サスペンス・ミステリー

ファラオの密室(感情トリガー/紹介/あらすじ/感想)

前半のストーリー

(前略)紀元前1300年代後半、古代エジプト。死んでミイラにされた神官のセティは、心臓に欠けがあるため冥界の審判を受けることができない。欠けた心臓を取り戻すために地上に舞い戻ったが、期限は3日。ミイラのセティは、自分が死んだ事件の捜査を進めるなかで、やがてもうひとつの大きな謎に直面する。棺に収められた先王のミイラが、密室状態であるピラミッドの玄室から消失し、外の大神殿で発見されたというのだ。この出来事は、唯一神アテン以外の信仰を禁じた先王が葬儀を否定したことを物語るのか?タイムリミットが刻々と迫るなか、セティはエジプトを救うため、ミイラ消失事件の真相に挑む!浪漫に満ちた、空前絶後の本格ミステリー。(後略)
UNEXT

冥界から蘇ったミイラのセティは、
現世で自分の心臓を盗んだ犯人を探す。
関わるエジプトの消滅を阻止するため、
仲間と共に王墓の遺体消失の謎も追う。

◆登場人物
セティ……ある理由で一時的に現世へ戻るミイラ
タレク……ミイラ職人。セティの親友
カリ……エジプト人の奴隷で働く異国の少女
メリラア……神官を束ねる老齢のエジプト神官長
アクエンアテン……一年前に病死した先代の王
トゥトアンクアテン……先代の子であり、現在の王
マアト……冥界に存在する真実を司る女神

『ファラオの密室』
白川尚史(著)
宝島社
2024年1月9日発売
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感情トリガーとあらすじ、場面

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【感情のトリガー↓】0~229P(スマホ)
①消失と工作【
②奴隷の異人【
③暗殺の黒幕【

【トリガーの内訳】
①消失と工作(王の遺体が消え、崩落事故に謎が残る)
 ├遺体の消失【謎】(ナゾ)
 └工作不可能【謎】(ナゾ)
②奴隷の異人(少女がエジプト人に扱き使われる)
泥棒の黒幕【察】(マサカ…)
③暗殺の黒幕(セティの暗殺を目論んだ人物の名が出る)
 └太々しい女【怒】(コノヤロー)

【刺激された感情の種類:3種
思考🤔:★★★
 謎=行動や現象に不可解を残す(2)
 察=ヒントから展開の予測がつく(1)
攻撃👊:★
 怒=今蔑まれた反射的な衝動(1)

①消失と工作【謎・謎】

あらすじ——
葬送の儀、当日、
王墓の石室に神官団が集まり、
亡き王を冥界へ送る儀式が行われていた。
が、神官の長であるメリラアは、
密かに復活の儀式を進行する。
多神教を否定する先王が蘇らせ、
その息子である現王を説得させることで、
アテン信仰を廃止させるのが狙いである。
儀式の終わり頃、
最後のお別れに訪れた8歳の現王と共に、
メリラアは王の棺のなかを確認する。
その中に入っていた先王のミイラが、
別の場所で見つかるという事件が起きる。
 ※
現世から冥界へ渡っていたセティは、
自分の死に際の記憶がなかった。
そのまま死者の審判を受けることになり、
セティは真実の女神マアトと対面する。
楽園行きか永遠の死かの瀬戸際で、
セティの審判が中断する。
正式な審判をしてもらうため、
セティは現世へもどり、
期日までに自分の心臓を探しまわる。

遺体の消失【謎】

これまでの神々を否定したエジプト王——
アクエンアテンが、新たな信仰を宣言し、
たみらに改めるよう強制していた。
太陽神ラーの存在を否定されてしまい、
立場が危うくなっていた神官のおさメリラアは、
ある謀略を試みようとする。
すでに亡くなったアクエンアテンを復活させ、
アテンへの信仰を廃止するよう宣言させる。
それがメリラアの狙いだったのだが、
ひつぎに眠る王のミイラが消えていた場面シーンである。

エジプトにあるピラミッド——王墓の中。

 静かに近づいてきた二人の従僕が、そろそろと石棺の蓋を開けた。
 メリラアは深く息を吸いこみ、ゆっくりと吐いた。そして、棺の中を覗きこみ、予想外の事態に思わず絶句する。
 そこに、アクエンアテンの姿はない。
 つい昨日、ほかならぬメリラア自身がそこに安置した先王の遺体──アクエンアテンのミイラは、姿を消していた。
 (中略)
 先王アクエンアテンのミイラは、昨日運びこまれたときからずっと、メリラア本人が王墓を片時も離れず、夜を徹して守り続けていた。しかしそのミイラは、密室であるはずの王墓から消え失せてしまったのだ。

《前掲書、 P.21》※スマホで閲覧

——なぞ

エジプトを舞台にしたミステリとは斬新。
運び込まれたミイラは偽物で、
実は生きた人物だったのではないか?
布で覆われているから姿を隠せるし、
こっそり隠し通路から脱出したのかも。
でも、なんでそんなことするんだ?
本物の王の遺体を隠すための時間稼ぎかな?
神官長メリラアの計画を知っていた誰かで、
それを阻止したかったのか?
先王の信仰を支持してたのかもしれない。
この偽装ができそうなのはタレクだろう。
先王の遺体をミイラ化にした職人だから。

❷工作不可能【謎】

冥界の真実の神マアトの審判を一時まぬがれ、
セティは現世に数日戻ることを許された。
セティは、自分が亡くなった経緯いきさつと、
自身の失った心臓の欠片かけらを探すため、
墓の棺からミイラの状態でよみがえる。
自分の死から半年過ぎていた地で、
セティは、警察隊のムトエフにたずねる。
死因は、王墓建設中の崩落事故だった。
先王アクエンアテンのピラミッドである。
だが、不可解な点が残っていた。
一部の石が、石灰岩や崗岩こうがんではなく、
くずれやすい砂岩とすり替えられていたのだ。
盗掘路を作っていた疑惑が浮上するも、
その方法に疑問を抱かせる場面シーンである。

 ムトエフは別のパピルスを示した。どうやら、建設に関わった作業員の一覧らしい。日付入りで、人々の名前が何枚にもわたって長々と続いている。
「船夫が関われたのは、花崗岩と砂岩のすり替えまでです。建築の過程は分業化されていますから、そこから先の、石を船着き場で荷降ろしする者、建設現場まで運ぶ者、王墓に積み上げる者、すべて別の班が担当しており、介入はできません」

《前掲書、 P.75》

——なぞ

犯人は、どうやって砂岩を仕込んだのか?
全員を買収するのは難しいとムトエフは言う。
が、幾多の神々が存在し、
セティが蘇っても驚かれない世界である。
みんなを操れる能力があるとか、
突飛な発想もありな気がしてならない。
推理の幅が広くて絞るのが困難。
犯人が神様って答えもありえるからね。

②奴隷の異人【察】

あらすじ——
葬送の儀の前日、
現世の棺から蘇ったミイラのセティは、
自分の死の経緯を確かめるべく、
神官長、その次に警察隊員を訪ねる。
原因は王墓の崩落事故によるもので、
発見された遺体には、
胸にナイフが刺されていた。
事故から他殺の可能性が浮上し、
セティは、関係者の処を転々とする。
 ※
奴隷の少女——カリ。
葬送の儀の二日前、
エジプト人に攫われたカリは、
王墓の石運びに粉骨砕身であった。
数十人で組まされているその班は、
他の班よりも一番成績が悪く、
労賃となるパンの数を減らされていた。
今回もパンの数を四つから三つに減らされ、
カリは、それを主人の下に捧げる。
主人から僅かのパンしか与えられず、
カリは、それを連れの犬と口にする。
が、空腹に耐えかねたカリは、
主人の部屋に忍び込み、パンを盗む。
帰宅後、そのことが主人にバレてしまい、
カリは厳しい体罰を与えられてしまう。

泥棒の黒幕【察】

肌の白い異国のカリ、華奢な女の子。
王墓の石を運ぶ奴隷として、
少女はエジプトで働かされていた。
自分の班の作業遅れが影響してか、
報酬であるパンの数が少しずつ減らされている。
カリの主人とその母が管理しているため、
働いている当人に十分なパンは与えられない。
空腹の限界に迫っていたカリは、
主人が部屋に隠しているパンを盗んでしまう。
その日の作業から主人の家に戻ったカリは、
盗みのことで主人かららしめられるのだが、
その時、思わぬ事実を聞かされる場面シーンである。

「俺は街中のやつに聞いて回った。お前の家の奴隷はパンを減らされているか、と。パンを減らされたものなど、誰もいなかった。どの奴隷も、毎日きっかり、パンを十持って帰っていた」
「わ、私の班は──」カリが慌てて声を上げる。「毎日、石を運ぶのが遅いんです。それで、減らされているんだと思います」
「それも聞いた。パヌトムというやつの班だろう」アミが低い声で答える。「酒場にいたマレが言っていた。あいつの奴隷もパヌトムの班だが、毎日パンは十受け取っている」
「──え?」カリの声が、動揺で裏返る。「まさか、そんなはずが」

《前掲書、 P.152~153》

——まさか……

同じ班の奴隷で女のアイシャがくすねてた?
まるまると太った力強い女で、
カリは、労賃の受け取りを彼女に任せていた。
エジプト人と話すのが苦手だったためだ。
友達であるはずのアイシャが、
まさか裏切っていたなんて……。

③暗殺の黒幕【怒】

あらすじ——
葬送の儀、当日——
現世で父とも再会を果たしたセティは、
墓を管理している墓守を訪ね、
自分の墓の訪問者を確認する。
その後、
崩落事故事に一緒にいた仲間を訪ね、
心臓を盗んだ容疑者として連行する。
セティは、容疑者を詰め所に引き渡し、
暗殺を依頼していた人物の名を聞かされる。
その人物が牢へと連行されてきて、
葬送の儀式が失敗したことを知らされる。
神アテンの使徒達による神官狩りが始まり、
セティは、身を隠すために逃亡をはかる。

太々しい女【怒】

異国奴隷の少女——カリは、
こっ酷く主人の鞭打ちを浴びせられ、
唯一の友達である犬を殺されてしまった。
他の奴隷達は、パン10個貰っているのに、
カリだけ毎回持ち帰るパンの数が少なく、
陰で盗んでいると思われたからである。
カリは、その事実を知って思いを馳せた。
まさか……と、思い当たる節がある。
翌日、本人に直接訊ねていた場面シーンである。

「バカだねえ。そんなこと、知らなきゃよかったのに」
 アイシャはそう言って、愉快そうに笑う。出会ってからずっと、こんなアイシャは見たことがなかった。
「知りたいんなら教えてあげる。あたしたちがもらえるパンはずっと十個。パヌトムの班でも、それは変わらない。あんたもその木札を直接持っていけば、十個もらえるよ」
「でも、私は三つか四つしかもらってなかった。その残りは……」
「ごちそうさま」アイシャはお腹に手を当て、大きな体を震わせると、愉快そうに笑った。「美味しかったわ。ビールもたっぷり飲めたし。毎日ありがとうね」

《前掲書、 P.162》

——コノヤロ

仲間を裏切り、蔑み、皮肉で侮辱するとは。
アイシャが冥界でマアトの審判を受けたら、
間違いなくアメミットの餌食だね。
そうであってほしい。

感想(前半)

◆読むと止まらない興がある

それは二つのミステリ。
王墓で葬送の儀が行われていた中、
密室に近い状態でファラオ遺体ミイラが消失していた。
もう一つは、
冥界で神の審判を受けていた男が、
ある事情で現世に一時的に戻るのだが、
いったい、誰が彼の心臓を盗んだのか。
この二つが起点となって物語は始まります。
舞台は紀元前のエジプト。
先王アクエンアテンの宗教改革が発端となり、
大きな事件へとつながっていきます。
主人公は、おそらくセティという男でしょう。
王墓の崩落事故で亡くなった人物——
ついでに心臓も盗まれていたせいで、
女神マアトの死者の審判を一時的に免れ、
現世で自分の心臓を探す調査が始まります。
エンタメミステリって感じではまりますね。
まだ、真相は謎のまま。
果たして、セティは間に合うのか?
現世にいられる時間は限られている。
後半が楽しみです。

後半の感情トリガー

【感情のトリガー↓】229~465P(スマホ)
①友情と疑念【
②使徒の露顕【
③真実の審判【

【トリガーの内訳】
①友情と疑念(二組の友情に各々、葛藤が生じる)
 ├妙なこと?【謎】(ナゾ)
 └友人の行動【呆】(ッ⁉︎——)
②使徒のけん(工作してたアテンの使徒が判明する)
 ├毎日のこう【訝】(ハ?)
 ├王墓の封緘ふうかん【呆】(ッ⁉︎——)
 └運び出し方【慮】(コウシタラ)
③真実の審判(冥界に戻れたセティの審判が行われる)
 └セティの嘘【驚】(エッ⁉︎ イガイ)

【刺激された感情の種類:6種
驚度😳:★★★
 驚=予想外の出来事(1)
 呆=突然で呆気にとられる(2)
思考🤔:★★★
 訝=疑問を抱かせる言動や描写(1)
 慮=悪い状況の打開策を考察(1)
 謎=行動や現象に不可解を残す(1)

全体を通してのプロット

A人物・世界観の説明
①エジプトの先王アクエンアテンが亡くなり、
 王墓で葬送の儀式が行われている
②なぜか先王の遺体が棺から消えており、
 神官団に謀反の疑いがかかる
③葬送の儀が行われる前日——
 自分がなぜ死んだか不明のセティが、
 冥界の法廷で神マアトの審判を受ける

a物語が始まる起点・問題
セティの心臓が欠けていたせいで、
 審判を進行することができない

B発生した問題への対処
①三日以内に自分の心臓を取り戻すため、
 セティが期限つきで現世に蘇る
②蘇ったセティが、関係者を訪ねながら、
 自分の死んだ経緯と心臓の行方を追う

b問題の広がり・深刻化・窮地
①セティが亡くなった崩落事故に、
 意図的な事件性が浮上する
②セティは、王墓崩落事故の真相を確かめに、
 関係者達から聞き込みをしていく
③葬送の儀、二日前——
 異国の奴隷である少女カリが、
 崩落後の王墓の建設にも関わっている
③葬送の儀、当日——
 先王の葬送の儀が失敗したせいで、
 王を冒涜した神官狩りが始まる
④神官書記だったセティも、
 アテン信仰派から追われの身となる

C人物の葛藤・苦しみ
①復活した親友セティの身が危なくなり、
 ミイラ職人のタレクは、彼の捜索を始める
②タレクは、王墓建設に関わっていた——
 奴隷の少女カリと出遇い、
 崩落事故を装った犯人の痕跡を一緒に追う

c問題解決に向かう最後の決意
★アテン派に拘束されていたセティが、
 心臓の在りかを教えてもらう
★セティは、冥界に戻る前に、
 現王を説得して、エジプトを救う決意をする

D問題解決への行動
①ピラミッドに閉じ込められたセティが、
 巻き込まれたカリと一緒に熟考し、
 先王が消えたやり方と同じ方法で脱出する
②冥界に戻れたセティが、
 女神マアトにエジプトの事後を訊ね、
 審判の場で最後の告白をする

読了した感想

◆伏線回収がお見事です!

序章に登場するミイラ職人——タレクの、
セティに対する意味深なつぶやきが、
まさか、そのことを指していたとは。
はじめ、読んでて、
「あれ!? 僕の苦手なジャンルかな?」
と、不安に煽られましたが、安心しました。
でも、全くの想定外で、驚きでしたね。
白川先生の隠し方が上手いということ。
密室のカラクリや、石運びの不可解も、
納得の回収でありました。すばらしい。

◆エジプト文明の面白さが魅力的!

全ての譚が想像なのではなく、
ちゃんと古代文明を調べているため、
それらしい世界観が想像できちゃいます。
ピラミッドの作られ方だったり、
当時の働かされていた奴隷達のすがた。
死人をミイラにする目的の考え方、
ただ面白いだけでなく、勉強にもなります。
彼らにとって、肉体の死は終わりではなく、
別の世界で、ずっと生きていくものなんだと。
ただし、嘘をつかず、善良に生きていないと、
冥界の審判で獣に喰われるという、
恐ろしい話もあったりします。
ほんと、面白い文明ですね。

◆アテンの使徒達は、なぜ……

読み終えて疑問に残るのはここ。
アテンは人類にとって良い神ではなく、
むしろ世界を滅ぼす邪悪なもの。
しかし、先王はアテンを唯一の神とし、
多神教を否定しておりました。
真実を知ることなく亡くなってしまい、
その思想は、息子の現王に受け継がれます。
多神教派のメリラア神官長は、
なんとか現王を説得しようとしましたが、
アテン派の使徒によって阻まれます。
では、使徒らは多神教を信じていなかったのか?
否、全員ではないと思います。
一人は確実に多神教を認めておりました。
それでも、アテン信仰を曲げなかったのです。
なぜ、世界を滅ぼそうとしたのか?
その動機や背景が知りたかったですね。

ファラオの密室
白川尚史(著)
宝島社
2024年1月9日発売
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