかし、想一は辻井が帰宅したあと換気のために部屋を開放していた。
それと外は雪がつもっており、館を出入りした足跡がいっさい見当たらなかった。
また、辻井の部屋から見つかった手記によって、自殺する動機も確認された。
どうやら小説の執筆に頭を悩ませていたようだ。
以上から、この事件は自殺とする見方に決定された。
まてよ……。
この一連の事件、あの人なら犯行は可能だ。
その人物とは、ちょっと信じられないけど、水尻夫人ならできたかもしれない。
だから想一の部屋を通るとき、額に汗がにじんでいたのだろう。そう、想一が部屋を換気して起きていたから。
おそらく、水尻夫人は事前に室内の換気を塞いでいたと思われる。
実際、想一は頭をくらくらさせていた。ストーブをがんがん焚いていたからだ。
辻井も帰宅してストーブをつけたはず。一酸化炭素は無臭だから気付けない。で、彼は意識を失った。
本当は想一も彼と同じように意識を失っているはずだった。
想一が部屋を開放していて、さぞ焦ったのではないか? 水尻夫人は。
でも、このタイミングを逃すわけにはいかない。
水尻夫人は合鍵を今持っていないふりをし、なんども辻井の部屋をノックした。想一から合鍵をもらい、まず自分が先に駆けつける。意識を失ってる辻井を風呂場まで運び、シャワーを出しっぱなしにした。あとはポケットに仕込んでいたカミソリで手首を切り、浴槽に放置したのだろう。ここぞとばかりに悲鳴を上げ、想一たちにも死体を発見させたのだ。
アトリエの密室も水尻夫人なら犯行は可能だ。
洋館から母屋へ通じる扉の合鍵も作れただろうし、アトリエに付けられた頑丈な南京錠だって、鍵師に依頼すれば合鍵を作ることができる。
想一が尋ねたとき、鍵屋の主人は云っていた。鍵穴からでも物によっては合鍵を作れると。ただし、犯罪防止として信用のおける人物に限ると。
水尻夫人は館の管理人だ。つまり信用に足る人物といえる。
生前の佐和子は三味線の稽古でよく不在にしてたし、想一もよく行きつけの喫茶店で不在にしてた。
合鍵を作る隙はいくらでもあったということ。
猫の頭を潰したり、ポストにガラスを仕込んだり、はたまた母屋に放火して佐和子を殺したりと、とても老婦人がやったとは思えないが、水尻夫人しか考えられない。
ちなみに今、想一が話してる相手——希早子は、もしかすると佐和子と血縁関係にあるのかもしれない。
二人は同じ白檀の香りを放っていたからだ。それに名前もどことなく似ている。
想一とは一回しか会っていないのに佐和子の焼香をしに来ていたから、どうも怪しいとは思っていたけど、血縁なら納得だ。

想一を産んだ実母(美和子)と育ての叔母(沙和子)と何かしらの繋がりがあるかもしれない道沢希早子。
彼女は大学で務めている架場の頼みで、夜遅くまで研究室で仕事をしていた。
一月二十八日、すでに深夜零時を過ぎている。
架場から送ろうかと提案されたが、まだ彼の仕事は終わってないようなので希早子はそれを断った。
だが、今はそれをとても後悔している。
大学から自宅へと帰路につくあいだ、ずっと誰かに尾けられているような気がするのだ。
暗い夜道となると、いつも通る帰り道ですら怖しいと感じてしまう。後ろからずっと誰かの足音が聞こえるなら尚更だ。
不安と焦りに駆られながら、希早子は疏水沿いの道にまで進んでいた。
去年、子供の他殺死体が見つかった場所で、まずいと思い、慌てて踵をかえそうと——
すると、黒い人影が目に入ってきた。
襲われる。そう思い、駆け出した。が、足を躓き、アスファルトに転んでしまう。
恐怖で声も出ず、動けなかった。
人影に硬い棒みたいなもので殴られる。
このままでは……と諦めかけたとき、誰かが割って入ってきた。
床に置かれたものは、白い片腕。思わず竦み上がる。
助けてくれた人は、なぜか希早子の名前を知っていた。
彼は名乗った。僕は島田です。島田潔です、と。
やっと登場したか。
もう解決編だぞ。
彼が窮地に陥るところも見たかったのに、それは期待できなさそうだ。
しかし、島田も正攻法で水尻夫人が犯人だと言っていたのに、それを撤回してしまった。
まだ犯人である可能性は十分あるのに。ちょっと納得できない。
この謎を解くヒントは中村青司にあると今更言ってきた。
隠し通路があるはずだと。
そうなると容疑者が増えてしまう。外部犯の可能性だって出てくるのだから。
例えば地下を通って部屋を移動していたとかね。
仮に隠し通路で密室の部屋を出入りできたんだとしたら、一番怪しくなるのは盲目のマッサージ師——木津川伸造なんじゃないのか?
犯人は二十八年前のもう一つの殺人のことも知っているようだった。川に男の子を溺死させた事件のことを。
だから辻井が狙われたのだ。
となると、まだ二十六歳の倉谷誠にそれに当たる動機があるとは思えない。
あるとすれば、五十代の木津川ぐらいしか残らない。
いや、もうひとりいる。想一の小学生の頃の幼馴染——架場久茂。
犯人はこの二人のうちのどれかだろう。
でも、なぜ希早子を狙ったのか?
秘密を知られた? 恋のもつれ?
だとすると、架場久茂がもっとも有力候補になりそうだ。
【刺激された感情の種類:7種】
幸福系☺️:★
喜=思いがけずに恵まれた状況 😲(1)
驚嘆系😳:★★
驚=後から知る意外な事実😳(1)
呆=期待とは違った興醒めさせる展開😶(1)
思考系🤔:★★★★★
謎=不可解な問題が提起される🤔(3)
察=ヒントから展開の予測がつく🤔(1)
推=事件の謎を解く手がかりを得る🤔(1)
恐怖系😣:★
怪=言動に違和感を覚える様子🤔(1)
全体を通してのプロット
【舞台設定】

一九八七年七月、育ての母である佐和子と共に、三十四歳の想一が静岡を発ち、京都に構える亡き父の人形館に越してくる。
和風の古い平屋に二階建ての洋館が繋がった珍しい館で、管理人の水尻夫妻と間借り人の三名が緑影荘で暮らしている。
想一と佐和子は、去年自殺した飛龍高洋の遺産を相続したのを契機に、母屋に二人で住むことにした。
二十八年前から彫刻家の父と疎遠になっていた想一は、高洋の意外な趣味に驚かされる。
館内の各所に、体の一部が欠けた女性のマネキン人形が置かれていたのだ。
なぜか父の遺言で人形を動かすことは禁じられている。
八月に入り、想一は行きつけの喫茶店を見つけていた。
テーブルに置かれてあった誌面に『北白川疏水に子供の他殺死体事件』と書かれていて、発覚したのが昨日だった。
九月、また子供を狙った殺人事件が起きた。前回と手口も一緒。この京都に連続殺人犯が身近に潜んでいる。
想一は、この子供殺しの事件を知って以来、たびたび不穏な気配や物音を寝室で感じるようになっていた。
【問題発生】
想一は、不完全なマネキン人形が二十体以上も放置されていた土蔵を趣味のアトリエに使っていたのだが、そのうちの一体が何者かによって移動されているという奇妙な事件が起きる。その一件で想一は、アトリエに頑丈な南京錠を付けて、館に住む住人を警戒する。
【問題拡張】
また人形館で奇妙な出来事が相次ぐ。
施錠してあったアトリエの中を何者かに荒らされてしまう。
想一が母屋の火事に巻き込まれる。
【試練の時】
島田に相談した想一は、容疑者候補に探りを入れてく。
想一が人形館に配置されているマネキン人形の秘密を探る。
犯人からの脅迫は続き、後日、人形館の住人一人が亡くなってしまう。
【解決手段】
想一から救済を求められた島田潔が人形館を訪れ、一連の犯人を集めた住人の前で明かす。
読了した感想
◆推理小説としてはイマイチでした……
とういうのは可能性の排除が出来てなかったからです。
他の容疑者でも事件の再現は可能だった。
これは推理系ミステリーではなく、エンタメ系ミステリーですね。
容疑者たちのタイムスケジュールとか役に立たないので、きっちりメモする必要はなし。
◆アンフェアと感じてしまうオチ
過去の作品『十角館』『迷路館』は、ちゃんと筋の通る叙述トリックでどれも感銘を受けましたが、今回はちょっとなぁ〜という釈然としないオチです。
読者を驚かせたいという狙いは成功しているものの、地の文で嘘を書かれていたら不満のほうがつよく残ってしまう。
ある登場人物の名前を使用し、さも登場しているように扱う描写。最後にその人物は最初から存在していなかったと明かされても、いやいや……ってなるでしょ?
なんか、こんなにも見せられといて、結局『夢』だったんかい! ってなる作品に遭遇したような気分でありました。
◆白けてしまう演出
こういうミステリーって、犯人は誰なのか? っていう謎を徐々に解き明かされていく楽しさをつい期待してしまうじゃないですか。
今回の『人形館の殺人』に並行して起きていた児童連続殺人事件も同じように期待していたのですが、後半でいきなり正体を明かしちゃってるんですよ。
えっ、そんな簡単にバラしちゃうの?
なんか、マジックショーを楽しむまえにタネを教えられてしまった感覚です。
いきなりで驚きはしましたけど、呆然状態でした。
そこはもっと良い演出があったと思うんですよね〜、例えば、犯人じゃないと知り得ない情報をセリフで漏らしてしまうとか、証拠品が思わぬところから発見されるとかで、読者にも推測させるような描写が欲しかったですね。
◆『館』シリーズの面白かった順
一番:『十角館の殺人』
離島と本土を分けた視点の見せ方で、最後の衝撃は忘れらない傑作です!
二番:『迷路館の殺人』
次々と不可解な死を遂げる参加者たちの謎。また、舞台が迷路という斬新な設定が面白い!
三番:『水車館の殺人』
こんな自分でも推理できてしまった難易度低めの殺人事件。過去と現在を何度もカットバックさせながら真相に行き着きます。
最後:『人形館の殺人』
まだ四作品しか読んでないのですが、今のところ最下位です。
『人形館の殺人〈新装改訂版〉』
綾辻行人(著)
講談社
2010年8月12日発売
全378ページ




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